第三章 ラスプーチンの娘 其の三、

 第三章 ラスプーチンの娘


 其の三、


「——貴方は、フランスの発明家、ジャック・ド・ヴォーカンソンが作った、『フルート吹き(プチ・ジャック)』でしょう? 人間である私の本当に欲しいものが、人形の貴方に判るのかしら?」


 白系ロシア人の少女は何食わぬ顔をして、思いがけない事を言った。


「…………」


 ヴォーカンソンの顔から、今度こそ笑顔が消えた。


 白系ロシア人の少女の美貌からは相変わらずどんな表情も窺い知る事はできなかったが、彼が今まで誰にも知られる事のなかった正体をいとも簡単に見抜いた。


「……お前」


 ヴォーカンソンはしばし呆然として、不思議そうな顔をして言った。


 彼女が言った通りなのだ。


 フランス貴族の家系とも、コルシカ・マフィアの出とも噂される青年の正体は、フランスの発明家、ジャック・ド・ヴォーカンソンが製作した自動人形の一つ、『笛吹き人形』だった。


「何を訳の判らない事を……いや、お前はどこでそれを知ったのだ? なぜ、判ったんだ!?」


 ヴォーカンソンは一度誤魔化そうとしたが、結局、好奇心が勝ったらしい。


 初対面にも関わらず、自分の正体を見破ったこの少女は、いったい、何者なのか?


「『シュテファン・ド・ヴォーカンソン』——子ども十字軍を指揮した、笛吹き少年の名前を拝借しているのね」


 白系ロシア人の少女は、ヴォーカンソンの名前の由来まで知っていた。


「なぜ、そしてどこまで、私の事を把握しているのか知らないが、私の正体を知る者と会うのは久しぶりだよ。しかも、それが、こんなに可愛らしいお嬢さんだとはね」


 ヴォーカンソンは自分の正体を見破られたというのに、機嫌がよさそうに言った。


 フランスの発明家、ジャック・ド・ヴォーカンソンは、一七〇九年、アルプスの麓、グルノーブルで生まれ、まず最初に時計職人を志し、解剖学と力学を学び、機械論的思想を受けて、自動人形の制作に打ち込んだという。


 彼の作品は一七三八年、パリの科学アカデミーで公開された、『笛吹き』、『太鼓打ち』、『アヒル』が代表的な所である。


 人間のように笛を吹く『笛吹き』、同じく太鼓を叩く『太鼓打ち』、まるで本当に生きているように餌を啄ばみ糞までする『アヒル』は、人々から驚きと賞賛を持って迎えられた。


 だが、『笛吹き』は演奏する時に、正しい指の使い方が再現できるほど関節が機能せず、その手には革手袋が嵌められていたという。


『笛吹き』達の存在はヨーロッパ中に知られ、人々を大いに楽しませたものだが、産業革命が起きた時、彼らの運命は変わった。


 産業革命が起きた後、人々が求めたのは驚きや楽しみなどではなく、実用的なロボット、産業に役に立つロボットだったのである。


 それ故、『笛吹き』達は興行師に売り飛ばされ、イギリス、ロシア、ドイツ、イタリア、世界各地を放浪し、最後はみんな、哀れな末路を辿る事になった。


 人の手で作られた、『笛吹き』も、『太鼓打ち』も、『アヒル』も、作られた時と同じように、人の手によって破壊された。


 いや、


 ——いくら時代が変わったとは言え、なぜ、私達は売り飛ばされ、破壊されなければならなかったのか?


『笛吹き』は機械仕掛けの身体にも関わらず、まるで生きた人間のように胸の内に疑問が湧き上がり、湧き上がった疑問を原動力とするように生き人形となって、人間社会に人知れず溶け込んでいた。


 そして今、彼は、フランス人美術商、『シュテファン・ド・ヴォーカンソン』を名乗り、上海租界で生きていた。


 ヴォーカンソンは、自分がなぜ、この世に生まれたのか、なぜ、あんな最後を迎えなければならなかったのか、大袈裟かも知れないが、言わば、宇宙の真理を理解しようとして、世に〝魔術の帝王〟として知られる、十六世紀、神聖ローマ皇帝を真似て、『驚異の部屋』を作り始めた。


 ギャラリー、『キャビネ・ド・キュリオジテ』の誕生である。


 そうして、ヴォーカンソンは美術商を営み、ものを売り買いする事を通して、ある時、ふと気付いた。


 なぜ、自分達が売り飛ばされ、破壊されなければならなかったのか。


 その答えを。


 考えてみれば、簡単な事だった。


 人もものも飽きられて、必要がなくなれば、捨てられ、売り払われ、挙げ句の果てには、破壊される。


 ただ、それだけの事だ。


 だからこそ、自分は今、珍奇なものを集めるのがやめられないのだろう。


 ——今よりも、これよりも、もっと珍しいものを、もっと違うものを!


 いつも珍奇な品々に囲まれていれば、自然と人々の耳目は集まり、所有者である自分も、他人から飽きられる事はない。


 ——その辺にはない、普通とは違うものを、もっと!


 ヴォーカンソンはそう思っているからこそ、この街が好きだった。


 都市自体が『驚異の部屋』の様相を呈した、出鱈目で面白みに満ちたこの街、魔都・上海が。


「だから、この街は面白い!」


 ヴォーカンソンは白系ロシア人の少女を前にして、にやにやと笑った。


 いかにも見窄らしい格好をした物乞いのような白系ロシア人の少女が、突然、場違いなギャラリーに現れたかと思えば、長年、人間のふりをしてギャラリーの主人を務めていた自分の正体を、いとも簡単に見抜く。


「ふふふ!」


 上海租界は、日常という幕を開け、時々、素敵なショーを見せてくれるから、飽きない、退屈しない。


「お前も私と同じ人ならざる者か!?」


 ヴォーカンソンは些か、興奮を抑えきれない様子だった。


「それで、お前の出生はどんなものなんだ? さあ、答えてごらん? 私をもっと楽しませておくれ!」


 ヴォーカンソンは詰め寄るように言った。


「…………」


 白系ロシア人の少女は、呆然と立ち尽くしたままだった。


「どうした? 私もお前と同じなんだから、何も隠す必要はないんだよ」


 ヴォーカンソンは悪魔が囁くように言った。


「私は人もものも珍しいものが大好きなんだ。だから、教えてくれないか? 早く見せてくれないか? なぜ、お前はこの世に生まれてきたのかを、どんな事ができるのかを!」


 ヴォーカンソンは我慢ができない子どものようにせがんだ。


「……私は、〝神の人(スタレツ)〟——グリゴリー・エフィモヴィチ・ラスプーチンの娘よ」


 白系ロシア人の少女は家出をしてきた子どものように、自分の出自をぼそぼそと語り始めた。


「ラスプーチン? あの〝ロシアの怪僧〟、ラスプーチンか?」


 ヴォーカンソンは好奇心に満ちた目をして言った。


「ええ、そうよ」


〝ロシアの怪僧〟、ラスプーチンの娘を自称する少女は、話を続けた。


 可愛らしい外見とは裏腹に、内容はおよそ、子どもらしさの欠片もなかった。


 ——私はお母さんと一緒に、ロシアから船に乗って上海に来たの。ただの船じゃなくて、ロシア艦隊の一隻。


 ロシアで革命が起こってから、白軍と赤軍はずっと戦ってきたけど、白軍が負けて、私とお母さんは帰る場所を失った。


 でも、海軍の軍人さんが、私達のような難民を軍艦に乗せて、一緒に逃げてくれたの。


 私達が紛れ込んだ艦隊は、全部で三十隻ぐらい、甲板には家財道具が積み上げられて、大砲には万国旗みたいに洗濯物がはためいていた。


 食料も水も足りなかったし、途中で嵐に見舞われて、二隻が沈没、大勢の人が海の底に沈んじゃった。


 どうにかこうにかクリスマスで賑わう呉淞江に辿り着いた時には、艦隊は十四隻にまで減っていたわ。


 上海租界で偉そうにしていた外国人は、私達を受け入れる事に対して消極的だった。


 あの人達は、私達の事を、白人の名誉を汚し、租界の秩序を乱す存在だと思っているのよ。


 実際、英語や中国語ができないロシア人の事は雇いたがらなかったし、祖国ロシアで、官職や教職、専門職に就いていた人達も、以前とは比べ物にならないぐらい少ないお給料で肉体労働に従事させられた。


 それも中国人の労働者と、仕事を奪い合いながらね。


 でも一番辛い思いをしたのは、私のお母さんみたいな女の人達……生活の為に身体を売るしかなかった女の人達。


 私達は祖国にいた時とは全然違う生活をする事になったのよ……ついこの間、お母さんは病気で死んじゃった。


 私はお母さんが死んだその日に、お母さんと一緒に住んでいた安アパートから出て行く事にしたわ。


 なぜって?


 お母さんは安アパートのおんぼろベッドの上で、骸骨みたいに痩せて死んじゃったからよ。


 信じられる?


 御伽噺に出てくるお姫様みたいに綺麗だったお母さんが、見る影もなくなっちゃったのよ。


 まるで古くなって壊れたお人形さんみたいに、可哀想な死に方だった。


 お母さんはロシア革命の波に飲まれて最後は売春婦に身を落としたけど、若い頃はとっても綺麗で、気品に満ちていた人だったの。


 お母さんの容姿は異国の地である上海で生きていかなけれならなくなった時も役に立った。


 でも、それがよかったのか、悪かったのか。


 もし、お母さんが夜の仕事をしなかったら、私達は二人とも生きていく事はできなかったけど、結局、お母さんは、夜の仕事のせいで病気になった。


 いつも来ていたお客さんも病気を患って容姿が衰えてからは遠のいてしまって、最後は誰にも気づかれる事なく、独りぼっちで死んじゃった。


 一緒に住んでいたはずの娘の私だって、朝から物乞いに出ていて、最期を看取る事はできなかった。


 お母さんは、朝、出かける前に見た時と同じように、おんぼろベッドの上で寝ていたわ。


 元々、病気で痩せて小さくなった身体が、なんだかもっと小さくなって冷たく硬くなっていた。


 私はその時、絶対にお母さんみたいになりたくない、って思った。


 もちろん、ここまで育ててくれた事に対して感謝はしているけど、お母さんみたいに死ぬのは嫌だし、身体だって売りたくない。


 ……でもね、私は知っていたのよ。自分でも鏡を見る度に思っていたの。私は、お母さんの若い頃にそっくりだっていう事に。


 だから将来、お母さんと同じ道を歩むんじゃないかって、目の前に暗い未来がちらついて仕方なかった。


 例え誰かを好きになってせっかく結ばれたとしても、お母さんがお父さんを失ったみたいに死に別れる事になるんじゃないか。


 生まれた国をなくして、見知らぬ国で知らない人に身体を売って、最後は娘に看取られる事もなく、一人寂しく死んでいくんじゃないか。


 ……だから、私は知りたかったの——これから私はどうすればいいのか、どこに行けば安心して暮らせるのか?


 白軍が負けた時はみんな、海を越えればなんとかなるって言っていたわ。


 けれど、実際はどうにもならなかったし、全然安心なんかできなかった。


 それどころか、お母さんは独りぼっちで死んじゃったし、私は絶対そんな風になりたくないって思った。


 ……そしたら、自分の身体に流れるもう一つの血が騒ぎ出して、ここまで導いてくれたの。


「そう——ある日突然、私の頭の中に、見た事も聞いた事もない、貴方と貴方のギャラリーの事が思い浮かんだのよ。まるで天啓のように閃いたの。いいえ、天啓そのものだったわ。そして、私は貴方と、貴方のギャラリーを見つけて、今ここにいる」


 白系ロシア人の少女は、今夜、初めて顔を見た時からずっと生気というものが感じられなかったが、上気した面持ちで、活き活きとした様子で言った。


 彼女の身体に流れるもう一つの血というのは、父親であるラスプーチンのものだろう。


〝ロシアの怪僧〟、ラスプーチン。


 彼は神秘的な力を発揮し、人々から〝神の人〟と言われていた。


 神秘的な力——ラスプーチンが意のままに操る超能力には、例えば白系ロシア人の少女がヴォーカンソンの正体を見破る事を可能とした、『精神感応テレパシー』、ここに来るきっかけを作った、『予知能力プレコグニション』も含まれていた。


「私は、今日、貴方と出会うべくして出会ったのよ。貴方は私の事を、お母さんとは違う未来に連れて行ってくれる、そんな予感がしているの。でも人間である私の本当に欲しいものが何か、人形の貴方に判るのかしら?」


 白系ロシア人の少女は不安そうな、或いは不思議そうな顔をして言った。


「もちろんだよ! 第一、お前自身がもう、答えを教えてくれているじゃないか」


 ヴォーカンソンはいかにも彼女の事を理解し、共感しているかのように、深々と頷いた。


「お前はね、独りぼっちになるのが嫌なんだよ。そしてきっと、自分の居場所が欲しくて堪らないんだ」


 ヴォーカンソンは視線の高さを合わせる為に腰を屈め、彼女の耳元で誘惑するように言った。


 その途端、彼女の虚ろな瞳から、ぽろぽろと大粒の涙が流れた。


「これはまた随分、面倒臭いお客様がやって来た事だな」


 ヴォーカンソンは、彼女が一声も出さずに泣き出したのを見て、鼻で笑うように言った。


 ギャラリーの閉店時間はとうに過ぎていたし、面倒臭いお客様にはお帰り願う事もできたのだが——、


「図星を突かれて泣き出したのか。全く、退屈しない事だ。さて、お前はラスプーチンの娘だと言ったな?」


「ええ、言ったわ」


「あの男は手翳しで病気や怪我を治し、予言もできたと聞くが、お前が私の正体を見破ったのも、父親譲りの超能力という訳か?」


「そうよ、私にも普通の人には見えないものが見えるの。自分が見たいと思った時に見える訳じゃないけど、他人の記憶や感情、過去や未来が、ぱっと目の前に広がる事があるの。だから私は今日、ここにやって来たし、貴方が本当は誰か、何者なのかという事も判ったのよ」


 白系ロシア人の少女は涙の粒をぽろぽろ溢しながら、淡々とした調子で言った。


 だが、本当に怪僧ラスプーチンを父親に持ち、彼の類稀なる超能力を受け継いでいるとしたら、大変な事だった。


 一九〇四年、ラスプーチンは、サンクトペテルブルクで病に苦しむ人々を不思議な力を使って治し、人々から〝神の人〟と呼ばれた。


 そして、ロシア皇帝ニコライ二世の第一皇子、アレクセイ皇太子の血友病を治療した事で、アレクサンドラ皇后の信頼を得る。


 一九〇五年には、ニコライ二世に謁見、以後、皇帝にも気に入られ、彼は、政治に口を出し始めた。


 紆余曲折を経て、最後には暗殺者の手にかかって殺される事になるのだが、死に様がまた凄まじい。


 ラスプーチンはまず最初に晩餐に青酸カリウムを盛られたが、至って平然としていた。


 次に、鉄製の燭台で背後から頭蓋骨を叩き割られ、拳銃で二発、撃たれた。


 そこで反撃に転じたが、更に銃弾を食らい、さすがに倒れた所に殴る蹴るの暴行を受け、窓から放り出された。


 ラスプーチンは地面に叩きつけられても尚、息をしていた。


 終いには、絨毯で簀巻きにされ、極寒の運河に沈められたというが、ラスプーチンの暗殺事件はこれで終わりではなかった。


 後日、ラスプーチンの遺体を検視した結果、肺に水が溜まっていたという。


 つまり、毒を盛られ、頭蓋骨を叩き割られ、拳銃を撃ち込まれ、窓から落下し、簀巻きにされ、湖に沈んでも、まだ息があって、水中から脱出しようとしていたか、もがき苦しんでいた、という事になる。


 どう考えても、普通の人間ではない。


 本当に、そんな男が父親だというのなら——、


「いいか、今から私が言う事をよく聞くんだぞ。これからは私の為に、超能力を使うのだ。そうすれば私はお前に対して、決して寂しい思いはさせないし、独りぼっちにもさせない。そうそう、お前に居場所も用意してやろう」


 ヴォーカンソンは、自分の所有物になれば幸せにしてやると言わんばかりだった。


「…………」


 白系ロシア人の少女はようやく泣き止んだ所で、どう返事をするべきか、考え込んでいるようだった。


「別に何も怖がる事はないよ。お前が母親みたいになりたくないというのなら、なんでも好きなようにすればいい。ただ、その力は、私の為に使っておくれ。私はね、お前の力をもっと見たいんだよ。そうだ、お前は錬金術というものを知っているか?」


 ヴォーカンソンは飾り棚の一つから、実験器具に使うフラスコを持ってきた。


「このギャラリーと同じように、錬金術もまた宇宙の真理を探究する為にある。かの有名な錬金術師、パラケルススが残した著書、『ものの本性について』に、フラスコを使った人造人間ホムンクルスの製造方法が書かれているんだが……」


 ヴォーカンソンは何も知らない子どもに、勉強でも教えるように言った。


 パラケルススの著作に書かれた人造人間の製造方法は、簡単に言えばこんな風である。


 ——まず最初に、人間の精液を蒸留器に密閉し、馬糞の堆肥に埋め、四十日間、腐敗させる。


 蒸留器の中で何かがもぞもぞと動き始めたら、今度は人間の血を与え、馬の胎内と同じ温度で、四十日間、保管する。


 すると、小さな人間が生じる、と。


「要するに、この理論を応用すれば、お前と同じ超能力を持った、お前の分身を作る事ができる訳だ。どうだ、やってみる気はないか?」


 ヴォーカンソンの提案を聞き、白系ロシア人の少女は絶句したようだった。


「さあ、どうする? このまま私のコレクションになれば、人造人間の実験に協力すれば、お前はもう一人じゃない。お前の分身達もお前と同じように、みんな大事にしてやろうじゃないか?」


「…………」


 白系ロシア人の少女は一呼吸置いて、緊張と期待が入り混じったような複雑な顔をし、こくりと頷いた。


 ギャラリー『キャビネ・ド・キュリオジテ』に、五人の新入社員が入ってきた。


 全員女性で、下は十代から上は二十代までいた。


 五人のうち、一人は中肉中背、二人は小柄、残る二人は長身で、全員、顔の上半分を覆った特徴的な大きなサングラスをかけて、お揃いのダークスーツにその身を包んでいた。


 彼女達は背格好が違っても、なんとなく雰囲気がよく似ていたし、実際、サングラスを外せば、五つ子のようにそっくりな顔をしていた。


 だが、彼女達が人前でサングラスを外す事はなかったし、どこから来て、なぜ入社したのか、誰一人、社外の人間に口にする事はなかった。


 それ故、雇い主であるヴォーカンソンと、当の本人達、ヴェーディマ、プラーミア、ヴォールク、レナータ、リェチーチ以外は、知る由もなかった。


 彼女達、五人の顔貌が、ある夜、ギャラリーを訪れたラスプーチンの娘を自称する、白系ロシア人の少女のそれと、瓜二つだという事は。


 そう、あの日、ギャラリー『キャビネ・ド・キュリオジテ』を訪れた白系ロシア人の少女は、生まれ変わったのである。


 まるで〝ロシアの怪僧〟ラスプーチンの娘など、最初からどこにもいなかったように。


魔女ヴーディマ』と名を変えて。

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