第2話

 


 魔術学を問題なく過ごし、他の科目を受けてようやくお昼休みとなった。他の授業はわたしの世界でもあった普通の教科だった。そういった授業を受けて思ったのは、この世界はほとんどわたしのいた世界と同じってこと。違いといえば、魔術の存在くらい。言語はもちろんわたしの世界と同じ日本語だし、英語もあった。地理だけでなく歴史も一緒だった。


 フィクションでありがちな勇者や魔王のような存在はもちろんいない。思った以上にリアリティーな世界だなぁ。もうちょっとファンタジーでもいいじゃない。せっかく魔術があるんだから。


 ただ、日常のあちこちに魔術が混じっているという違いがある。わたしの世界でいうところの科学技術に相当するのが魔術だ。

 この世界にも勿論科学技術は存在するが、家電製品の多くは電力ではなく魔力を使っていたり、魔方陣を使って稼働するものだってある。いい具合に科学と魔法が混じったイメージだね。電線がなかったのは、わたしの世界程電力が必要とされていないからかな?


 まぁそれらは置いておいて。

 お昼はこの学校は給食はなく、お弁当か購買で買うかの二択だ。わたしはお弁当が用意されていたので弁当派。

 クラスの皆も、授業が終わって各々購買に向かったり、お弁当を広げたりしている。


 わたしもお弁当を食べようとカバンから弁当箱を取り出すと、丁度そのタイミングで後ろから声をかけられた。


「青沢!さっさと弁当食べよーぜ。俺もう腹ペコペコ。」


 購買へ向かったのか、誰も座っていないわたしの前の席を勝手に利用するのは、朝わたしに声をかけてきた男の子だった。

 やっぱり、彼は美紀ちゃんと仲が良かったのかな。


「直矢ー、浜瀬センセーがお前を呼んでたぞー。」

「え?浜瀬先生が?……あ!!そういえば昼までにノート提出に来いって言われてたんだった!!」


 彼はわたしに「悪い!」と謝りながら、手早く開けかけていたお弁当をしまい席を立つ。自分の机に弁当を置き、代わりにノートを持って慌ただしく教室を飛び出していった。


 なおや、とは彼の名前だろうか。思わぬところで情報ゲットだ。こっそりノートか何かに記載してある名前を確認しようと思ってたけど、今なら本人は居ないし机には提出のためのノートを探すためか、他のノートも引っ張り出されて放置された状態。これは絶好のチャンス!わたしってラッキーだね!

 早めにお昼を食べ終わって、図書室に行くふりをしつつノートを覗いてみよう。できれば名前だけじゃなくて苗字も把握したいからね。


 ってなわけで、わたしも手早くお弁当を開く。

 中身はごく普通のなんてことないものだ。手を合わせて、まずは無難に卵焼きをパクリ。あ、この卵甘いや。わたしこれ好きだな。塩辛いのもご飯に合って好きだけど、わたしは砂糖を多めに入れた甘い卵焼き派!

 思った以上に自分の好みの味付けに舌鼓を打ちつつ、あっという間に完食。今まではクラスの皆とわいわいおしゃべりをしながら食べていたから、食べるのにもっと時間かかってたのになぁ。


 ちょっとしんみりしつつも、元の世界に帰るまでの辛抱、と自分を励ます。向こうにはお母さん達家族だっているし、幼馴染の涼介くんもいるし、仲の良いクラスメイトだって残してきてるんだ。向こうの私の身体がどうなっているのかはわからないけど、きっと心配をかけているはず。早く戻る手がかりを見つけなくちゃ。


 お弁当をかたずけて、ノートと筆記用具だけを持って席を立つ。周りはわたしのことなんか気にしていないのか、一切こっちを見ていない。

 不自然にならないように、後ろのドアから出るためになおや君の机の横を通る。

 いくつかのノートは裏返っていたり、重なっていて見えなかったが、一冊だけうまい具合に名前の部分が見えた。


 狭間直矢、これが彼の名前だった。


 勿論聞き覚えも見覚えもない。全く知らない名前だ。知り合いに狭間、って苗字の子もいない。


 不自然にならないように名前を確認しつつ、教室を出る。廊下はお昼のためかあまり人はおらず、空いている教室のドアや窓から楽しそうな談笑する声がよく響いていた。


 お弁当を食べていた時みたいにちょっぴり悲しくなる。でも、ここで立ち止まったら皆のところに帰れなくなってしまう。

 そう自分に言い聞かせてモチベーションを上げる。そうしなきゃ、不安で押しつぶされちゃいそうだ。


 あまりネガティブなことを考えないようにするため、早歩きで図書室に向かう。わたしの居る教室は4階だが、図書室は2階にある。階段を下りてすぐ右に曲がると図書室だ。


 ちらりと中をうかがってみると、少ないながらもチラホラと生徒が何人かいるのが見える。教室のあった上の階と対照的に静かだ。


 なるべく音を立てないように、慎重にドアをスライドする。小さなカラカラという音を聞きつつ、図書室へと足を踏み入れる。

 冷房がついてるのか、外よりも涼しく快適な室温だ。このくらいの暑さなら普通冷房はつけないと思うけど、こっちの世界だとそうでもないのかな?また一つ違いを見つけた。


 図書室の入り口付近の壁に貼ってある間取り図を見つつ、魔術関連の本が置いてある場所を探す。どうやら魔術関連の本は量が多いのか、図書室の奥の方の一角丸々占領しているみたいだ。

 まぁ、魔術といってもたくさん種類があるみたいだし、幅も広そうだ。そりゃあ多くなって当然だよね。


 他のエリアには魔術関連以外に娯楽用なのか、小説なんかがたくさん置いてある。わたしは読書家ではないから小説は読まないんだけどね……。


 他の本棚を見ることなく、まっすぐ魔術関連のエリアに向かう。そちらには誰もおらず、貸し切り状態だ。ちょっと優越感を感じるね。

 手前の本棚の背表紙を見てみる。


 ふむ、この辺りは魔方陣に関してだね。更に隣の本棚を見てみる。

 こっちも魔方陣関連だけど、少し内容が違うようだ。さっきのは魔方陣の作り方に関してだったけど、こっちは如何に効率よく発動できるのか、に関するものだ。


 魔方陣にも興味はあるが、今はそっちじゃない。

 魔方陣どころか、もっともっと基礎の部分となる魔術とは、みたいなものがわかりやすく書かれた本が欲しい。


 更に隣の本棚を見る。これも魔方陣関連だ。次、これも魔方陣。しかも魔方陣の組み合わせ方についてだって。うへぇ。隣も同じように魔方陣の応用系のものだ。

 これ以上隣はないので、後ろを振り向く。


 お、ここは魔方陣関連じゃなくて魔術具関連だって。魔術具だなんてすっごくファンタジーっぽくていいね!

 隣も魔術具関連だ。

 その隣、魔術具関連ではあるけど、魔術の基礎について書かれてるっぽい本がある!!タイトルは魔術具制作への第一歩~魔術とは~だって。

 当然だけど、魔術具を作るためにも魔術に関して熟知してなきゃダメなんだろうね。


 タイトルだけで選んだそれを抜き取り、表紙をめくる。目次を見る限り、最初の方に魔術についての説明があるようだ。うん、無事に見つけられてよかった。

 この本を読んでても怪しまれないように、他の魔術具制作についての本を2冊ほど適当に抜き取って、図書室中央に配置してある机へと持っていく。


 誰も座っていない机の隅を陣取って、本とノートを広げた。


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