第9話
一限目の国語の後は数学、英語とわたしの世界にもあった一般科目が続いたが、ついに四限目の魔術学の時間になった。
昨日の魔術学では魔法陣の起動についてだった。で、今日はそこから発展して効率よく発動するための理論についてをやるみたい。昨日あれだけ頑張って勉強したおかげか、何とかついていけてる!と思う……。
昨日読んだ本にも魔法陣を起動するとき、必要になる魔力量を抑えるために色々と発明がされている、って書いてあった。特定の系統にのみ効果を発揮する記号だったり、反対に全ての魔法陣に使用できる、効果は薄いが汎用性の高い記号だったり。特にここ50年で急激に発展したらしいのだ。
昨日読んだ知識と照らし合わせつつ先生の話を聞く。事前知識があるおかげで、スラスラ理解できちゃう……!なんだか天才になった気分だね、ムフフ。
「この二つの記号は汎用性が高いうえ、他の全魔法陣に使用できるものよりも魔力の減少量が多いため、現在使用される魔法陣全てに使用されている。だが、この二つは互いに相性が良くないため、同時に使用すると約9割の確率で起動に失敗するというデータがある。それぞれ特徴が異なるので、どちらを使用した方がより効率的なのかを考えなければならない。」
黒板にカツカツと音を立て板書をしながら説明を続ける。描かれている記号は、昨日わたしが本で見たのと同じものだ。それだけ有名なんだろうな。本にも、世紀の大発明!みたいな感じで書かれてたし。
黒板と魔術学の教科書に描かれている記号を真似するようにノートに書き写してみる。少々いびつだが、初めてにしてはそれなりに上手にかけたね、うん。
「今度、記号を正しく覚えているか小テストを行うので、教科書の37ページにある表をしっかり覚えておくように。」
先生からのまさかの発言に、教室のあちこちから不満そうな声が漏れる。でも先生はそんなことお構いなしに、「ちょっと早いがキリがいいので授業はここまで。」と言い、持ってきた教科書などをまとめて教室を出て行ってしまった。
まだ授業時間中なのである程度は抑えているが、先生が居なくなったと同時に皆それぞれテストについて不満をぶちまけだした。
まぁ、わたしもみんなと同意見なんだけどね。本当、テスト大っ嫌いだよ……。先生は小テストだって言ってたから、滅茶苦茶点数が悪くても補修とかはない、よね……?定期テストではないんだから、点数が低くても問題ないと信じよう、うん。
ただ、何も勉強しないのはさすがにどうかと思うので、ちょっとでも勉強をしておこうとメモに「魔術学、記号暗記」とだけ書き込んでおいた。
四限目の魔術学が終わってようやくお昼休みだ。昨日と同じように直矢君がお昼に誘ってくれた。昨日と違って今日はちゃんと一緒に食べることができそうだ。
わたしは直矢君に魔術について色々と聞きたいので、出来れば誰も人が来ない場所がいいと伝えたところ、体育館裏にあるベンチなら人が来ないだろう、ということで本日のお弁当は体育館裏で食べることになった。
体育館裏と言えば告白の定番場所な印象があるけど、この学校の告白スポットと言えば裏門の所にある大きな桜の木の下なんだそう。だから外でお昼を食べる人ぐらいしかここに来ることはなかったんだって。でも、去年中庭に新たなベンチがいくつか設置されてからは誰もこっちのベンチを使わなくなり、人が寄り付かない場所になったんだそうな。
そりゃ、ここのベンチは日当たりが良くないからこっちよりも日当たりの良い中庭の方がいいよね。
使われていない割にキレイなベンチに並んで腰かけ、お弁当を膝の上に広げる。
「で、聞きたいことってなんだ?俺に答えられることならなんでも聞いてくれ。」
ぼそりと「勉強が得意な青沢に教えるってのは違和感がすげーけど。」なんて言う直矢君。やはり、美紀ちゃんはわたしと違って勉強ができるらしい。ノートや教科書に分かりやすい書き込みがあったからもしかしてと思ってたけど、予想通りだね。
ほんのちょっとでもいいからその頭の良さをわたしにも分けてほしいよ……。
「あのね、記憶がないせいなのか魔力の扱いがよくわかんなくて。魔力の扱い方だけじゃなくて魔法陣についてとか、魔術関連の記憶がごっそりなくなってるみたいなの。」
「マジ?まぁ青沢は魔力がねーから、記憶がなくて魔力の感知がそもそもできなくてもおかしくはねぇか。けど、なんで魔法陣とかそっちの方も忘れてんだ?日常生活するうえで必要な一般知識は残ってんだろ?」
ギクッ!なかなか鋭いな、直矢君。
昨日たった一日だけでもこの世界には日常世界に魔術が深く根付いていることは理解した。だというのに、魔術についてだけ忘れていて他の一般知識だけ残ってる、っていうのは確かにおかしいよね。
で、でもどうにか誤魔化さなきゃ。
「うーん、なんでだろうね?私自身もよくわかんないけど、何でだか魔術関連の知識がないの。昨日図書室でいくつか魔術関連の書籍を読んでみたけど、どれも知らないことばかりで驚いたし、記憶が戻る気配もなかったの。もしかしたら、魔術以外にもわたしが気が付いていないだけで何かしら忘れてることがあるかも……。」
わたしの言葉に直矢君はなるほどなぁと相槌を打つ。それでも、やっぱり納得がいかないのか少しだけ顔をしかめたままだ。
でも、わたしが魔術が存在しないこの世界とよく似た異世界からやってきた人間だから、なーんていう説明よりも現実的だし、まだこっちの方が納得できるでしょ。……比較対象が何だか現実離れしすぎてる気もするけど、現実なんだから仕方がない、うん。
どうにか複雑な内心を押し込めるようにお弁当から卵焼きを箸でつまみそのままパクリ。うん、おいしい。
もぐもぐと咀嚼し飲み込んで改めて直矢君を見ると、どうにか納得したのかしかめっ面から呆れたような表情に変わっていた。
「まー覚えてねーなら仕方ねぇか。勉強してるうちにひょっこり思い出すかもしんねーし。それに青沢の言う通り、魔術についての記憶がねーなら他にも忘れてるものがある可能性が高いよな。青沢はとにかく、ちょっとでも分かんねぇことがあったら俺に聞け。下手にどっかでボロが出る前に何を忘れてるのか把握しとかねーとな。」
表情は呆れたような顔なのに、声はこちらを心配してるのがよくわかる声音をしている。
やっぱり、直矢君はいい人だ。たとえ幼馴染みといっても、クラスメイトどころか教師からもいい印象のない美紀ちゃんと仲良くして、それどころかこうやってあれこれと世話を焼いてくれてるんだもん。そう考えると、美紀ちゃんのフリをして騙してしまってるのが何だか申し訳なく感じてしまうな。
ちょっとだげ胸の痛みを感じながらも、それを無視するようにお弁当に箸を伸ばした。
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