第6話 ナギの両親

 その日の夕方になって、里穂りほは初めてナギの両親に会った。父親は恰幅のいい中年男性だが母親はユアンと同じ年頃で、夫婦としては少し年が離れた印象だ。商売で王都に行っていたとかでふたりとも里穂の手を取り涙を流しながら繰り返し詫びと礼を述べた。ふたりの身なりはこれまで見た誰よりも豪華でいかにも豪商の主夫妻といった印象だが、驕り高ぶったところは一切無く、むしろ誠実な印象を里穂に与えた。


 療養中に聞いたナギの話だと、父のトーヤは良質な薬草を作って国内のみならず他国にも輸出するという商売をしている。そのため国内外を問わず出掛けることが多く、どこへ行くにも妻のマナを伴って行くのでナギはかなり寂しく思っているようだった。確かにマナは若く美しくそれでいて賢そうで、連れて歩きたくなる気持ちもよくわかると里穂は思った。


 ひとしきり謝罪の言葉を述べると、父のトーヤは里穂の手を握ったまま言った。


「リホ、ユアンから聞いたが帰る家が見つかるまではずっとここにいておくれ。記憶が戻ったら改めて礼はさせてもらうよ。家でも土地でもできるだけのことはするからね」


 母のマナも口を揃えた。


「具合が良くないのにナギの相手までしてくださったんですってね。本当になんてまあ素晴らしいお嬢さんなんでしょう。ご両親はさぞかしご心配なさっているでしょうから、何としてでもあなたのご家族は必ず見つけます。それまでは何も心配しないでこの家で過ごしてくださいね」


 里穂はふたりにこれまでの手厚い看護の礼を述べ、もう暫く世話になると言った。それを聞いた夫妻は満足そうに頷き合い、マナは愛おしげに里穂を抱きしめて、それからナギを連れて部屋を出て行った。


「長々と大変だったね、お疲れ様。これから三人は領主のところの晩餐会に行くそうだ。都の土産話をしなければならないのでね」


 ユアンが面倒臭そうに言った。その手の類の集まりは苦手そうな顔だ。


「ナギちゃんのご両親は本当にお金持ちなんですね。お礼は家でも土地でもって言うからびっくりしました」


「まあ、この辺りでは間違いなくいちばんだろうね。だからリホは遠慮なく何でももらうといいよ」


 そう言うとユアンはいたずらっぽくウインクをした。里穂が「考えておきます」と茶目っ気たっぷりに答えると、ユアンは声を立てて笑った。笑顔も素敵だ。ハンサムで優しくてユーモアもあって、もしユアンが里穂の大学にいたらたちまち大人気になるだろう。そんな光景を見てみたいと里穂は思った。

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