第12話 到着
「.....ついた」
二有無と正昭は墓場へ着く
息を切らしながら二人は並ぶ石材を見つめた
「これ全部.....津波で無くなった人たちなのか」
そう二有無は見渡して言った
入り口には『一羽村 被災者』と書かれた看板が立っている
その入口を出ると、そこは墓地だった
ゆうに二百を軽々と超える墓が立っている
夜の雰囲気も相まって、いかにも映画で出てきそうなワンシーン
二有無たちは身震いをした
「早く行こう。もう津波がすぐそこまで来ている」
そう二有無は後ろを差していった
二人は全力で山の中を駆けたにもかかわらず水が上から流れていた
その水は泥やら色んなものが混ざり合い真っ黒な水を形成していた
その濁り具合はもう尋常ではない
被災者の怨念のような
その異常な水を見て二有無は脂汗が出る
もう自分たちには時間がないということを感じていた
それは正昭も同じ意見だったらしく、早口で言った
「早く藍火の墓を見つけるぞ」
「見つけてどうするんだ?」
「分からん。黙祷するだけだ。それで元の世界に帰れるかは知らん。今はやれることを最優先でするだけだ」
「.....」
二有無はごくりと喉を鳴らす
まだ自分たちは元の世界に帰れることが保証されていないからだ
二有無は自然と正昭の方を見る
彼は落ちついていた
汗一つかかず、ゆっくりと呼吸をしていた
その姿を見て二有無は妙に安心感を感じた
押しつぶされそうな
恐怖を吐き捨てるように、深呼吸をした後溜め込んだ空気を吐く
「行くか」
二人は墓地を駆けた
墓の名前を確認して次に進む
その繰り返し
墓地のあたりまで泥水が浸水していく
土が侵食していく
数十分後、正昭は遠くにいた二有無の方を振り向いて言った
「二有無、あったぞ。藍火の墓が」
「そうか。今行く!」
その声に反応した
二有無は急いで手招きをしている正昭の方へ行った
「そこに.....あるのか!藍火が」
正昭がいる所には素朴な石がぽつんと立っていた
他の墓と比べて、その墓だけは貧相であった
土に大きい石を置いて、その下に花が添えられた
簡易的な墓
二有無はそれに向かって一直線に走っていく
そして、待っている正昭に向かって言った
「これが、藍火の墓だな?」
「ああ、藍火の墓だ。これで元の世界に帰れるっていう保証はない。だけど、今は精一杯出来ることをやるべきだ」
「ああ、そうだな」
二人は墓の前に座る
そして、手を合わせて黙祷をする
何も考えることが無く
無の心のまま、祈る
水が足元を浸かっても、二人はひたすら黙祷をした
「.....」
何か変化がないか、二有無はまぶたを開けた
その瞬間、二有無は後ろに飛びのく
「どうした、二有無?いっ.....!」
その音に反応し、正昭は思わずまぶたを開けた
その開けた光景を見て、正昭は二有無と同じ反応になる
そこにいたのは、藍火であった
「あ、藍火.....」
「二有無君。ここに居たんだ.....早く家に帰ろうよ」
そう何事もなかったかのように藍火は言った
その姿はまさしく亡霊のよう
二有無の家で着せてきた服は着ていなかった
海岸で見つけた時のまま
裸足の姿で、髪はぼさぼさで汚れている
服は切り裂かれ、上半身が露出している姿
「あ、藍火.....君は死んだはずだ」
「うん。分かってる、分かってるよ。自分が死んだこと」
そのあっけらかんとした態度に二有無はぽかーんとした
そんな二有無たちを見て、藍火は続ける
「私は、10年前の津波で死んだ。校舎に波が溢れて、私は溺死した。でも、眼を開けるとそこは来世じゃなかった。私は前世に残ってしまったみたい。味も色も暑さも感じる。だけど、人の温もり感じられなかった。皆私を透明人間のように無視して寂しかった。でも.....」
「そんな中、二有無君が話しかけてくれた。君は.....死んでから最初に話した人だった。もう嬉しくて嬉しくて。だけど君は君の人生を歩むみたい。二有無君が学校を行く中、私はまた独りぼっちになった。でもそんなの耐えられない。そこで考えたの」
「う.....」
二有無は再び脂汗をかく
その次の言葉を聞きたくないと言わんばかりに首を振る
だが、それを察してか藍火は言い放った
「だから、津波があった日に君を呼んで。そして、死なせることにした。そしたら、二有無君は私だけを見てくれるよね」
「死んだ後も一緒に一緒にずっといようね、二有無君」
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