第5話 暴走

「.....」


二有無はそのうざったらしい声を無視して、スタスタと自分の机へ歩いていく

幸いにしてか今は授業中ではなく休み時間であった

教師の前に出て、確認する必要が無くなったのである

だが、この状況は今日に限ってはむしろ悪手であった

なぜなら、クラスの人たちの告白の痛手を突かれることになったからだ


最初にそう言った男子は下を向いて歩く二有無に向かって歩き、覗き込む


「なんだ?二有無くーん。無視はいけないなあ」

「告白をして振られた腹いせで人を無視することはやってはいけないことだよなあ!」


そうその男子は大声でクラス中に叫んだ

その声に皆の視線が二有無の方へ向かう

その視線の一人である告白された女子はその姿を見てほくそ笑んでいた


二有無が告白して振られたという噂はその女子たちによって広まっていた


「.....せえよ」

「あ?」

「こっちは振られて悲しんでんだ。少しは静かにしてくれ、正昭」


今西 正昭

それが二有無が今殺したいと思うほど憎んでいた男の名前であった

暴力とまではいかないが、二有無をいつもしつこく見張り

少しでもミスをしたら広めて陰口をたたく


やり口が汚く、また他の人を味方につけているので

二有無は正昭をうっとおしく思っていた


そして、二有無は遂に溜めていた感情を爆発させた


「大体お前気持ち悪いんだよ。いちいち俺の粗を見つけやがって」

「そ、そんな怒んなよ。そんなので必死になってお前こそ気持ち悪い奴」

「はあ⁉黙れ」


今にも二人は掴みかかり、喧嘩しそうになる

まさにその時だった

教室の扉が強く開け放たれる


バン!


「え.....」


あまりにも強く開けて音が響いたので、生徒の意識は

二有無たちの喧嘩から音のする方向へ向く

その教室の扉には黒い服を着て、肌が白く、青黒い長髪をした女子が立っていた

藍火であった


一瞬、教室中がシンとする

藍火はそんな静まり返った状況も知らずにずかずかと入り込み、掴みかかりそうになっていた正昭の髪を掴んだ


あまりの意外な状況に二有無は口をパクパクすることしか出来なかった

が、我に返って血気盛んな様子の藍火に向かって言う


「え⁉藍火、なんでここにいるの?」

「いてえ.....。この女、お前の連れかよ!」

「まあ.....。藍火、家にいてくれって言ったよな?」


その強い言葉に藍火は少しもひるまずに答えた


「二有無君.....この人達にいじめられてたんでしょ?いじめられてて、泣く泣く学校に登校してたんでしょ?この人達を退治したら二有無君戻ってくれるかなあ.....って思って。来ちゃった」


サラッと藍火は答えた

その堂々たる姿に二有無は困惑を見せる

これ以上刺激したらもしかしたらもっとヒートアップするかもしれないからだ


「あ.....あ.....」


二有無はクラス中を見渡す

お前の連れだろ、早く何とかしてくれという視線が二有無に刺さっていた

その無言の圧を察し、二有無は藍火の手を握って教室を出る


二有無は学校を少し出て、後ろを振り向いた


「うっ.....」


その藍火の表情は恍惚であり満足したような表情だと感じた

自分のせいで混沌とした状況に陥ったのに、当の本人は笑みを浮かべている


その姿に最初に会った不気味さを感じつつも、二有無は強く言い放った


「さっきはありがとう。おかげで少しスッカっとしたよ」


その言葉に藍火は更に顔に光がともる


「だけど、この結果に関しては僕の望んだ未来じゃない。家には早めに帰るから.....せめて大人しくして欲しい」

「やだ」


藍火は即答で答える

先ほどまでの硬骨な笑みとは対照的に藍火の顔は少し怒りを含んだ表情になっていた


「二有無君、ずっと一緒にいるって言ったじゃない。なのに、その数秒後に何で約束を破る真似をするの?」


そこから早口で藍火は話し始めた


「私記憶がないけど、ずっと一人ぼっちだった記憶があるの。だから、二有無君がそう言ってくれた時嬉しかった。なのに、また私を孤独にするの?」

「いや.....」

「なんでなんで、皆私を独りにするの.....?」

「ちょ、少し落ち着けって」


二有無の思いは届かず

藍火の顔はどんどん暗く染まっていく

未来に希望を見えないような、そんな暗い顔


「二有無君と一緒にいるには.....どうすればいいのかな?.....そうだ」

「え?」

「二有無君を閉じ込めて一生私だけを見るようにすればいいんだ。そうすれば解決だよね。大丈夫、私頑張ってお金を貯めるから。そうすれば二有無君は嫌いな学校にも行かなくていいし。私は独りにならない。これで解決だね」


そんな狂気的な内容を藍火は平然としながら言った


「ひっ.....!!!」


二有無は思わず腰が砕けへたり込む

二有無にとって今のは冗談には思えなかった

よくよく思えば海岸で拾った謎の少女


二有無は彼女を理解しているようで全く知らなかったのだ


「二有無君、ちょっと痛い思いをするけど大人しくしててね」


藍火が二有無に飛び掛かる

それに恐怖を覚え、二有無は勢いよく立ち家へ駆けだしていった


「待ってよ~」


後ろでそう乾いた声が聞こえる

だが、二有無は構わず駆けていった

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