第225話 スラングの使い方ー創作論
ネットニュースで流れてきた、ちょっと面白いやり取り。
工場にて機械のネジを壊してしまった後輩社員が、先輩社員に報告したところ、
「なめてんの?」
と返されて、すみません……と小さくなってるところをみた、というお話。
先輩こわーい、と思ってしまう方も多いかと思いますが、そして後輩君はそう感じちゃってるわけですが、違います。
ネジがなめるというのは、ネジ穴が潰れてしまうこと。こうなると、ドライバーとちゃんとかみ合わずに回せなくなってしまいます。
つまり、先輩の意図は『ふざけてるのか?』ではなく、『ネジ穴が潰れて回せなくなったのか?』なんですね。
ネジがなめちゃうことは作業によってはよくある事ですし、なめて回せなくなってしまっても対策はいくつかあったりします。それ専用の工具も売ってるぐらいですし。
私は大学院時代に計算機化学をしていたので、プログラムの世界にもちょっぴりつま先を浸したことがあります。
プログラム界隈では強制終了のコマンドがKillなんですね。だから、日本語で話してても強制終了を「殺す」という事が多いのです。
なので、「子供全部に殺してからじゃないと親を殺せないでしょ」なんてアドバイスが出てきたりするわけです。
一家皆殺しの話なんてしてないですよ。
『サブウィンドウを全部終了させないとメインウィンドウを終了できないよ』と教えてるだけです。
今のお仕事でも、「粘度が20以上になるように殺しといて」なんて作業指示をすることがあります。
製品の中に、時間がたつと粘度が上がって使えなくなっちゃうタイプのがあるのです。それがまだ粘度が低くて使える期間をライフと呼ぶのですね。
時間がたつとライフがなくなるので、そうなると『死んだ』と表現します。
熱をかけると早く粘度が上がる、つまり意図的に『死んだ』状態にできるので、これを『殺す』と言っちゃうわけで。
色々例をあげましたが、つまるところ業界用語というかスラングというか。上手く使うことで、業界のプロっぽい感じが出せると思うのですよね。
単に乱発して「ザギンのシースーが〜〜」みたいなのだと逆にネタ感が出ちゃいますけど。
何より、現実には無い業界の業界用語となると、自分でオリジナルに考えねばならず、それを読者に説明しないといけないわけで。
手間がかかる割には得られるものが少ないようにも思います。
説明しなくても読者が何となく意味がわかるような上手い業界用語を考えるか、その業界用語自体がその作品の鍵になるような要素にしてしまうか……
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