鏡面

これにて全ての参加者が揃いました。

奴村陽奈、三門こころ、篠田澪、

吉永寧々、国方茉莉、槙結華、

槙悠里以上7名となります。


2023年4月11日、

ルールを連絡いたします。

暫しお待ちください。

これはレクリエーションです。

お楽しみください。



そんな不穏なメッセージが届いてから

早数日が経ていた。

休日を挟んだけれど、

全く休んだ気になれない。

金曜日は入学式の関係で

部活もなかったのだけれど、

そうだとしても疲れや緊張感は

ほぐれることはなかった。


陽奈「…。」


昨日は部活があったが、

今日はお休み。

帰りの用意も済ませて

荷物を持って図書室へと向かう。

新入生が入ってきて

賑やかになった高校の中を

1人俯きながら歩いた。


新入生が入ったことで、

放課後も随分と人の

話し声が聞こえた。

きっと体験入部をするかどうか、

するにしてもどこに行くかを

友達と話し合っているのだろう。

私も入学して早々は

そうだったと思い出す。

勇気を出して隣の人に

話しかけたんだっけ。

今でも仲良くしてもらってるが、

今年は別のクラスだった。

仲のいい子がクラスにおらず、

今のところは自分の席が

唯一の居場所になっている。


陽奈「…はぁ…。」


何かきっかけでもないと

私は人と話すことができないらしい。

きっかけがあっても

仲良くなるまでには時間がかかる。

雨鯨のメンバーともそうだった。

いろはは身内だから大丈夫だけど、

他2人とは莫大な時間を必要とした。

今やっと少しずつ話せるように

なってきたところなのに、

今度はレクリエーションだかなんだかに

無理矢理参加させられる。

Twitterのアカウントも全部

変更させられて戻すこともできない。

私はきっと人生の運がないんだ。


「陽奈。」


陽奈「わっ…あ…。」


びく、と肩を大きく震わせて振り向く。

その表紙に眼鏡が飛んでいきそうになり

片手で慌てて押さえた。

鞄がぐるんと半回転し、

遠心力で私の体をもっていこうとする。


振り返ると、そこには

特徴的な2つ結びと、

きりっとした目つきが見えた。


美月「驚かせちゃったかしら。」


陽奈「あ、うん、まぁでも大丈夫…。」


美月「そう。よかった。」


私と同じ目線くらいの彼女は

爽やかに笑いながらそう言った。


美月ちゃんとは去年同じクラスだったため、

1年くらいの付き合いになる。

2週間に1度、図書室で

美月ちゃんからは好きな本を、

私からは好きな曲を教え合っていた。

教室内ではずっと一緒にいるわけではなく、

それぞれ別のグループにいた。

クラスの人たちも、

私と美月ちゃんが仲良くしているなんて

あまり想像がつかないだろう。


美月「行きましょ。」


陽奈「うん…!」


階段を登り、図書室へと進む。

美月ちゃんが先導するように

私の前を歩くことは時々あるけれど、

今では隣を歩くことが多くなった。


美月ちゃんは入学当初、

誰もが近寄りがたい雰囲気を持っていた。

噂を耳にするに、

お寺の娘だからお金持ちだとか、

危ない宗教の勧誘をしてくるだとか、

あまりいいことは言われていなかった。

美月ちゃん自身、

それを耳にしていたかどうかはわからない。

ただ、廊下でしゃがみ込んで

動けなくなっていた時もあったし、

あまり調子は良くなさそうだった。

よく暗い顔をしていたと思う。


けれど、夏休みを

終えたくらいからだろうか、

枷が外れたように明るく笑うようになった。

今だってそうだ。

私を見ては爽やかに笑っていた。

教室内でもその雰囲気が伝播して

美月ちゃんは怖い人じゃないんだって

みんな近寄るようになっていったっけ。

むしろ勉強を教えてもらう

場面も時々見かけた。

そこに私は混じっていないけれど、

彼女たちのグループ内で

上手くいっているのであればそれでいい。

部活でも調子が良くなっていたらいいな。


そんなことを考えながら

今日も本と曲を紹介し合う。

図書室の先生ともそろそろ顔馴染みになり

数回は言葉を交わせるようになってきた。

図書室へは美月ちゃんと話す時以外にも

足を運ぶようになっていたからだと思う。

人目を気にしすぎないで

いい場所だったから、

居心地がとんでもなくよかった。


1年も経てばこのやりとりも

段々と長くなり、

1時間弱ほど話していただろうか、

漸く解散する運びとなった。

廊下に出ると、楽器の音が聞こえてくる。


美月「今日もありがとう。家に帰って聞いてみるわ。」


陽奈「こちらこそありがとう。読んでみる。」


美月「ええ。また教室にも遊びに行くわ。」


陽奈「うん。」


美月「じゃあ、また2週間後、ここでね。」


陽奈「またね。」


手を穏やかに振る。

美月ちゃんも手を振ってくれて、

そして振り返ることなく

真っ直ぐと歩いて行った。


強い春の日差しが窓から差し込む。

ぱー、とトランペットらしい音が

遠くから響いてくる。


時計を確認すると、まだ午後4時程度。

今日は三門こころさんと槙悠里さんの

2人と会う予定だ。

三門さんは私と同じ2年生、

槙さんは1年生で、

しかも彼女は私と同じ高校らしい。

槙さんが部活体験が終わるまで

この学校で待つことになっている。

それまでまだ1時間と少し。


陽奈「…少し読んでようかな。」


美月ちゃんからおすすめしてもらった本を

頭の中で思い返して呟いていた。





***





本を読んでいると

あっという間に時間は過ぎ、

危うく集合時間を忘れるところだった。

ばたばたと図書室を後にし、

集合場所である靴箱付近の壁際では

見覚えのある顔が見えた。

それは、ネット上でしか

見たことはないのだけれど、

確かにこの人で間違いない

という確信があった。


けれど、ここで話しかけられないのが私だ。

目の前を通り過ぎながら

念の為顔をもう1度確認する計画を

練っていた時に、

突如彼女は顔を上げた。


悠里「ん?あ、陽奈先輩ですよね?」


陽奈「ひ、あ、はぃ…。」


悠里「よかったぁー、違う人だったらめっちゃ恥ずかしいところだったぁー。」


槙さんは明るくよく通る声で

こちらに話しかけてきた。

ぐいぐいと物理的な距離を詰められて

酷く緊張してしまう。


悠里「会って早々で悪いんですけど、そろそろ行きますか!こころ先輩とも会わなきゃだし。」


陽奈「あ、うん…そう、ですね。」


今日は駄目かもしれない。

美月ちゃんといた時には

そんなことなんて一切思っていなかったのに、

知らない人と会うとすぐこうだ。

顔を俯かせると、また眼鏡がゆるりと

落ちてきそうになった。


2人で外を歩くのは

なんだか新鮮過ぎて自分でも

夢なんじゃないかとすら思い始めた。

しかも、相手は同学年ではなくひとつ年下。

後輩と一緒に下校しているのだ。


悠里「そーだ、陽奈さんってあの18月の雨鯨の紅さんですよね?」


槙さんは声を落とすことなくそう口にする。

刹那、心臓がどくんと跳ね、

とんでもなく恥ずかしくなった。

周囲には幸い人はいないようで

安心したけれど、

もしこれを誰かに

聞かれてたらと思うと気が気でない。


陽奈「……はぃ…。」


悠里「よかったー、間違えてたらどうしようかと思っちゃった。」


陽奈「…。」


悠里「うちのこと、覚えてます?」


陽奈「…ぁ、えと、リプで……その、シエロ…さん…。」


悠里「そーなんです!あの時はコラボしてくれてありがとうございますー。」


陽奈「いえ、私の方こそ…!」


悠里「まさかこんな形で会うなんて思ってもいませんがでしたよー。」


陽奈「あはは…。」


悠里「てか陽奈先輩、実際に会ってみたら小さくて可愛いー。」


槙さんはにこ、と笑いながら

そう言ってくれるけれど、

私はどうにも自分の身長も

好きになることはできなかった。

槙さんは…平均身長くらいだろうか。

160cmはないと思う。

いろはよりかは背が低そうだった。


槙さんは結った短いポニーテールを

揺らしながら絶え間なく

私へと話しかけてきた。

部活の体験会に行ってきたことや

新しいクラスに気の合う人がいたこと。

私とは真反対の性格に

尻込みすることしかできなかった。


駅に着くまで、私は苦笑いしたり

何か聞かれたら少しの言葉で

返答したりしていた。

電車を待っている時、

槙さんは鞄を躊躇なく地面に置き、

肩が凝っていたのか

思い切り手を上に上げて背伸びをしていた。


悠里「いやー、陽奈先輩ってマジで聞き上手ですよねー。」


陽奈「え…そんなことは…。」


悠里「マジですって。相槌打ってくれるし嬉しいー。」


陽奈「…そう…ですか……?」


悠里「そーですよぉ。」


ゆるりと腕を下ろし、

今度はポケットからスマホを取り出しては

何事もないように弄り出す。

私であればできないことを

この子はすいすいとやってみせる。

私は2人でいる時は特に

相手に気を遣い過ぎて

スマホを見ることもできない。


悠里「てか、レクリエーションって何するんでしょうね。」


陽奈「…まだ、連絡来てないんだっけ…。」


悠里「来てないっすね。」


陽奈「そういえば……槙さんって姉妹なんですか…?」


悠里「そーでーす。結華は双子の妹なんですよぉ。」


陽奈「そう…なんですね…。」


槙さんがスマホを見ているからだろうか、

なんだか話しづらくて

口を噤んでしまった。


少しして彼女はスマホを仕舞い、

ただ互いにぼんやりとする時間があった。

気まずいことこの上ない中、

反対側のホームに電車が滑り込む。


悠里「うちー、陽奈先輩には期待してるんですよぉー。」


陽奈「……え…?」


悠里「今の言葉、忘れないでくださいね?」


陽奈「…あ…うん。」


それってどういう意味って

聞き返そうとしたけれど、

反対側の電車が出発し、

その轟音で私の声はかき消されてしまう。

うん、と小さく頷くことしかできなかった。


それから電車に乗る間も話をしたり、

槙さんはスマホを見たりと

耐え難い時間を過ごす。

既に帰りたいなんて思っている中、

やっと電車を降りた。

今度はもう1人と会うのだけれど、

その人もいわゆる陽キャっぽくて

どうしても苦手意識があった。

なんで私がここにいるんだろうと

肩身の狭い思いをしながら

2人で待っていると、

遠くから綺麗な方がこちらへと向かってきた。


悠里「あの人じゃないすか?」


陽奈「…え?」


こころ「遅れてごめーん!」


三門さんは私たちに気づくと

小走りでこちらに向かい、

申し訳なさそうに軽く頭を下げてそう言った。

が、近づいて漸くわかる。

三門さんはとても身長が高かった。

私とは頭ひとつか、もしかしたら

2つ分くらいは違うかもしれない。


こころ「悠里ちゃんと陽奈ちゃんだよね?」


悠里「そーですよー。」


陽奈「…。」


こころ「よかった。あ、実際には初めましてだよね。僕、三門こころです。」


悠里「こころ先輩律儀ー。」


こころ「まあ、アカウント名で知ってるから要らないとは思ったけど一応ね。」


悠里「いっすねー。今日はどこで話します?」


こころ「近くに可愛いカフェあるんだけど、そこじゃ駄目かな?」


悠里「先輩の行きたいとこ行きましょうよー。ね、陽奈先輩?」


陽奈「え…あ、うん。」


こころ「よーし、じゃあ決まり!今期間限定のイベントやってて、どうしても行きたかったんだ。」


悠里「どういう系のカフェなんですかー?落ち着いてる系?」


こころ「あはは、僕見てそんな感じする?」


悠里「しないかもー。」


三門さんと槙さんは雰囲気が似ており、

私はやはりここにいるのは

おかしいなんて思ってしまう。

きらきらとした雰囲気の中、

私が混ざるなんて考えられない。


こころ「あれ、陽奈ちゃん!こっちこっち!」


三門さんはこちらの方を見て

手招きをしてくれた。

私は俯きながらひっそりと

ついていくことしかできなかった。





***





三門さんの向かった先は、

白と淡いピンク色を基調とした

なんとも女の子らしいカフェだった。

少し話すだけにしては綺麗すぎるというか、

ここまで来なくてもいいんじゃないかと

思ってしまうほどだった。

私と槙さんが隣で、

三門さんが正面に座る。

カフェなんてこれまで入らないように

してきたことが多かった。

なんだか苦手なのだ。

どこからでも見られていそうな

この感覚が苦痛だった。

早めに終わればいいけど

飲み物を頼んでいるのを見るあたり

時間がかかりそうだ。


三門さんは例の期間限定の

ピンク色の飲み物を注文して、

私と槙さんは無難にもカフェオレを頼む。

待っている間にも槙さんは

スマホを取り出していた。


こころ「ずっと来たいと思ってたんだけどなかなか来れなかったの。」


悠里「そうだったんですねぇ。」


こころ「今日いい機会だったんだ。付き合わせてごめんね。」


悠里「うちはぜーんぜんいいですよー。」


陽奈「…わ、私も…。」


こころ「そうそう、聞いてよ。僕のお姉ちゃんも去年Twitterのアカウントがおかしくなったんだって。」


陽奈「え…!」


こころ「ネットの人が言うには、ね。お姉ちゃんに確認したら、別に何にもないって言うんだよ。」


どういうことなのか

一瞬理解ができなかった。

ネットの人たちは

三門さんのお姉さんも

今の私たちみたいに巻き込まれていたと言う。

けれど、三門さんが直接

お姉さんに確認をしても

何もないと言われた。

ただただお姉さんが気を遣って

言わないようにしているだけなのかな。

それにしても、前々から同じような出来事は

起こっているのかと、

少しばかり安心した、のだと思う。

前例はある。

なら、きっと今の状況から

抜け出す方法だってあるはず。


悠里「あ、見てくださいこれ。」


槙さんはスマホを私たちに

見えるように傾けて画面に指を差す。

何かと思うと、そこには

404のアカウントから

連絡が入っているのか見えた。


こころ「ルール説明?」


三門さんが声を漏らす。

そこには、レクリエーションの

ルール説明か書かれていた。



『参加者の皆様には2チームに分かれいただきました。Aグループは奴村陽奈、三門こころ、槙悠里の3名、Bグループは篠田澪、吉永寧々、国方茉莉、槙結華の4名です。』


『2日後の4/13より、Aグループから順に相手のグループから1人を選び、自分たちのグループに加えることができます。指定の日に代表の人がアプリを使用して、誰をグループに加えるのか前日までに申告してください。回数制限は、両グループ合計で11回となります。』


『誰を選ぶも選ばないも参加者の皆様の自由です。それではお楽しみくださいませ。』



選ぶとか選ばないとか、

そもそもチーム分けがどうとか

私の頭の中には全く入ってこなかった。

お楽しみくださいませという言葉に

歓迎の意をあまり感じない。


悠里「なんかあれですね、あれっぽい。」


こころ「あはは、なになに。」


悠里「あれ、はないちもんめみたいですねー。」


こころ「確かに。じゃんけんがないバージョンのはないちもんめみたいな感じかするね。」


悠里「制限は11回。2日に1回行われるから、長くて22日まで続くんですかねー。どっちかだけ1回多く選んでいいっぽいですね。」


こころ「終わりについて書かれてないけどどうなんだろう。」


悠里「さあ。」


こころ「はないちもんめなら、どちらかひとチームにみんなが集まれば終わりっていうのが普通だけど。」


悠里「んじゃあ、片方に全部寄せればいいんじゃないですか?」


こころ「うーん、多分そうだよね。あ、別のチームと相談すればすぐ終わるんじゃない?」


悠里「それはできないんじゃないっすかー?」


陽奈「え…何で…?」


不意に声が出てしまったことが

恥ずかしくて眼鏡をかけ直すふりをした。

そんなことしたって意味ないし、

むしろ恥ずかしさが増すだけだと

分かっているのにしてしまう。

2人とも気にしていないのか

槙さんのスマホを見ながら話した。

ちら、と槙さんがスマホから視線を外し

私のことを一瞥した。


悠里「だってうち、結華に聞いたけど何言ってんだって適当言われましたもん。」


陽奈「…え、でも参加者って…。」


悠里「そーなんですよぉ。でもスマホ見せてもうんともすんとも言わないしー。」


こころ「じゃあここに書いてある別のグループの人には話が通じないってこと?」


三門さんは、え、やばいやばいと

何度か口にした。

確かに現実ではあり得ない。

流石に話が飛躍し過ぎてるんじゃ

ないかなとも思った。


こころ「すご、パラレルワールドみたい。」


悠里「ですねー。」


こころ「でも僕たち、ずっと同じ世界線で生きてるよ?どっちが本物とかわかるの?」


悠里「質問湧き過ぎですってー。」


陽奈「あ、あはは…。」


こころ「だって気になるじゃん。」


悠里「全部本物なんじゃないっすか?」


こころ「全部本物?ならどうして僕たち」


悠里「あーもう、うちだってわからないですー。」


こころ「ごめんごめん、そうだよね。」


槙さんはじと、と三門さんを見ては

彼女は笑いながら謝っていた。

槙さんはスマホを仕舞い、

ひとつ息を吐いてから肩をすくませた。


悠里「とりあえず、明日になるのを待ってから相談して選ぶことにことにしましょうか。」





***





寧々「…ということらしいです。」


吉永はそう言い、スマホから目を離す。

その説明文にある通り、

ホーム画面には謎の真っ白なアプリが

ひとつ追加されており、

それを開くと選択画面が出てきた。

名前と、うちらのTwitterアイコンと似た

写真がそれぞれ縦に配置されている。


今日は天気も良く、

立ち止まっていても暑くも寒くもなく

ちょうどいい気温だったため、

誰かの提案で高校近くの

公園に集まることになった。

国方だけが他校の人間なのだが、

こちらに合わせてわざわざ

足を運んでくれた。


国方と槙はベンチに座り、

うちはブランコの周囲にある

柵にもたれかかるように位置どり、

吉永はうちらを一望できるような位置で

直立しているのだった。

疲れないのか、疑問に思う。

ベンチでもし座ることになり、

隣が吉永になるなんてことは

どうしても嫌だったので、

1年生2人に譲ると圧をかけたのだ。

2人とも遠慮はしたけど結局は

座ってくれてありがたかった。


茉莉「…と、言われても。」


寧々「…私も全く訳がわからないです。」


吉永は声を落とす。

国方も国方で何を考えているのか

わからないほど平坦な声でそう言った。


結華「明日までに向こうのグループが指定してくるんですよね?」


澪「見るとそうやんな。」


結華「じゃあこちらからはまだ何もできない…?」


茉莉「槙さんの姉妹にも相談できないし…ってなると茉莉の知り合いにも無理そうですもんね。」


槙が姉妹に聞いても

何ともない反応をされたと言う。

それを踏まえて、きっと他の人に

聞いても無駄だと悟っていた。


ただ、今日の昼間に

嶋原に会った時のこと。

出会い頭、唐突に言われたことがあった。





°°°°°





梨菜「篠田さん、篠田さん!」


澪「しゃーしか。なんね。」


梨菜「あの、アカウント…色々おかしくなってるんでしょ…?」


澪「知っとるんや。」


梨菜「うん。…その、私も去年同じことになったの。」


澪「…は?」


梨菜「今何を話しても信じられないと思うけど、これだけは忘れないで。私、いつでも力を貸すから!」





°°°°°





これだけ残して、

先生に勉強を教えてもらうからと言い残し

その場を後にしていた。

嶋原も同じような目に

遭っていたのも衝撃だった。

そのような素振りはなかった…といえば

嘘になるのかもしれない。

もしかしたら遊留と仲が悪くなり

うちらのグループに来たことも

もしかしたら関係があったのかも。

そのような大きな人間関係の変化が

今後待ち受けているのかもしれないと思うと

反吐が出そうだった。


寧々「相手グループから誰かを選ぶ時の代表、どうしましょうか。」


澪「選ばんでいいっちゃないと。」


自分のスマホの電源を消して、

柵から地面へと体重を移動させる。


寧々「それも相談して」


澪「こんなふざけた話、構ってられん。」


吉永の場を仕切ろうとする感じ、

そして何もかも決めておかなきゃ

気の済まない空気感。

それがひしひしと伝わって来た。

うちはこの空気感というよりも

吉永自身が苦手だ。

いや、苦手なんてものでは済まない。

嫌いだ、嫌いだった。


澪「帰るわ。」


寧々「ちょっと、篠田さん!」


澪「なん。」


寧々「和を乱すような行動は」


澪「じゃあ殴ってでも何でも止めり。真面目ちゃんはそんなことせんやろうけどね。」


ちらと横目で見やっては睨む。

吉永さんも悔しそうな、

はたまた泣きそうな

顔をしていたように見えた。

ああ。

だから嫌いなんだ。

泣いてさえいれば、

弱いヒロインを気取っていれば

皆が助けてくれるだろうという思考が。

その思考をしていそうな吉永が。


うちはそのまま背を向け、

1年生たちにも何か言うことはせず

公園を去っていった。


澪「馬鹿馬鹿しか。」


吉永も、姉も、このレクリエーションも。

全部全部どうだっていい。

どうだっていいのにも関わらず、

胸の奥底、心の隅がちくりと

痛んだような気がしたのは

きっと気のせいなのだ。


明日からもうちらの日常は

変わりなく続いていく。

多少変わるかもしれないけれど、

それが途切れることなんてないのだから。


そんな理由のない物事を確信して

帰りたくもない家までとぼとぼと

1人歩くのだった。

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