第10話


目を覚ますといつもの天井ではなく、文字がびっしり書かれた書類が目に入る。

結局昨夜は、資料の読み込みをしている途中で寝落ちしてしまったらしい。

伸びをするとバキボキと音が鳴り、日光で目が痛む。


「んー……」


カーテンを開ければ朝日が差し込む。


「ふぅ……」


もう一度大きく深呼吸をすれば、ようやく頭がすっきりしてきた。

顔を洗って身支度を整えるとちょうど部屋の扉がノックされた。


「女王様、軍から情報管理部隊隊長のウェル・ベルダム様がお見えです」

「ウェルが?通して」


しばらくして入ってきた彼女はいつもよりも険しい顔をしていた。

何となく話の内容を察して、人払いをする。


「連絡もない訪問で申し訳ありません」

「気にしないで。昨日のことに関してかしら」

「はい」

「仕事が早くて助かるわ。お座りになって。今紅茶を淹れますから」

「いえ、それよりも早急に話したいことがございます」


ただならぬ雰囲気に私も彼女の向かいに座る。

彼女が鞄から取り出した書類を受けとる。

軽く目を通すとそれは例の薬を盛った男の遍歴と、クレンル王国についての情報が記されていた。


「結論を申し上げると、この男はクレンル王国のスパイです」

「そう」

「クレンル王国の現在の内情から考えるに、そろそろ攻め込んできてもおかしくないでしょう」

「…そうね、もう動き始めているかもしれない」

「女王様はどうなさるつもりですか?」

「…まずはサンク様のご意見を伺うわ。今日の昼頃に会う予定があるから」

「分かりました」


ウェルは心配そうに私を見る。

その目が何かを訴えていたが、その意味を受け取る前に目を逸らした。


「国王は身体で戦い、私は戦略で戦う。それがクロンダルの戦い方よ」

「でも、」

「大丈夫だから。クレンル王国の今までの戦い方の傾向から考えるに、きっと少数精鋭で来ると思うの。そちらに気を取られている隙に国内にすでに紛れ込んでいるスパイが、中枢機関を壊して統制を取れないようにする。その時狙われるのは」

「まさか…」


「…この城と軍の情報管理室よ」


この土地を目的とするなら、ウイルスをバラまくようなことはしないはず。

むしろ、この国ごと乗っ取ることを考えるはずだ。

そうなれば必然的に狙ってくるのはこの2つになる。


「サンク様にはこのことを伝えておくけれど、あなたも念頭に置いておいて。軍の情報管理室を守ることができるのはあなただから」

「承知しました」

「…あと、きっと痺れ薬を使ってくる可能性が考えられるの。即効性で長時間効く痺れ薬」


執務机に置いてある書類の中から、私が実際に盛られた痺れ薬の予想をまとめたものを探し出す。

それをウェルに渡すと、彼女は食い入るように見つめていた。


「きっとこれ関連が使われる」

「…なんで、どこからこんな情報を」

「それは内緒よ」


そう言って笑うも、訝しげな目で見られる。

しかし彼女にも時間が迫っていたようで、その日は追及しないまま帰って行った。


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