第11話 実

「急ぐぞ」


「う、うん」


前方は海が荒れ狂う

その様子を横目に正昭は言った

二有無は正昭が差し出した手を取り立ち上がる


そして、後ろを向き駆けだした






「なあ.....二有無。ちょっといいか?」


「良いけど。まだ何か話すことがあったのか?」


山を駆け下りるなか、正昭は走っている二有無に向かって言った

深夜午前3時

草木も眠る丑三つ時


より世界は深く沈んでいく

水はもう山にまで浸透していて、山の頂上から小さい川が出来ている

先ほどまで乾いた土はぬかるんだ泥になり

二有無たちを逃がさんと粘りが強くなっていく


それでも力を振り絞り、踏ん張って歩く中

正昭が無言の中、突然として二有無に喋りかけた


「さっき、思いが俺たちを過去に来させたって言っただろ。そこで肝心の何で俺が過去に来ているかまだ言ってなかったな」


「あ.....。そういえば、確かに今この状況で正昭がいるの不自然だな。何でここに居るんだ?」


二有無は興味津々で聞き返す


「.....さっきも言ったが、俺は孤独を感じていたからだ。俺は神社の家系で厳しい教育を受けていた。だが、俺には才能が無かったんだろうな。なかなか学んだことが芽吹かず、そして俺は家族に捨てられた」


「.....それで?」


「それで.....遠い親戚に預けられて、俺は毎日いじめられた。それで.....それで」


正昭は一度立ち止まった

もう我慢できないとばかりの感じで立ち止まり

泥だらけの地面に突っ伏す


「な、何を.....」


手と頭を地面につけて、正昭はどけざをした


「二有無、謝りたいことがある。今までイジメていたことを謝りたい。家のことでストレスを感じていて.....それでつい二有無を発散の道具として使ってしまっていた。本当に.....ごめん」


「.....立てよ。すぐに波が追い付くぞ」


そう言って二有無はどけざしている正昭に手を差し出した

正昭はその手を取ろうとしたその時


パチン


心地よい音が響いた

二有無が正昭の頬を叩いた

赤く染まる


「これでチャラだ。さっさと立て」


「許してくれるのか.....?」


「毎日うっとおしかったけどな。けど、今日から友達になろうな」


「.....ありがとう」


恐怖からか二有無は今までの怒りがすっかり消えていた

あるのは同情

孤独を味わったからこそ、同じ境遇の者だと知り同情をした

それと同時に不思議と親しみを覚えた


正昭は二有無の手を取って立ち上がる

全身泥で汚れていた

だが、二有無はそんな正昭の泥だらけの手を取る


「早く墓へ行くぞ。行きたいんだろ?」


「ああ.....ありがとう。ありがとう.....」


二人は立ち上がり、再び駆け出していった


______________________________________


一方、二有無たちのはるか後ろにて

ある少女が一人とてつもない速さで山をかけていた

その少女の名前は藍火


「.....今、二有無君の気配がした」


そう少女は言った

二有無の家で盗んできた服をかぎ、ご満悦な表情を浮かべる


「早く.....二有無君の愛を感じたい。感じたいよ.....。ん?」


藍火は地面にへこんでいる部分を見つける

丁度足のサイズほどの


「あ.....見つけた。今すぐ行くからね、二有無君」

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