第13話 謎解き

「ふたりとも、どこへ行ってたんだ? 里穂は薬の時間だろう」


 部屋に戻るとユアンが待ち構えていた。腕を組んで渋い顔だ。しかし、里穂のワンピース姿に気づくと頬が緩んだ。


「リホ、なかなかいいじゃないか。ちょっと地味だけど上品な感じだね。そのスカーフも上手に巻けている。召使いたちが騒ぐのも無理はないのかもな」


 ひとり上機嫌なユアンだったが、ふたりが何も反応しないことですぐさま不満そうな表情になった。


「おいおい、どうしたんだ。その箱の中身と何か関係あるのかい?」


 ユアンはつかつかと近づくと、テーブルに置かれた箱を覗き込み紙を取り上げた。


「え、何だこれ。えーっと……」


「「読んじゃだめっ!」」


 少女たちが同時に叫んだので、ユアンは驚いて手に持った紙を放り投げた。里穂はその紙を拾って箱に戻し、驚かせたことを謝ってから事の顛末をユアンに話して聞かせた。


「つまりは、三日後までにこれを読まないと不合格の烙印が押されると」


「そうです」


「いやしかし、それに何の意味があるんだい?」


「私にもわかりません。恥をかかせた上に体良く追い払う魂胆でしょう」


「ふーん……じゃこっそり僕が」


「だめです!」


「じゃ、ヒントを」


「いりません!」


 ユアンは頭をぽりぽり掻いた。


「コウもコウだがリホも強情だな。わかったよ、何か手伝えることがあったら遠慮なく言ってくれ」


 ユアンが部屋を出て行くと、里穂とナギは同時に深いため息をついた。ユアンには強気な発言をしたが、たった三日でこの文字が読める見込みは全くなかったし、できなかった時のコウの顔を想像するだけで腹立たしくなる。


 里穂は文字の書かれた紙を手に取りぼんやり眺めた。コウは左から右へ書いていたから日本語や英語と同じ向きだ。ほぼ等間隔に文字が並んでいて句点や読点のような記号らしきものはない。コウはこれを読めと言った。それは単なる文字の羅列、例えば「DOG」を「ディーオージー」のように発音しろという意味なのか、それとも「犬」と読めと言っているのかすらわからない。いずれにせよ、まずはひとつひとつの文字が何を表しているのか調べるしかないようだ。


 里穂は今度はコウに渡された本を開いた。幼児向けの本らしく、豊富な絵と大きな文字が並んでいる。まるで小学校一年生の教科書だ。


「ん、てことは……」


 里穂は遊び相手を失って退屈そうにしているナギに手伝ってもらうことにした。


「ナギちゃん、この絵はなあに?」


「これ? これはお祭りの時に被る『ずきん』だよ」


「頭巾ね」


 里穂は新しい紙に文字を写し、その横にひらがなで「ずきん」と書いた。里穂の読みが正しければ「ずきん」の頭文字がその文字の読み方になるはずだ。


 里穂はナギが飽きないうちに里穂が理解できない絵を発音してもらい、その読み方を全て記録した。ナギを帰らせた後はわかる範囲で発音しては記録するを繰り返した。そうしているうちに、これは音を表す表音文字なのではないかと気づいた。それを確かめるために、翌日は文字がいくつか並んでいる単語と思しきページに進んで調べた発音を当てはめてみた。


 こうして昼夜を問わず研究すること三日。里穂は何とかコウの課題をクリアした。

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