第4話


食事を終えてから再び書庫に籠った。

先程の毒は何だったのかを調べつつ、元々調べていたことについての資料も引っ張り出す。

私にとって知識を得ることは生きがいであり、幸せである。

だからこそ書庫に入り浸っているし、こうして資料を漁ることだって苦ではない。

本をどんどん引き抜き、中に書かれている必要な情報を紙にまとめていく。


しかしいつもとは違い指先が段々と動かなくなる。

おおよそ先程の毒のせいだろうか。

飲んだ感じの症状と文献の比較をしてみれば、案の定同じものが出てきた。

やはりあれは痺れ薬の類だったようだ。

それも即効性かつ持続性の高い薬。

これまた厄介なものを盛ってくれたものだ。


「あー…字が書けない」


どうやら私があまり飲んだことのない種類の薬だったらしく、段々と効いてきた。

即効性だった割にここまで動くことができるということは少しだが耐性はあったらしい。


「とりあえずまとめるのは明日にして今は頭に入れるしかないわね」


それからは書庫に設置されている椅子に腰かけてひたすらに頭に叩き込む。

文字を読むだけならばそこまで支障はないが、書くとなると話は別になる。

痺れているからと言って作業を終われるほど、私の知識欲は枯れていないのだ。



どれぐらい経ったのだろう。

ずっと資料を読み込んでいた気がする。


再び意識が外に向いたきっかけはやはりノックの音だった。


「入っていいですよ」


そう返事をすれば、扉が開かれそこから姿を現したのはサンク様であった。


「どうかされましたか?」

「…お前、昨日寝たか?」


扉を閉めてからこちらに近づいてきたサンク様に聞かれる。


「…寝ましたよ」

「嘘つけ」

「本当ですってば。ちゃんと睡眠は取ります」

「じゃあなんでそんな疲れた顔してんだよ」


目元をなぞられて、やっと気付いた。

確かに昨日から仮眠どころか休憩もしていなかった。


「ちょっと資料の読み込みに没頭していたんですよ」

「一旦休め。本積みすぎてここ危ないぞ」


周囲を見てみると、自分が読んでは積んでいった本が散乱している。

確かにこの状態で転ぶなんてことになったら大変だ。


「分かりました。では少し自室で休ませてもらいますね」

「そうしてくれ」


手を差し出されたため、積まれた本を倒さないように気を付けながら彼の手を掴んで立ち上がる。

すると長らく立ち上がっていなかったからか、足元がふらついた。


「おっと」

「ありがとうございます」


倒れそうになったところをサンク様に支えられた。

そのまま彼に体重をかければ、すんなりと抱き留めてくれる。


「本当に大丈夫か?歩けるか?」

「大丈夫ですので、杖を取っていただいてもいいですか?」


立てかけておいた杖を見ながらお願いすれば、彼は取ってはくれるが私に渡してくれない。

それを不思議に思って顔を見れば、彼は悪戯っぽく笑っていた。


「え、なんですか」

「俺がいるから杖はいらないだろ?」

「…いや、大丈夫ですから杖を」

「遠慮はしなくていい」


何を言っても離してくれる気配はない。

こうなったら力づくでもと思ったのだが、どうやら痺れ薬が抜け切れていないらしい。

さすが持続性がある薬だ。


「…ではお願いします」


抵抗するのも諦めてサンク様に支えてもらいながら書庫を出れば、私の自室を通り過ぎてサンク様の自室に連れていかれる。


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