第7話
ピピピッ、と耳をつんざく不快な音とカーテンの隙間から入り込む日差しで目を覚ました。うっすら目を開けながらちょっと強めに叩き目覚ましを止める。のっそりと体を起こすと、自然とくぁ、とあくびが漏れる。
昨日のようにいそいそと学校に行く準備をしつつ、今日は何を調べようかと考える。
昨日は結局暗くなっても両親どちらとも帰ってこなかったので、勝手ながら冷蔵庫に残っているおかずと冷凍保存されていたご飯をレンジで温めて晩御飯を食べた。帰ってきたのは二人とも日付けが変わる少し前だった。
家に一人だからと勉強嫌いなわたしが周りの目を気にせずにせっせと魔術について勉強したものの、少なくとも今調べられる範囲では世界を超えるような大規模な魔術は見つけられなかった。魔術の基礎の本だけでなく応用系の本も見てみたけど、そんな大それたものは載っていなかった。スマホを使ってネットで調べてみても、情報が多すぎてよくわかんなかった。
多分、そういった研究自体はされているけど、まだ一度も成功はしていないのが現状、なんだと思う。わたしが調べられる範囲でだし、ネットだからどこまで情報が信用できるのか分からないから、微妙なラインなんだけど……。
とにかく、昨日は大した収穫は得られなかった。
わたしが借りてきた本は本当に基礎的なものだから、もっと難しい、専門的なものを見てみる必要があるかも。まだ実現してないけどこんな研究がされている、みたいなものとか。
内容を全部理解できなくてもいいから、とにかく信頼性のある情報を集めるためにいろんな本を見てみた方がいいかな。少なくともネットよりも信頼できるでしょ。
あとは、それと同時並行で美紀ちゃんが魔術を使用した痕跡を探さないと。少なくとも家で痕跡は見つけられなかったから、家の外で魔術を使用したんだと思う。家の外となると思い当たる場所がないから、これはコツコツと時間をかけて探すしかない。だから、痕跡探しはあくまでおまけ程度に考えることにした。
昨日と同じように朝食を食べ、洗面台で身だしなみを整える。昨日は両サイドを編み込みにしてハーフアップにしていたけど、今日は簡単なくるりんぱでいいかな。
顔も洗った、髪型もオッケー。荷物は昨日のうちに準備万端。少し早いけど、今日はもう登校しよう。で、また図書室に行こう。昨日借りた本を返却して、今度はもうちょっと専門的なものを借りようかな。
昨日と同じように、誰も居ない家に小さく「行ってきます」と零し家を出た。
比較的早い時間に家を出たためか、昨日と比べて人の数が少ないな。
なんとなしにわたし以外の登校している生徒を眺めていると、後ろから聞き覚えのある声で名前を呼ばれた。振り返ってみると、予想通りの人物、直矢君がこちらに手を振りながら駆け寄ってきた。
わたしの横に並びつつおはようとあいさつしてくれたので、こちらもおはようとあいさつを返す。
特に変なことはしていないのに、彼は怪訝そうな顔をする。昨日も返事をした時、驚いたような顔をしてたけど、なんでだろう?
一瞬沈黙が走ったが、こちらから切り出す前に直矢君の方から声をかけられた。
「なぁ、何かあったのか?」
「えっ、な、なんで……?」
まさかの質問にドキリとする。どういった意図の質問なのか理解できずにこちらも質問で返してしまった。そんな若干どもってしまったわたしを見つめつつ、真剣な眼差しで返される。
「お前、昨日から変だぞ?無理に明るく振舞ってるようにしか見えねーよ。家でおばさん達に何か嫌なこと言われたのか?それとも学校で?何か困ったことがあったら相談しろっていつも言ってるだろ。」
困ったように眉を下げている直矢君の顔を見て、瞬時に悟る。
そりゃわたしと真反対っぽい性格の美紀ちゃんの姿でわたしが普段通りに過ごしたら違和感抱くよね!それが仲の良い幼馴染みなら余計に変だと思うよね!
幸い今の所実の両親と会ってないから何とも思わなかったけど、これはまずいよ……。なんでこんな当然のことに思い至らなかったの昨日のわたし……。
冷や汗をダラダラとかきつつ「えーっと……」とどう誤魔化すか思考する。そんなわたしの明らかに動揺している姿を見てますます不審がる直矢君。
どうしよう、と焦っていたわたしだが、ふと閃いた。
「あ、あのね、実は……わたし、記憶喪失っぽいの。」
「はぁ?!!」
必殺、記憶喪失のフリ!!
どのみちわたしが元の世界に戻るまでは直矢君と親しくするだろうし、下手に誤魔化すよりも記憶喪失のフリをして色々と手助けしてもらった方がいいよね、という考えだ。言動が違うのは以前の記憶がないからだ、って誤魔化すことができるし、魔術やこの世界について教えてもらう口実にもなるし、これぞまさに一石二鳥!わたしってば冴えてる!!
「ま、待て待て待て。えっ、はぁ??記憶喪失?何で?!」
「わ、わたしが聞きたいよ……。昨日、気が付いたら知らない部屋で目を覚まして驚いたの。部屋どころか自分のことも何にも分からなくて……。」
わたしの言葉に「マジかよ……」と頭を抱えてしまった。ご迷惑をおかけします……。でも、少なくともわたしが元の世界に帰らない限り美紀ちゃんがこの体に戻ってこれないだろうから、ある意味直矢君のためでもあるから!許してね!
「あー、ウン。よく分かんねーけどとりあえず分かった。一先ず、覚えてることは?」
「日常生活を送る上で必要最低限の常識は分かるよ。でも、自分のこともだけどクラスのことも分かんなくて……。あと、魔術についても知識が抜けてるっていうか……。」
「確かに、記憶喪失っていうと自分や親しい人物についてだったり最近の出来事を覚えていない、ってイメージがあるな。そんな感じか?」
「多分、そう。」
アニメだとか漫画とかでは記憶喪失になっても文字が書けたり反対に読めたり、そういった必要最低限の知識は残っているイメージがある。実際の記憶喪失もそうなのかな?
本当のことはよくわからないけど、魔術のある世界だからか、意外にもすんなりと受け入れられた、と思う……。
「おばさん達は
「実は、昨日から一切顔を合わせてなくて。だから知らないよ。」
特に隠す必要もないからと包み隠さず答えると、また頭を抱えてしまった。気持ちは分かるけど、こればっかりはわたし悪くないもん。仕事ばっかりな(美紀ちゃんの)両親のせいだもん。
「分かった。とにかく、早く記憶が戻るように俺も協力する。分からなくて困ったことがあったら、まずは俺に相談すること。いいな?」
「うん、わかった。ありがとうね。」
にこりと笑いながらお礼を言うと、やはり彼は困ったように眉を下げていたが、それでもしっかりと頷いてくれた。
想定外ではあったけど、協力者を得ることができたのはラッキーなことだよね!
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