第6話
自分の部屋に戻ってきて一息つき、肩にかけていたカバンをドサリと机の上に置く。部屋を見回してみるも、似てはいるもののやはりわたしの部屋ではない。わたしの部屋と同じ家具の配置だし、似たようなものばかりだけど、よく見るとデザインが違ったり自分の中のサイズ感と微妙に違ったりする。
どんなに現実逃避しようとも、視界が変わることもなく。また一つ大きく息を吐いた。
正直既に心が折れそう……。だけど、まだまだ諦めるわけにはいかない。まだ学校に一日行っただけなんだ。
気合を入れるためにも両頬をバチンと強めに叩く。よし、元の世界に帰るために頑張るぞ!
まず、朝考えたように部屋に美紀ちゃんが魔術を使用した痕跡がないか探してみよう。もしも痕跡が見つかれば、そこから逆算的に帰る方法が見つかるかもしれないからね。わたしにしては冴えてる!
けど、パッと見た限り痕跡っぽいものは見当たらないんだよね。
わたしが図書室で調べた限り、基本的に魔術は魔法陣を使って発動するらしい。簡単なものであれば魔法陣なしでも発動できるが、魔力効率が悪い上に下級の基礎中の基礎の魔術しか使えないんだとか。だから魔術は普通、魔法陣を利用して発動するものらしい。そして、魔法陣を使って魔術を行使した場合魔法陣は消えたりせずにその場に残るとあった。もし魔石を使用して発動したのなら魔力のなくなった空の魔石が残るそうだ。
美紀ちゃんは魔力がないから、魔術を使うには必ず魔石が必要なはず。なら、絶対に空の魔石が残ってるはずなんだけど……。
わたしが目を覚ましたのはベッドの中だった。なら、ベッドの近くに痕跡が残ってるに違いない。そう思ったんだけど……。
掛け布団を捲ってみても何もない。ベッドの下は引き出しになっていて、中には服が綺麗に整頓して収められている。
こうして調べるまではてっきり美紀ちゃんが魔術を発動して即わたしと入れ替わって、そのまま眠ったんだと考えてた。けど、もしも即入れ替わったのなら、わたしが眠っていたベッドの近くに魔法陣と魔石が残ってるはず。それがないってことは、どうやらその推理は外れちゃったみたい。残念、そう簡単にはいかないか。
寝台から視線を外し周囲を見るも、空の魔石は勿論、魔法陣らしきものは見当たらない。
てっきりこの部屋で魔術を発動したものとばかり考えていたけど、ひょっとして別のところで発動してたとか?いや、でもそれなら何でわたしはこの部屋で目を覚ましたの?
ハッ!もしかして美紀ちゃんが魔術を発動して即入れ替わったんじゃなくて、入れ替わるまでに時間がかかったとか?推理ものでよくある、謎の空白の時間というやつかな。わたしってば名推理!
「いや、でもそしたら捜索範囲が絞れないじゃん……!」
情報がない、つまり探すとっかかり自体がないということ。気が付きたくないことに気がついちゃったかも……。うぅと唸り声をあげつつ頭を抱える。
これ、痕跡を探すよりも美紀ちゃんが使用した可能性がある魔術を探した方が早いかもしれない。異世界の人を呼び寄せる、いや、呼び寄せるというよりも入れ替わるの方が可能性が高いかな?とにかく、世界を超えて発動する系統の魔術がないか探してみよう。世界の壁を超える程大がかりな魔術なら、簡単に見つかるかも。……もしかしたらそういったすごい魔術がたくさんあるのかもしれないけど……。
そんなヤバそうな可能性は低いとは思うけど、わたしはこの世界について何にもわかんないからね。魔術がどれだけ発展してるのかまだ把握しきれてないから、可能性はないこともない……よね?
世界を超える、なんて大がかりな魔術ではないけど、テレポート系の魔術ならばこの世界にあったはず。下級の基礎魔術の中に離れた場所とを結ぶ魔法陣がお昼に読んだ本に書いてあった。そういった下級魔術じゃなくてもっと上級のものなら、人を転移させる魔法陣があってもおかしくないだろうし、転移系の魔術を発動しようとしてうっかり世界を超えちゃったとか。うん、可能性としてはないことはない、よね。
魔術を発動しようとしたときに、何かしら事故に巻き込まれたのなら、十分あり得ることだ。先生も魔術の事故が未だに起こっているって言ってたし。よし、その線で調べてみよう。
今思いついたことを忘れないように、とメモしようといつもの癖でブレザーの右ポケットに手を入れる。しかし、手に触れたのは触りなれたメモ帳とペンの感触ではなく、紙片の感触だった。
「あ、そういえばメモ帳がないからってノートを代用してたんだった。ちょうどいいサイズのメモ帳ってないかな?もしあったら暫く拝借したいんだけど。」
カバンの中には見当たらなかったので、机の引き出しを覗いてみる。引き出しの中も美紀ちゃんらしくきれいに整頓されているね。わたしいっつも適当に突っ込んじゃうからぐちゃぐちゃになっちゃうタイプなんだよね。整理整頓できる美紀ちゃんが羨ましい……。
あまり散らかさないようにと気を使いつつ少しだけガサゴソといじっていると、手のひらサイズのミニメモ帳が色違いで二冊仕舞ってあるのを見つけた。二つセットの物を買ったのかな。
手に取ってパラパラと捲ってみるも、何も書かれていないまっさらなメモ帳だった。それも二冊共だ。買ったはいいけど、結局使わなくて仕舞ってたのかな?
まぁ、ここはありがたく使わせていただこう。
可愛らしいチェック柄のピンク色と黄色の二冊のうち、黄色の方を手に取る。早速一ページ目に朝ノートの紙片に書いたことと、”世界を超える系の魔術、転移系の魔術について調べる”と書き込んだ。
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