第16話
毒ガスをただの窒素に戻すために中和用の気体が入った瓶をドレスの中から取り出し、床に置いて蓋を開ける。
これをドレスの中に隠し持っておくことで、万が一捕まって床に座らせられることになってもどうにかして瓶を割って自分の周りから無害なガスに戻すことができるというものだ。
ガスの中和を待っているとインカムから受信音が鳴った。
「ウィル?」
「女王様」
通信相手はウィルだった。
息が切れつつも、なんとか言葉を発しようとしているのが伝わってくる。
「どうしたの」
「女王様の予想通り、情報管理室に侵入者がありました。全員迎え撃ち情報も守りましたが、あの、女王様の方は何があったのですか…?」
「この部屋の監視カメラを見ているの?個人情報も何もないわね」
部屋の隅に設置されているであろうカメラに向けて手を振ってみる。
「そこにカメラはないです」
「え、どこ?隠すの上手すぎない?」
「そんなことはいいんですよ。なんで女王様の部屋に死体が転がっているんですか!?」
「んー…なんか護身用に持っていた銃撃ったら偶然当たったのよ」
「…過度な謙遜は嫌味になりますよ」
インカムの向こうから冷たいウィルの声が届く。
何も言わずに存在に気づいていたカメラを睨めば、小さく悲鳴が聞こえる。
「…気づいていたんですね」
「何のこと?」
ウィルはそれ以上何も言わなかった。
「あ、そうだ。この映像消しておいてね」
「何故ですか?」
「色々不都合なことが映っているのよ。あとサンク様への報告も上げないで」
「…承知いたしました」
その言葉でウィルとの通信が切れる。
毒ガスが中和されたのを確認して大きく息をつく。
「さて、この死体どうしようかしら」
部屋を見渡して目についたのは、冬場に大活躍する暖炉だ。
元々部屋が広すぎるため、私の自室には2つ暖炉があった。
「…確か人間って燃やすと異臭がするわよね」
しかしこれ以外に処理方法が思いつかないため、薪を焚べて火をつける。
ある程度火が大きくなってから予め切っておいた死体を暖炉に入れていく。
「…燃えるの遅いわね。お風呂も入らないといけないのに」
戦争はそんなに早く終わらないと思うし、そもそもまだ始まったばかりなのにもう疲れた。
「これから追加で刺客が送られてきたらどうしようかしら」
そんなことを呟くながら燃え尽きるのを待つ。
仕込み杖の刃に付いた血痕や油をふき取った布もついでに燃やす。
人体の油が付いた刃は切れ味が悪くなって仕方ない。
「こんなに汚れたら新調しないといけないじゃない……」
武器が壊れれば戦いようがない。
とりあえず今は替えの武器を持っていないから、また今度にでも武器屋に行く必要がある。
「はぁ……」
思わずため息が出る。
その間にも死体は燃えてくれるので薪を追加しながらどんどん燃やしていく。
「……眠い」
色々あって精神的にも体力的にも疲弊しているせいか、欠伸が出てくる。
「寝たいけど、流石にこの状況で眠れないし……」
目を覚ますためにもお風呂に入りたい。
とりあえず詰め込めるだけ死体を暖炉に詰め込んでから部屋を出た。
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