第173話 勇者様のワークライフバランスーストーリー

 試練を潜り抜けた勇者の仲間たちは、神々から虹色に輝く光の玉を受け取った。

 しかしただ一人、勇者だけは神々の前に進み出ようとせず、ただ立っている。

「どうした? 選ばれし勇者よ」

「俺は、選ばれたから戦うのか?」

 彼はこの世界で生まれた訳ではない。元の世界ではただの高校生で、戦う力はこの世界に召喚されて与えられたものにすぎない。でも、それでも。

「違う。さらわれた友を取り返し、元の世界に帰るために戦う。だから、君らに選ばれて『勇者』になる気は無い」

 そういうと、少年は踵をかえす。

 神々と仲間たちに困惑と落胆が広がる、その瞬間。

「だが……」

 少年は立ち止まり、右手を上げる。

 5本の指を軽く曲げた、これから何かをつかみ取る形。

「共に戦う協力者は歓迎しよう」


 昔、TRPGでPC1、つまり主人公的立場のキャラをプレイした時の場面です。記憶だけで書いてるので、細部は適当ですが。

 不遜で勝ち気なキャラだったので、神ですら『頭を下げて拝命する相手』ではなく、『互いの目的のために利用し合う対等な同盟者』としたわけです。ラスボスを倒してもね、ヒロインと元の世界に帰れないなら意味ないんよ。


『神に選ばれた勇者』でまとめようとしていたGMには悪いことしたなと思いますね。

 何度も一緒にプレイして、これぐらいは合わせてくれる相手だと分かった上でのお遊びなので、安易に真似るのは非推奨です。


 一昔前にちょっと捻った勇者と魔王モノが流行った時代があったわけで。

 ちょっとひねるので、魔王の方にスポットが当たる事が多く、勇者の方は『勇者である』こと以外の軸がないキャラが多かったように思います。

 悪役やってもらうにはその方が都合がいいって事情もあるかと思います。魔王を倒すことだけが目的だと、「魔王を倒すためには何をやってもいいよね」とか「魔王を倒しさえすれば何をやってもいいよね」とかができるので。


 しかし、ちょっと落ち着いて考えると「特定の他者を打ち倒すことだけが人生の目的である人」ってちょっと不健全な感じがします。

 勇者も「勇者はあくまでお仕事。本当にやりたいことは別なんだよね」というワークライフバランスでもいいんじゃないかなと思ってみたり。

 その意味では、ドラクエ7の主人公なんかいいですね。世界を救った後、父の後を継いで漁師をやる。ゲーム中つける職業に海賊はあっても漁師がないのはこの為なのかなと考えてみたり。

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