第14話
「なぁ、お前が美紀じゃないっていうなら、美紀は今どこに居んだよ?」
困惑した表情で、どこか縋るような眼をしている。声も少しだけ震えている。
そりゃそうだ。今まで一緒にいた幼馴染みが、実は別人だったなんて受け入れられるわけがない。でも、もしも言ってることが本当なら、幼馴染みはどこにいるのか、無事なのか。たくさんのもしもを考えてしまって、不安にもなるだろう。
当事者のわたし自身、今でもこれが夢だったらって思っちゃうし、ここに居ない美紀ちゃんはどこにいるのか?元気でいるのか?なんて色々と考えてきた。
直矢君も、同じ状態なのだろう。
でも、今のわたしでも分からないことだらけだから彼の疑問に答えることは無理だろうなぁ。
「ごめんね、当事者のはずのわたしでも今のこの状況がよくわからないの。なんでわたしが美紀ちゃんの体の中に居るのか、美紀ちゃんが今どこに居るのか……。何にも分からないの。だから、とにかくわたしが元の体に戻ることができれば美紀ちゃんが戻ってくるかも、って思って色々と調べてるの。」
わたしの言葉に納得がいかないのか、困惑していた表情から段々とこちらを疑うような表情へと変わった。眉間にしわが寄ってるし、何よりも今まで
覚悟はしていたけど、やっぱりこれまで優しくしてくれていた直矢君にこんな目を向けられるのはつらいなぁ。
いや、それだけ彼が美紀ちゃんを大切に思ってるってことだよね。わたしだって涼介くんに何かがあったら、きっと冷静でいられないと思う。うん、自分に置き換えたらって考えただけで悲しい気持ちでいっぱいになるや。
直矢君の態度は当然なことだけど、それでも今のわたしには彼しか頼る当てがない。だから、どうしても直矢君に手を貸してもらわなければ……。
「わたしも、どうにかして元居た場所に帰りたいの。少なくとも、わたしがここに居る限り美紀ちゃんは戻ってこれないだろうし……。だから、わたしが元の世界に帰るためにも君の力を貸してほしいの。現状手掛かりは何にも見つからないし、役に立ちそうな魔術も見つからなくて……。」
「……知るかよ。」
「え……?」
「お前の状況なんか知るかよ!!なんだよそれ、意味わかんねーよ!異世界?魔術のない世界?そんなのあるわけねーだろ!なぁ、これドッキリか何かだろ?さすがに笑えねーよ。騙すならもっとましな嘘にしろよ。な?」
「ち、違うよ。嘘なんかじゃないよ。わたしは美紀ちゃんじゃない、まったくの別人なの。」
受け入れたくない、とでも言うように捲し立てられる。こちらを睨んでいたはずなのに、目を合わせたくないのか俯くことで顔をそむけてしまった直矢君。そのせいで表情を窺うことはできないけれど、その言葉で彼の気持ちを察することはできた。
そりゃ混乱するよね、受け入れたくないよね。でも、わたしは美紀ちゃんじゃないの。わたしは青沢美紀じゃなくて結川麻衣なの、別人なの。
「お願い直矢君、わたしの話を聞いて。」
「お前が!俺の名前を呼んでんじゃねぇ!そう呼んでいいのは美紀であってお前じゃねぇよ!!」
声をかけても全然話を聞いてくれない。態度からも、その言葉からも強く拒絶されていることが嫌でも分かる。
直矢君は美紀ちゃんの幼馴染みであって、わたしの幼馴染みではない。だけど、まるでわたしの幼馴染みである涼介くんに言われたかのようにひどく心が痛む。
分かっていた。直矢君に受け入れられない可能性が高いってちゃんと思ってた。だからこそ覚悟をしていたはずなのに、すっごく胸が苦しいよ……。
「おねがい……。わたしには直矢君しか頼る相手がいないの……。わたしも元の場所に帰りたいし、一刻も早く美紀ちゃんにこの体を返してあげたいの。でも、わたし一人だとできないの……!」
どうか気持ちが伝わるように。そう祈って声をかけ続ける。つい数分前には見えていた瞳は、今はちっとも見えないし視線も合わない。
両親やクラスメイト達、それに教師達から散々拒絶されてきたの。どうか
わたしの存在を否定しないで……!
「うるさい……。なんでなんだよ、なんで美紀がいなくてお前がいんだよ……!美紀じゃなくて、お前が消えろよ……!!}
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