第8話



 直矢君という心強い協力者を得たものの、特に何かが変わったというわけでもなく。何か記憶が戻らないかと美紀ちゃんと直矢君の思い出を聞かされたり学校について教えてもらっているうちに学校へと到着した。


 調べたいことがあるからと言ってわたしは教室へは向かわずに図書室へと向かった。直矢君はそのまま教室へと向かうため、下駄箱でお別れだ。

 別れる直前にも念押しするようにちょっとでも何かあれば報告すること、と言われてしまった。信用されてないなぁ。仕方ないと言えば仕方ないんだけどね。誰だった親しい人が突然記憶喪失になったらそりゃあ過剰に反応しちゃうよね。まぁ記憶喪失は嘘なんだけど……。ちょっとだけ罪悪感感じちゃうけど、これも(わたしと)美紀ちゃんのためだから……!


 外靴と中靴を履き替え、その場で直矢君に手を振り別れる。

 まだ昨日のお昼に一度来ただけだけど、すっかり慣れ切っているかのように図書室へと一人歩く。

 グラウンドでは朝練を行っている人達の声が、教室からは既に登校している生徒達の楽しそうな会話が聞こえてくる。と言っても、早めの時間だからそこまで騒がしいわけじゃないのでわたし的にはこのくらいの喧騒の方が心地よい気がする。煩すぎるのも嫌だけど、反対に静かすぎると何だか落ち着かなくなっちゃうんだよね。ソワソワしちゃってじっとしていられなくなっちゃう。

 その様子が小さい子どもみたいに見えるらしく、涼介くんにはよく子どもっぽいって揶揄われたっけなぁ。……早く帰る方法見つけなくちゃ。ちょっとだけしんみりしてしまった思考を頭を振ってどうにか無理矢理切り替える。


 人の邪魔にならないように静かに図書室のドアを開く。僅かにカラカラとスライドする音が鳴るものの、こちらを見る人はいない。皆本を読んでいるか、ノートに何かを書き込んでいる状態のままだ。

 わたしもその輪に溶け込むように、昨日借りた本の返却手続きをさっさと終わらせて、本日目的の本を探し始めた。



 昨日探した書棚から3冊ほど拝借して昨日も座った席に腰を下ろす。昨日借りた本はわたしでもギリギリ理解できるような本当に基礎的なものばかりだった。でも、今回は専門的なものだろうと関係なしに、とにかく魔術、魔法陣の開発について書かれているものを集めた。

 一高校だから当たり前だとは思うけど、やっぱりこういう開発系の本はあまり置いてなかった。たかが高校生が積極的に読むジャンルではなさそうだもんねぇ。そっち系の大学だったら沢山あるかもしれないけど。


 とにかく、この短時間でわたしが見つけられたのはこの3冊だけだった。

 早速一冊を手に取り表紙を捲ってみる。これは魔法陣の改良について書かれてあるみたい。小難しい理論があれこれと書いてあるけど、当然分かるはずもなく……。ヤバいもう心折れそう。


 つい現実逃避したくて持っていた本を閉じ、次の本に手を伸ばす。こっちは改良ではなく理論を組み合わせて新しく作り出すことについてだ。それぞれの魔術同士の相性だったり、反発しないように魔法陣を組み替えたりして様々な魔術を発動することができるらしい。大本は5種類に分けられており、それを組み合わせることで全く系統の違う魔術を発動するみたい。一応細かく系統分けされているけど、最低限覚える必要があるのはこの5つだけらしい。


 例えば、水系統と火系統を組み合わせることで氷系統の魔術を発動できる。なんで火なのに氷??と思ってよく読んでみると、火、というよりも熱、という認識の方が正しいっぽい。火系統は温度を上げるだけでなく、反対に下げることもできるそうな。だから水との組み合わせによって氷が生まれるらしい。

 ほへー、すごー。


 で、わたしが見たいのは転移系のものだ。目次を参考にしつつ探してみると、空間系の魔術は地と光、闇の3系統を組み合わせた比較的高度なものらしい。色々と小難しいことが書かれているが、やっぱりわたしには理解できそうにないや。

 いや、でもこれをキチンと理解しなきゃ本当に帰る手段がなくなっちゃうし……。す、少しずつでいいからどうにか解読していこう、うん。


 パタリと本を閉じ伏せていた顔を上げる。もうすぐ朝のHRが始まる時間だ。まだ予鈴は鳴っていないものの、あと数分もすれば鳴るだろう時間だ。キリもいいしここまでにしよう。

 理解できる、できないは関係なしに持ってきた三冊全てを借りよう。直矢君に手助けしてもらうか、あるいはどうにかこうにか自力で勉強しよう。ちゃんと理解できるかは不安しかないけれど……。


 先程読んだ本と今持っている本、そしてまだ読んでいないもう一冊を持って貸し出し手続きを済ませ、わたしはそのまま教室へと向かった。



 教室に着いて席に座ったと同時に、タイミングよくチャイムが鳴った。チャイムの音に合わせて皆それぞれ自分の席へと戻った。


 HRは特にお知らせもなくさっさと終わらせて、担任の先生は教室を出て行ってしまった。

 今日の一限目は昨日と違って国語だ。わたし国語は比較的得意科目だからね!他の科目は毎回平均点どころか赤点ギリギリしか取れないけど、国語は唯一平均点近くが取れる科目だもんね!


 昨日は何にも分からない状況だったのに一限目から早速魔術学で頭がパンクしそうだったけど、今日はそんなことにならずにすみそうだ。よかったぁ。



 ただまぁ、お昼前の四限目にはまた魔術学があるんだけどね。空腹で集中力が切れだすタイミングで魔術学なんて……。トホホ……。





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る