第4話 見た目通りであっている
「兄者よ、知っているか?よく食うやつをこの世界では豚というらしいぞ」
「何故?!」
「なんかねー豚は太ってるんだって。よく食べると太っちゃうでしょ。そういうところからそう言われてるんだって」
「人間とは意味がわからない!美味ければたくさん食べる、そうだろう?そもそも俺たちは見た目に反して体脂肪は少ないんだぞ?!」
「そのことは知ってる人は知ってるっていうくらいの認知だよー」
「なんと嘆かわしい!……待てよ、弟たち。もしかして今の俺たちは豚だと思われているのではないか……?」
「兄者よ、今更か」
「…………え?」
「あはは、流石大兄者。この視線に気付いてなかったんだねー」
「弟たちよ、もっと他にあるだろう!」
「だって俺たち豚だし」
声を揃えてそう言う弟たちに、兄は沈黙した。そうだけど、そうじゃない。
街をブラブラしていた仲良しなこの兄弟は食品サンプルにつられてこのレストランに入った。
この世界に来てから幾ばく、最初は食品サンプルも本当と食材が使われていると思ったものだ。
食べられない作り物だと知った時は人間の器用さに感嘆し、小一時間は食品サンプルを眺めていたものだ。100円ショップによくある食品サンプルグッズは兄弟で集めて回った。
そんな兄弟が今座っているテーブルには最早テーブルが見えないくらい料理で埋め尽くされている。
牛丼、ラーメン、パスタにグラタン、ハンバーグ。オムライス、ドリアとステーキに山盛りポテト。パフェにケーキに以下省略。
日本のレストランで三人の男が頼む量ではないのは確かである。そんなテーブルがあったらテーブルはもちろんそこに集うものたちも注目されるのは当然だった。何なら写真を撮られているし(堂々とした盗撮)兄弟たちを見ながら声を潜めて話すマダムたちもいる。
さて、この自分たちを豚だと言った三兄弟の話をしよう。彼らは今は人型だが三匹の仔豚に出てくる仔豚の兄弟そのものだ。
三匹の仔豚は今では有名になり皆に知られる御伽噺だが、始まりはイングランドの民間伝承である。その歴史は古く、18世紀後期以前には物語の原型が語られていたとされている。
この世界に飛ばされてくる前、彼らは母親から自立を促され各々家を建てようと別れた直前であった。
「お互い立派な家を建てて落ち着いたら其々の家でパーティーでもしよう。それまでサヨナラだ」
なんて数年は会わないような会話をして別れて10分程度で彼らは再会した。しかも異世界で。これには三兄弟皆目を丸くしたものである。
そしてハーツの屋敷で色々と教わり、彼らは彼らなりにこの世界に馴染んでいったのである。
沈黙しつつもモグモグと食べることを止まない長男仔豚のイーピー。良い方にも悪い方にも欲に忠実である。
この世界でひょんなことから忍者にハマってしまったジャパニーズオタクになった次男仔豚のターピー。
そして天才肌で何でもこなせてしまう甘えん坊三男仔豚のアーピー。
ターピーとアーピーは盗撮や視線やヒソヒソ話などに気付いているが、イーピー同様食べることは止めない。
だって日本のご飯は美味い。
どうせ俺たち元々豚だし。
そうして仔豚たちは食事を楽しむのであった。
「この世界でも花が綺麗だね。今日は何処にお花見に行こうか」
「お爺さん、今は水仙や鈴蘭も咲いているそうよ。私はそれを見に行きたいですね」
「そうかそうか、それじゃあ今日はそれらを見に行こう。ポチも良いかい?」
「ワン!」
ニコニコと笑う仲良し老夫婦と白い犬が仲良くゆっくりと山道を降りていく。
青い美しい空を見て、この老夫婦に良き日をと白い犬は空に吠えた。
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