第232話 デジタルイレーサーーストーリー
私が工場勤務だったころの話。
私の部下の新人がその日の仕事で共用のデジカメを使いました。デジカメを持ち出すときはホワイトボードに使う人の名前を書いておくのがルール。
新人が帰ろうとするときに、ホワイトボードの名前が消えていなかったので、デジカメをちゃんと返したかを聞いたところ、
「デジカメは返したんですけど……」
ともじもじ。
この時点で、何が起こったかは大体察しがつきました。
「書いた字が消えなくなった?」
「はい……」
「現場から洗瓶とってきな」
パタパタと現場に向かう新人を見送り、残った私は上司と「彼もウチに馴染んじゃったな」と笑い合うのでした。
ピンとこない方が大半だと思うので解説を。
一般には、油性ペンって消えないものだと認識されてると思います。
簡潔に言うと、油性ペンの色の成分が水には溶けないから消えないんですね。
でも化学系ですと、そういう成分を溶かせる油性の溶剤を大量に使っていたりします。
よく油性ペンを消すのにマニキュアの除光液がいいなんて言われるのですが、そのお仲間です。
つまり、化学系の人にとって油性ペンは消せるものなのですね。
新人君も油性ペンは消せるものというノリに馴染んでしまったので、ホワイトボードマーカーの代わりに油性ペンを使ってしまい、消せなくなったわけですね。
よって、現場から溶剤の入った洗瓶を持ってくれば全て解決。
消せないで困るというと、最近だとデジタルタトゥーでしょうか。
要するに、ネット上に挙げてしまった若気の至りがいつまでも残り続けるというやつですね。
消せないものを消せる、溶剤のようなスーパーハッカー、あるいは特殊能力者とかが創作のネタとして使えるかもしれません。
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