第11話
「来週期末テストだけど、大丈夫なのか?」
「正直、自信がないデス……。」
直矢君の心配げな声に、肩を落としながら答える。三学期制のこの学校では夏休みに入る前、6月の下旬に期末テストが行われる。しかも科目数が中間テストと違って科目数が増えるし、なにより範囲が広い。一般科目は、まぁ幸いなことにまだ何とかなる、と思う。す、少なくとも赤点は取らずにすむと思うな!
ただ、心配なのはやはりわたしの世界に存在しなかった科目である《魔術学》と《魔力学》の二つだ。
魔術学は魔法陣についてや魔術の理論的なことを学ぶ教科で、魔力学は人が持つ魔力についてを全般的に学ぶ科目だ。魔力も魔術も、どちらともわたしの世界には存在しなかったものだから、他の一般科目のような事前知識がないためわたしが憑依して以降に自力で学ばなきゃならない教科だ。ただ、元の世界に帰るための手掛かり探しと同時並行でこなさなきゃならないので、とっても大変。
直矢君のおかげでなんとか授業についていけてはいるけど、テストとなるとなぁ……。
「現状、授業に遅れないようについていくので手いっぱいだから……。」
「でも記憶喪失にしては吸収が早いし、何とかなるんじゃね?ほら、記憶はなくても体は覚えてるってヤツ。」
お昼ご飯の菓子パンを食べながらあっさりと言ってのける直矢君。気楽だなぁ。わたしとしてはどんな問題が出てくるのか想像がつかないので、不安しかないよ。
はぁ、とため息を吐きつつ冷凍のミートボールを食べる。
直矢君の言う通り、自分が思っている以上にスルスルと知識を吸収することができている気がする。気のせいかもしれないけど、全く知らない学問を特に苦労せずに身に着けることができているので、少なくとも前よりは勉強に苦手意識はないかな。一般科目も復習する感覚だし。
魔術学、魔力学の勉強に一般科目のテスト対策、そして帰る手掛かり探しを同時並行にできてるのって、元々
食べていた菓子パンを完食し、ゴミをパンを入れていたビニール袋の中に詰め込む直矢君。わたしも最後の一口を食べきって、お弁当に蓋をした。
「今の所勉強に問題があるようには見えねーし、気にしなくても問題ないだろ。そもそも、3年ならまだしも、俺達まだ入学したての1年生だぞ?今テストの点が悪くても別に大丈夫だろ。」
わたしを励ますように笑顔を向けてくれる。確かに、直矢君の言う通りだ。わたしではなく美紀ちゃんの体である為少々罪悪感があるが、多少は許してほしい。どうにか元に戻る方法を見つけてみせるからね!
わたしは彼の言葉にこくりと頷き、ベンチを立ち教室へと向かった。
お昼休みが終わって午後の最初の授業は、眠気を誘う科学だった。勿論今やっている範囲もわたしにとっては既に勉強済みだ。
ただ、テストのことを考えるとあまり別のことを考える余裕はない。
板書を取りつつも、ポケットに入れっぱなしだったメモ帳を取り出して中を確認する。
その場その場で思いついたことを書き留めては線を引いて消して、更に書き込んでを繰り返してきた。今はもう線が引かれていないものはない状態だ。つまり行き詰ってるってこと……。
はぁ、本当にどうしよ……。
ばれないように小さくため息を吐きつつ、板書するためにシャーペンを走らせる。
せめて美紀ちゃんがメモ書きか何かを残してくれていれば違ったんだろうけど、そういった類のものは一切見つからなかった。
どう考えても比較的大規模だろう魔術を、何の手掛かりも残さずに使うなんて、あり得るの?さすがに非現実的過ぎない?って、わたしにとっては魔術も非現実的なんだけどね。
そう考えると、やっぱり元々そういった大規模な魔術を使おうとしたわけではなさそうだよね。ここまでくると魔術とは別の方から考えた方がいいのかな?
でもなー、こうやって他人と入れ替わるなんて、魔術以外ではありえなくない?
先生の話している内容も、教科書の内容も板書の内容も、わたしの世界と同じだ。つまり魔術はあるものの、科学技術はわたしの世界と大差ない程度には発達してるってこと。加えて内容もほぼ同じ。だからこそ、わたしはわたしの中の常識とこの世界の常識は魔術について以外はほぼ同じだろうと思ってたんだけどなぁ。
直矢君にこの世界の常識についても少しだけ教えてもらったけど、やはり魔術という存在はあるものの、わたしの思う常識と差はなかった。
一応、直矢君に教えてもらう以外に、この世界について知る方法は多分ある。わたしがこの体で目を覚ました時に見つけた美紀ちゃんの日記だ。
ただ、他人の日記をじろじろと見るのはさすがに罪悪感が強かったので、あの時に一冊だけペラペラ見て以来開いてはいない。けど、そうも言ってられないかもなぁ。
美紀ちゃんの部屋を調べている時に、日記らしきノートはいくつか見つけている。間違って見ちゃわないように、まとめて書棚の所に放置してある。
はぁ、どうしよ……。
今日でもう何回目になるのか、また小さくため息を吐いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます