戦闘シーン解説

異世界ファンタジー小説の華である戦闘シーンについて。本作は戦闘が主題ではないが、やはりRPG好きとしては書く時に力が入り、なによりとても楽しいシーンである。それぞれの戦闘シーンの見どころや意図について語っていく。


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トム vs トロル(第3話「邂逅」)


格下の魔物だが相性が悪くて苦戦するという、一人旅の寂しさとつらさがテーマ。また「火に弱く再生能力を持つトロル」という、現代ファンタジーのパブリックイメージを持ち出すことで、「そういう世界設定の話」であると、わかる人にはわからせる効果も狙っている。


また、トムが自己強化呪文を使うのは、実はこの回のみである。仲間がいる場合はそちらの回復や支援を優先するという役割分担なのだ。


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トム vs オリバー(第10話「新人」)


イキった若者をわからせる回。ここまでに少し情けないシーンもあったが、トムは熟練の冒険者であるということをあらためて印象付ける。少年漫画における修行回を師匠視点で描くような話で、書いていて楽しかった。


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トム vs オリバー&メリナ&ライラ(第11話「訓練」)


やろうと思えばスキップできたシーンだが、乱戦を書くというのに挑戦してみたかったので敢えて書いた。この頃はまだオリバーとメリナは凸凹コンビだったのである。もう少し、この二人の成長は丁寧に描けたかも知れない。


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トム vs 怪鳥(第15話「怪鳥」)


反転回復の試し撃ち。かなり都合よく相性のいい相手(防御回避特化、HP低い)を設定した。ただ倒すだけでは味気ないので、その後の死体を運搬して換金するというシーンを加えたことで人間関係や世界構築の奥深さを描けたという意味で満足度の高い回。


「強気にふっかけたつもりの言い値であっさり買われる」というのは、前身となる短編のセルフパロディである。作劇的には、(時系列的には後の話である短編で)トムがジャックの交渉を真似たという設定になる。


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トム&オリバー vs トロル、ライラ&メリナ vs ゴブリン(第21話「静寂」)


再びトロルと戦わせることでトムの成長と仲間の心強さを改めて印象付ける。ポールの付与魔術もここで登場。前後のシーンで、飛竜襲撃に備えた緊張感を伝える。


新人のみならずライラにとっての初の実戦シーンでもある。もともと戦闘能力ではトムに及ばないので、この回に限らずうまく見せるのに苦労した。


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魔術学院の精鋭 vs 飛竜(第22話「襲撃」)


対飛竜の前半戦。もともと「心臓で剣を鍛える」というネタを早期に思いついたので、竜とはいつか戦わせるつもりだったが魅せ方に悩み(これだけが理由ではないが、数ヶ月も執筆が停滞していた)、最終的にたどり着いたのが都市の全勢力で迎え撃つレイドバトルである。


トムが現場にいないため、本作で唯一の三人称視点を用いたシーンである。40話のラストで「この物語はトムが執筆したもの」ということにしてしまったので齟齬が出るのだが、このシーンについては伝聞をもとに書いたとか、適当な形で納得してください。かっこよければいいんだよ!


もともと、攻撃魔法の基本として炎・雷・氷の三属性が念頭にあったので、それぞれに特化した精鋭部隊を構想。さらに撹乱用の幻術士の4部隊を用意した。個人ではなく部隊単位の、徹底した規律で行動するという冒険者とは別の論理の強さを感じていただけたなら幸いである。


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ギルドの冒険者 vs 飛竜(第23話「決着」)


対飛竜の後半戦。トムが主にコマンダーヒーラーとして活躍する回。飛竜は本作でも随一の「頭の良い敵」なので、ちょっとした頭脳戦のような要素も入れた。反転回復の最大の見せ場であり、逆にいえば「反転回復が絶妙にハマる」というご都合展開でもある。ジャックの矢との同時狙撃はとても好きなシーン。


最後は「ライラの血と飛竜の血」が重なるにはどうすればいいかを、あれこれ考えながら作った。


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パーティ vs 火吹き虫の群れ(第33話「新緑」)


なんてことはない雑魚。パーティが再結成されたので、その強さを描くためのやられ役である。また、次に戦うアンデッドの格を下げるための戦闘描写でもある。


11話の回想で触れた連携と比べると、メンバーが増えたためにイザの役割が変わっている点に注目。エレナと同時行動するようになって、生き残りを仕留める役をライラとアルフに譲っている。


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パーティ vs アンデッドの群れ(第35話「深淵」)


戦闘自体は前回とほぼ変わらない感じなのだが、エルの祈りや清めといった神官らしいシーンを多めに入れ、次回の神降臨につなげる。この回だけを見ると虫よりちょっと強い程度の雑魚だが、次の回で恐ろしい存在であったことが明かされる。


言ってみれば「私欲で動く悪人がいくら努力や準備を積み重ねようが、公のために動く善人の集団にはあっけなく敗れる」という、本作及び作者の世界観(どのように世界を見ているか)を象徴するような回。


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パーティ vs 混沌の獣(第37話「混沌」)


ラスボス戦。最大の見どころはエレナによる三大魔術のコンボ。ゲーム的に言えば、不意打ちの1ターンからの3ターンで決着がついている上に、奴は実質的に2回しか行動できていない(ライラを不意打ち→ゴルドを攻撃→豪雷を食らってスタン→死)。作劇的には死闘よりも、仲間たちの華々しい活躍を第一に描きたかったのでサンドバッグになってもらった。


ヒーラーであるエルが積極的に攻撃しているシーンがある。これは敵のスタンに合わせてゴルド卿が全力攻撃を指示したため。メタ的な事を言うと、第1話で白兵戦もこなすと説明したのに、実際に戦うシーンがなかったためにねじこんだとも。


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トム&ライラ vs オーガの群れ(第40話「日々」)


短編冒頭のリライト。新大陸渡航から数ヶ月が経過し、ライラもそれなりにレベルアップしているのでオーガ相手に無双できている。この続きはノクターンノベルズで読めるぞ!(ただし今後の続編を書く場合、設定をそのまま引き継ぐかは微妙。「冒険者」のイメージなども当初から結構変わっているし)


ライラの一人称が、短編の「あたし」から「私」にマイナーチェンジしているのは、「あたし」だとどうしても頭が足りないような印象が強くなるため。

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