第12話
「では行ってくる」
「無事に帰ってきてください」
例のチェスから数週間後、予想通りクレンル王国がクロンダルに宣戦布告を出してきた。
ウェルにお願いをしていたからか、軍も順応に対応してくれて今は出軍する所だった。
「もしも攫われたりしたら例の合図を」
「分かっております。ご心配なさらないでください」
「……」
「行ってらっしゃいませ」
サンク様とサンク様率いる軍を見送り、城に戻る。
人の気配が随分減った城はいつもよりも閑散としていた。
「女王様、こちらウェルです。聞こえていますでしょうか?」
「ウェルね。聞こえているわよ」
耳にインカムを付けるとウェルの声が聞こえる。これは2人だけの通信も繋げることが可能で、お互いの戦況を伝え合うためにウェルが用意してくれた物だった。
「これ凄いわね。綺麗に聞こえるわ」
「普通の通信と今の通信を切り替えることができますのでお使いくださいね」
カタカタと何かを動かしている音がすることからきっと何か作業をしながら話しているのだろう。
私もそろそろ支度をするかと思い、簡素なドレスに着替えた。
杖を突き、大きめの机に広げられた地図と戦略をまとめた資料を見直す。
この戦略を立てたのは主に私だ。
もし戦略負けしたら隊員の命が危険に晒され、死傷者が増える可能性だってある。
戦場に出ないとは言え、1番命を預かっている役割でもあった。
「…大丈夫ですよ。」
嫌な予想が頭を埋め尽くしかけた時、ウィルの声が鮮明に届いた。
「あなたの作戦は私たちが絶対に崩させません。それに、隊員たちも女王様を信頼しているから勝てると信じて戦場に向かっています。作戦を立てた本人である女王様が不安がってどうするんですか」
絶対的な信頼の言葉に勇気付けられる。
そうだ、私が不安がってどうする。
杖の柄の部分を握りしめる。
手の震えが少し治ったような気がした。
「ありがとう」
「いえ」
そんなやり取りをした直後、全体への通信が入った。
スイッチを押して切り替えれば、サンク様の声が聞こえる。
「皆、本来ならば戦争など無くなればいいが自国を守るために時には争わねばならない。平和な世のため、未来のために今一度力を貸してほしい!!」
サンク様の言葉に続き、応えるような隊員の割れんばかりの声も聞こえる。
初めて聞く戦場の声に思わず息を呑む。
「いよいよ戦争が始まるのね」
「…互いの無事を祈りましょう」
大きな音と共に戦争は始まった。
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