第17話
この城のメイドや給仕係は戦争時は特例で全員家に帰していた。
それは戦争の時ぐらいは家族との時間を過ごしてほしいというサンク様と私からの願いであった。
「ふぅー…」
浴槽にたっぷりのお湯を張ってゆっくり浸かる。
入浴剤を入れたおかげで真っ白なお湯からは薔薇の香りが漂ってくる。
「1人で入る習慣をつけておくと、案外こういう時に不便に感じないわね」
髪を洗ったり体を隅々まで綺麗にしてから、全身を温めるためにもう一度ゆっくりとお湯に浸かり直す。
「……サンク様はご無事かしら」
国王だからこそ敵から狙われやすい。
護衛はついているとしても、爆弾を投げ込まれれば無事では済まない。
「……心配してもしょうがないことだけれど」
何だか長く入る気にもならなくて、早々に浴室を出る。
濡れたままだと風邪を引いてしまうから、しっかりと髪と身体を拭いてから服を着る。
夜の襲撃に備えて一応動きやすい格好を選んだ。
浴室を出ると、月の光が廊下を照らしていた。
満月ではないものの、それでも十分な明るさだった。
そういえば今が何時かなんて気にしていなかった。
窓を少し開けてみると、冷たい風が入り込んできた。
戦争が起きている時特有の街の静けさ。
志願して軍に所属しているとはいえ、家族はそれを良しとは思っていないことが多いだろう。
「……早く終わらせないと」
そう呟いて、窓を閉めた。
今は私も無事を祈るしかないのだ。
「あー…そっか」
自室に戻ると暖炉に詰め込んだ死体はまだ燃えていた。
まだ少し残っているため、それも暖炉に入れる。
残りの問題はぐちゃぐちゃになった部屋だ。
割られた机に床にある数多の銃痕。
壁と床に飛び散った血痕。
これは誰が見ても悲惨な現場である。
どう考えても誤魔化せるものではない。
しかし、私はそれを隠し通す必要があった。
「…もうこの部屋ごと燃やしたい」
疲れているせいか自棄になりかける。
とりあえず証拠隠滅のために部屋にあった木製の家具は細かくして燃やしていく。
どうせもう修復できないほど壊れてしまっている。
「……これ片付けるの大変ね」
大きな破片は箒で掃き、細かいものは塵取りで取る。
それをひたすら繰り返す作業。
あらかた終えてからカーペットを新しいものに変えて銃痕を隠す。
ようやく部屋が見れる状態になったのは、それから数時間後のことだった。
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