第266話 上り坂の多い街ーストーリー

 アメリカのサンフランシスコは坂が多いことでで有名。まあ、実のところ港町ってだいたい坂が多いらしいのですけどね。日本だと長崎とか佐世保とか横須賀とか。

 で、「じゃあサンフランシスコには上り坂と下り坂どっちが多い?」ってジョークがありまして。

 一つの坂を上るのも下るのも出来るんだから、同数に決まってるだろというのが真っ当な答えです。


 でも、真っ当なものに反する事を考えるのが創作ネタの作り方。

 上ることは出来ても下る事の出来ない坂があれば、上り坂が多いと言っていいですよね。

 なんで下れないかと言えば、やはり違う世界に行ってしまうからでしょう。

 上りだと天国、下りだと地獄っぽい感じがありますね。

 個人的には下って地獄行きは『欠けた鳥居の話』で書いちゃったので、次に書くなら上る方かなぁと。

 単純に天国に行くよりはもうひとひねりしたいところですが。


 あるいは、人生を坂に例えてみるか。


※※※


「サンフランシスコには坂がたくさんあるけど、上り坂の方が一本だけ多いって知ってたかい?」

 バーで隣に座った男が、唐突にそんな話を振ってきた。

 自己紹介も無しにぶしつけな、と思ったが、暇なので乗ることにした。

「へぇ。どんな坂?」

「俺の人生さ。最近、何もかもが上手く行ってる。事業も順調、身体も好調。それに、こうして美人とバーで出会えた」

 男が向けてきたグラスに、こちらのグラスを合わせてやる。

 チンという音が消えるまで考え、ちょっと意地悪に返す。

「なるほど。でも今は良くても、いつか下り坂が来るんじゃない?」

「無いね」

 そう言い切って、男は酒を飲み干し、グラスから手を放す。

「もし俺が上手く行かなくなったとしたら、その時は下り坂なんてもんじゃない。地獄の底まで真っ逆さまだ」

 床に落ちたグラスは、乾いた音を立てて儚く割れた。


※※※


 ……なんだろ、悪魔と契約した人かな?


 卑近なところに戻っちゃいますが、今の家の近くにあるショッピングセンター、1階から2階に行くエスカレーターがあるのですけど、2階から下に降りるエスカレーターは無いのですよ。2階に上がるとエレベーターか階段で降りるしかない。

 ある意味で「上ることは出来ても下る事の出来ない坂」なのかも。エスカレーターは坂っぽいけど、エレベーターや階段は明らかに坂ではないわけで。

 まあ所詮はエスカレーターなので、スイッチ一つで逆回転も出来るし、頑張って動きに逆らって下ることも可能ではありますが……

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