第3話 違和感
凪咲の様子が気にかかるが、
「先生、お姉ちゃま泣いてるよっ!」
不意に耳元で子どもの声がして里穂は目を開けた。いつ来たのか右横に見知らぬ少女がいる。小学校低学年くらいだろうか、栗色の髪を二つに分けてリボンを結び今にも泣きそうな顔だ。するとその向こうからひょいと若い男が顔を覗かせた。
「ほんとだ。ナギ、どいて。お嬢さん、気分はどうですか」
少女を脇に押しやって男は里穂の手を取り頬に触れた。しかし男は医者には見えなかった。それだけではない、病院だと思っていた部屋はホテルの一室のようだし、普通あるはずの点滴やベッド横のモニターもない。里穂が状況を把握できずに呆然としているのを見て男が静かに語りかけた。
「驚くのも無理はない、君は事故に遭ってここに担ぎ込まれ、三日も昏睡状態だった。多分、頭を強く打ったんだろう。目が覚めて良かったよ。体の方は打撲と擦り傷で骨が折れたりはしていない。ただ傷が広範囲だから治るまでには少し時間がかかりそうだ。理解できるかい?」
里穂は何か大きな違和感を覚えつつも小さく頷いた。
「良かった。療養が長引きそうだから君のご家族に連絡したいんだが、君の名前は? どこから来たの?」
その時里穂は違和感の正体を理解した。この男の話している言葉は日本語ではない。それにふたりともどうやら日本人ではなさそうなのだ。
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