第1話

 


 部屋の探索をした後、一先ずわたしは学校に行くことにした。充電器に刺さったままのスマホを見てみると、今日は月曜日だった。バッチリ平日だし、準備万端なカバンを見る限り、間違いなく今日も学校があるはず。

 これから先どうすればいいのか分からないけど、学校があるなら行っておいて損はないかな、と考えたのだ。


 何といっても、この世界には魔術が存在する。ノートと教科書をパラパラと確認してみたものの、さっぱり分かんなかったけどね……。残念。わたしも魔法使ってみたいなぁ。箒に乗って空とか飛んでみたい。


 二階の自分がいた部屋を出て一階に降り、リビングを覗いてみるも誰もいなかった。それどころかわたし以外の人の気配も物音もしない。


 美紀ちゃんの両親は仕事なのか、家にはわたし1人だった。

 机の上には朝食がラップして置いてあった為、急いで食べて登校するために家を出た。


 町の様子はわたしが住んでいる町とさほど変わらないような気がするけど、よく見ると魔術が存在する影響なのか、少しだけ違いがみられた。


 まず、電線がない。何か違和感を感じるなぁと思ってよく観察してみたら、電柱と電線がないことに気が付いた。きっと、魔術を使ってるから電線を使う必要がないのかな?つまり各家庭に発電機が置いてあるイメージ?うーん不思議だ。


 こんな感じで、普段気にも留めない小さな部分に違いがみられるため、雰囲気は似てるのにどこか違和感を感じるという不思議な気分になる。



 そんな感じで歩いていたせいで、比較的近いはずなのに学校に着くまで凄く時間がかかってしまった。

 いつもの速さで歩いてたら、ここまで時間かからないと思うんだけどなぁ。早めに家を出てよかったよ……。


 教室に入ると、窓側の一番前の席に腰を下ろす。カバンから筆記用具やノートなど必要なものを取り出す。

 すると、周りからクスクスと笑い声が聞こえてきた。声的に、女の子だと思う。


「なぁにあれ、急にかわい子ぶっちゃって。」

「いつもみたいにボサボサ頭の方が似合ってるのにねぇ。」


 クスクス、クスクス。


 わたしが聞こえるギリギリの声量で、馬鹿にしたように話す。いつもの癖で編み込みをしたけど、どうやらそれが気に入らないらしい。なんでだろう?女の子なんだから、おしゃれしたっていいじゃない。

 よくわかんないや。


 なんとなしに前髪をいじってみる。わたしよりも明るめの茶髪だ。でも、わたしよりも前髪が長いな。邪魔だし、切っちゃおうかな?髪質もちょっとパサパサしてるし、キチンと手入れしなきゃな。


 うーん、やりたいことがたくさんあるなぁ。これはメモしなきゃ忘れちゃうパターンだ。幼馴染みの涼介くんがいつも口酸っぱく言ってるもん。どうせ一気に覚えられないんだからキチンとメモを取れ、って。

 けど、メモ帳はないので仕方がないがノートの端にメモして、それをちぎってメモ帳代わりにしちゃおう。メモ帳を忘れたときにやっていた裏技だ。まぁ、これをやるといつも涼介くんに怒られちゃうんだけどね……。


「お、青沢今日はなんか違うな。ようやくおしゃれに目覚めたか?」


 陽気に声をかけてきたのはチャラそうな男の子だ。金髪でいかにも陽キャ、っていう雰囲気。多分美紀ちゃんの友達なんだろうけど、残念ながら私には美紀ちゃんの記憶がないので、彼が誰で"私"とどういう関係なのか、さっぱり知らないんだよね……。

 とにかく、初対面じゃなくて友達の対応をしなきゃだよね。


「うん、ちょっとね。イメチェンってやつだよ。」


 会話をするときは笑顔が大事!というわけで笑顔で返事をしたら、何故か目を見開いていかにも驚きました、って顔をされた。なんで??


「そ、そうか……。」


 そういうと、彼は少し離れた席にカバンを置き座った。あそこが彼の席なんだろうな。どうにか名前を確認したいけど、どうやって確かめよう?うーん……。


 考えても仕方がないと思い視線を前に戻し、カバンから取り出した教科書を開く。わたし普段予習しないんだけどなぁ……。

 流石に魔術?とかそのあたりはさっぱりだからね。わたしのいた世界で習っていた科目ならそこまで問題はないけど、魔術関連は何の知識もないから。絶対にボロが出ちゃうよ……。


 ペラペラとページをめくる。今日の一限目からいきなり魔術学なんだよなぁ。魔術の使い方や魔方陣の仕組みとか色々書いてあるけど、何を言っているのかさっぱりわかんない。ちゃんと日本語で書いてあるはずなのに、まるで他の言語で書かれていると錯覚しちゃうぐらい。


 授業が始まるまで、ひたすら教科書を睨み続けていた。







 一限目の開始時間となり、チャイムが鳴り響く。魔術学担当の先生が教室に入ってきて授業がスタートする。先生が教科書のページを指定してその解説をしつつ板書を始める。

 その板書を写しつつ、話を理解しようと頑張ってみるものの、やっぱり半分以上理解できない。そりゃあ基礎の基礎から抜けてるんだから、途中から理解できるわけがないよね……。


 うぅ、元々頭がよくないのに、いきなり未知なことを理解しろなんて無理だよぅ……。


「……そして、魔方陣のこの部分に魔力のこもった魔石を嵌めることで魔力のない者、魔力量が少ない者も問題なく魔方陣を起動することができる。これは多くの魔方陣に組み込むことができ、他にも、魔力の消費を抑える目的で使われることも多い。とても重要なことなので、しっかり覚えて使いこなせるようになりなさい。」


 魔石に魔力、そして魔石に魔力をこめる事ができる。

 魔力は人によって量が違い、魔力がない人もいる、ってことだよね。


 この体は魔力を持っているのか分からないけど、少なくとも、魔力のこもった魔石を使えばわたしでも魔術が使えるってことよね?

 うわぁ、やってみたいなぁ。それに、もしかしたら魔術を使うことで元の世界に戻ることができるかもしれない!どんな魔術を使えばいいのか皆目見当がつかないけど、希望はあるってことだよね!


 これは、思っていたよりまじめに勉強した方がいいかもしれないな。流石に突然基礎の基礎を誰かに聞くと怪しまれるだろうから、ある程度は独学じゃないとね。


 魔術について基礎的なことが書いてある初心者向けの本ってないかな?本屋に行く、だとお金かかるし、まずは図書室を使ってみよう。図書室になかったら町の図書館へ行きましょう。買うのは最終手段ね。


 開いていた魔術学のノートの一番最後のページに"図書室、図書館、もしくは本屋"と書き込み、そのページを破ってポケットに押し込んだ。


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