第3話
杖を突きながら城内を移動するというのは、中々骨が折れる上に目を引きやすい。
幸いそれを見て笑うような人はここにはいないから負い目を負うようなことはなかった。
ようやくたどり着いた書庫の扉を見上げる。
ここは自分にとっての楽園である反面、自分を呑み込む沼のような場所でもある。
今日は時間を意識することを頭の片隅に入れつつ、扉を開けた。
ギィッと音を立て開いた先には、本特有の匂いが鼻腔を刺激する。
中に入り、扉をしっかり閉めたことを確認してから目的の本を探すために梯子を持った。
書庫に小さなノック音が響く。
顔を上げて窓を見れば、閉まっているカーテンの隙間から漏れる光はいつの間にか白色からオレンジ色へと変化していた。
「どうぞ」
急いで身なりを整えて扉の方を見れば、メイドが顔を覗かせていた。
「失礼いたします。そろそろ夕食のお時間となりますので、ご準備をお願い致します」
「ありがとう、キリがついたからこのまま向かうわ」
呼びに来てくれたメイドとそのまま食堂へ向かえば、そこにはすでにサンク様の姿があった。
「遅れて申し訳ありません。お待たせしてしまいましたね」
「大丈夫だ。俺も今来たところだからな」
そう言いながらも、彼は見ていた書類を置いた。
私が席に着いたところで食堂の入口に控えていた給仕係が料理を運んできた。
今日のメインは魚らしい。
目の前に置かれたそれにナイフを入れる。
するとふっくらとした身に綺麗な断面が現れた。
「……美味しい」
「あぁ、本当に」
思わず口から零れた言葉に反応され、驚いて彼を見つめてしまう。
無意識の言葉だっただけに少々恥ずかしい。
そのまま静かに食べ進めた時、新しく運ばれてきた飲み物に違和感を感じた。
興味のまま飲めば、ほんの少しの刺激を感じる。
「…これは」
確実な毒だった。
この刺激は何度も感じたことがある。
でも死ぬような量ではないため、きっと誰かの嫌がらせか動揺を誘うための罠だろう。
生憎私は、女王として生まれた時からこのようなことに巻き込まれる覚悟はしていた。
だから幼い頃から日々毒を飲んで耐性をつけておいたのである。
私は簡単なことでは死なないし、国王陛下の動揺をこんなことで誘わない。
「これ、とても美味しいわね」
ワインを注いでくれたメイドにそう言えば不思議そうに、お口に合ったようで良かったです、と返される。
この人じゃない。
控えている給仕係を違和感のないように見回せば、1人だけこの部屋を出ていく給仕がいた。
恐らく犯人はあの人だ。
顔や背格好を覚えつつ、毒のせいで味が分からなくなった料理を口に運んだ。
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