第263話 狐狗狸様使役ノ法ー魔法

 狐狗狸様とは「こっくりさん」のこと。

 実は私はこっくりさんを仕事に応用しているのです。

 今日は特別に、皆さんにもその使い方をお教えしましょう。

 誰にでも使えるし、全く危険はありません……


 ※※※


 「胡散臭い!」と思われたかと思いますが、上記は事実であり、嘘は書いておりません。

 怪しい雰囲気を出すように言葉を選んではおりますが。


 「こっくりさん」は降霊術の一種とされます。五十音や「はい」「いいえ」などを書いた紙の上に硬貨を置き、参加者全員がそれに人差し指を添えて質問をすると、やってきた霊が硬貨を動かして質問に答えてくれるというもの。

 令和の今にどれほど子供たちが知っているのかは分かりませんが、昭和末期~平成初期の頃には小学生の常識的オカルトであり、「こっくりさん」を間違った方法でやって憑りつかれたなんて怪談がまことしやかに囁かれておりました。

 欧米においてもテーブル・ターニングとかテーブル・ムービングとか言われる小さなテーブルが動く降霊術が19世紀ごろにかなり流行ったそうです。それが日本に持ち込まれて、紙と硬貨を使う形に変質したのが「こっくりさん」。


 その原理も概ね分かっており、日本だと明治時代の妖怪博士、井上円了氏の考察が知られています。

 イギリスにおいては電気系に大きな業績を残した物理学者にして化学者ファラデーが井上氏より早く論文にまとめています。

 どちらも、予期意向と不覚筋動が「こっくりさん」の正体だという結論。

 つまり、筋肉は完全に止まっている事が難しいので、本人は動かしていないつもりでもわずかな動きが発生するのはごく普通の事。

 それがたまたま参加者にとって意味がある方向に動くと、そちらに意識が向いてさらに動きが加速されると。

 ゆえに、参加者の誰かが答えを知っている質問に関しては正答率が良いのですが、誰も知らない質問だと正答率が下がったり、そもそも答えが出なかったりするわけです。


 私はこれを微調整が必要な機械を動かすときに応用しています。

 毎分3000回転するような機械で「あと10回転だけ上げたいんだよなー」って時があるのですね。

 ツマミをひねって回転数を調整するのですが、3000回転分がツマミの回転で120度分ぐらい。10回転上げるにはツマミを0.4度だけ回す必要があります。

 そんな微調整、私には難しすぎるのです。意図的に回すとどうしても50回転ぐらい上がってしまう。

 なので、ツマミをしっかり持って「動かすつもりはないんだけど、ちょっと上がんないかなー」と思っていると、うまく10回転ぐらい調整できるのですね。

 私の無意識の筋肉の動きが、ごくわずかにツマミを回してくれるわけです。

 最初に述べた通り誰にでもできる、全く危険も無い方法ではあるのですが、あえて使う必要があるかどうかは微妙ですね。

 古い機械を使ってるから人力微調整が必要なのであって、新しいものは目標の回転数を入れれば自動的に調整してくれますし……


 こんな風に科学的な説明がついてしまってるこっくりさんですが、創作的には本当の霊の仕業であることが多いわけで。

 その文脈だと、私はこっくりさんを使役する霊能力者ということに!?

 ちゃんとした霊を呼び出して「ツマミをちょっとだけ回してください」なんて頼んだら、それこそ呪われそうですけど。

 逆に、呪うほどの力が無い弱い霊を寄せ集めて、日常のちょっとした補助をさせるような魔法が「狐狗狸様使役ノ法」なのかもしれません。

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