第6話 ストーカー
二有無は全力でその場から立ち去った
追いかけてくる音はしなかったが、二有無は後ろを振り返らずにただ走った
「うう.....。何でこんなことに」
その時、二有無はある感じを思い出した
出会った時の頃
藍火から感じた不気味な雰囲気
改めてそれを再確認した
家で誓った『ずっと一緒にいる』という約束
あれはあながち嘘ではなかったが
二有無はあの約束がここまで重い思いになるとは予想だにしなかった
「とにかく.....今は、走らないと」
二有無は目的もなくただ走った
使い古された靴が擦り切れてボロボロになっても
服に草や泥が付き、二度と汚れが落ちなくなっても
ただ走り続けた
「.....やっぱここしかないのかな」
やがて二有無はある終着点に着く
そこは自宅
直ぐに居場所がバレてしまう場所
だが、そこが一番二有無にとって安心する隠れ家であった
食糧や水分、更には寝床があり
籠城するには十分な場所であった
というよりここしか選択肢が無かったというべきか
二有無には友達もいなく、匿ってくれる家が無かった
少し壊れかけている自分の家
二有無は少し心もとなく感じたが、玄関の鍵を二重に閉めて
物品で封鎖した
他の入り口も同様に守りを固くし、人が入ってこれないようにした
「少し.....休むか」
全力で走り、息切れを起こしている体を休める
深呼吸をして、震えを収める
疲れていたのか、二有無に突如として眠気が襲ってきた
それに抗っていた二有無であったが、睡魔には勝てず
やがて眠りについた
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午後10:00
二有無は突然の大きな音に目を覚ます
玄関のあたりから、何かが強く当たったような音が家中に響いた
咄嗟に二有無は起き上がる
近くにおいてあった鈍器を持って玄関の方へ行った
音が刻まないようゆっくりと歩く
「藍火じゃありませんように.....」
そう言って、扉の隙間から外を覗いた
「ひっ!!!」
音を上げないつもりだったのに、二有無は情けない声を上げた
その扉の隙間から藍火の眼と合ってしまったからだ
そのぎらぎらとした目は二有無を震え上がらせる
藍火は声が聞こえ、二有無がその家にいることを確認すると
扉の隙間から指を一本入れて言った
「二有無くーん。なんで私から逃げるの?私そんな変なことしたかなあ」
明るい声
だが、その眼は笑っていない
二有無はその迫力に怯み、小さく言葉を並べた
「で、でも。僕には学校というものがあるし。藍火のことは好きだけど、ずっと一緒にいることは出来ないよ」
好きという単語に反応して、藍火は血走った目で言ってきた
「好き?本当に私のことが好きなの?嬉しい!
私も二有無君のことが好き。ああ二有無くんに会いたいな。ねえ家の中に入れてよ。絶対に何もしないから」
「う.....うぅ.....」
二有無は座りながら後ずさりする
何もしないとは言いつつも、隙間から出ている指が血で染められている時点で
それが嘘だということが証拠づけられていたからだ
血が滴り土が赤く染まる
「ご、ごめん。怖いから開けることは.....できない」
「お願い、開けて.....。二有無くんがいないと何もできない.....。生きた心地がしないの。二有無君を抱きしめて触れないと明日を迎えられないの.....」
段々と扉がきしんでいく
藍火が強引に開けようとしている
「分かった!まだ洗脳されているのね。大丈夫、今から私のことだけしか考えられないようにするから」
僅かな隙間から数本の指を入れ、こじ開けようとする
扉はギシギシと音を出し、今にも壊れそうになっている
「大丈夫、痛い思いはしないから。ただ、私のことしか見れないようにするから。そすれば、解決だよね」
そう藍火は言って、力を入れる
そして、木製の扉は中心から崩れた
入り口が解放される
扉が老化していたからなのか、藍火の力が強すぎたのか
扉はいとも簡単にパラパラと音を立てて壊れた
闇に染まった家に月の明かりがさす
入り口には高揚した様子の藍火が二有無を見上げて立っていた
「二有無君.....。大好きだよ」
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