ベストカップル

◼️7/22(金)ベスコン投票日


(男子バレー部部室)


「紙で投票か、何でSNSを使わないんだ?」悠一

「昭和から続いているコンテストだからな」湊

「良く続いてるよな」智裕

「今年で終わりにしても良いんじゃないか、夏合宿にさえ行ければ、こんな訳の分からないコンテストなんかに要はない」悠一

「そうしたのは、おまえじゃないのか?」湊


「そう言えば、しばらく恒星と会ってないな」悠一

「恒星は俗世間とは関わらないからな」湊

「何が楽しいんだろ」悠一

「凡人には分からんな」湊

「凡人だからな、SNSの投票状況の確認だな」悠一


(ミスターの部)

 1位 大和恒星 9258

 以下省略


(マイノリティの部)

 1位 2位↑ チュッパチャップス 4055

 2位 1位↓うさぎ 3870

 3位 4位↑ アンドレ 3507

 4位 6位↑ マライヒ 3408

 5位 3位↓ 聡一郎 3158

 6位 5位↓ 福原愛 3078

 7位 7位→ オスカル 1327


「チュッパチャップスがうさぎを抜いて1位か」湊

「昨日のサヨナラコンサートが盛り上がってたからな」悠一


「聡一郎はとうとうマライヒにも抜かされたか、感慨深いな。まあいい、実際の投票ではアンドレとマライヒは無効になる、票の多くが聡一郎に流れるはずだ」悠一

「アンドレで推薦し直した方が良くないか」智裕

「無理だと断られた。本人確認できないと駄目らし」悠一

「確かにオリジナルではないが確認要るのか?」湊


「愛ちゃんも頑張ってる」とホッとする悠一

「雛ちゃんの言う通り、二人の問題だしな」智裕


 昨日、SNS R&J Gameの掲示板に、本田雛子は愛とのことついて投稿していた。


『私たちは二人で戦ってきた。それは、嘘や過ちよりも、遥かにかけがえがない』と。

 

 雛子は、これは二人の問題だから、他の誰かが愛を傷つけるのはやめて欲しいと投稿した。二人は真実から目を背けず、これからも共に戦うと覚悟を決めたようだ。


「魔性の女なんてやっぱり嘘だったんだ、俺は信じてた」悠一

『さすが悠一だ、自分がしたことをさりげなく忘れようとしてる』湊


「うさぎちゃんも頑張ってるな」悠一


 確かにアルカイックスマイルには、思わず皆んなが手を合わせたのだが、元々、救われるために懺悔に来てるわけじゃない。うさぎのオシオキ目当てだから、救われてしまうと、無性にオシオキされたくなって、昨日のミサが異様に盛り上がってしまったのだ。


『明らかに悠一の作戦ミスだな。悠一が喜んでオシオキされてたからな』湊

『しかも、当麻を部室に閉じ込めたから、聡一郎も怒って悠一とは口も利かない』智裕

『良いのか、俺ら、こんなんで?』湊

『今更、言うな。俺は考えないようにしてる』智裕

『是が非でも夏合宿に行かないと報われないな』湊


***


 珍しく、秋葉悠一の予定通り、チュッパチャップスはお昼前に燃え尽きて、普通の女の子に戻ってしまった。チュッパチャップスは3人の個人エントリーを強引にグループ・エントリーにしていたので、解散と同時に元の個人エントリーに戻っている。SNSで見る限り、ランちゃんとスーちゃんが票を割って争っている。チュッパチャップスのベスコン・グランプリからの脱落はほぼ確定した。



 上野和香と一緒にベスコン会場に向かう恒星と聡一郎。二人が逃げないように、上野が見張りをさせられている。気が乗らないが、成り行きだから仕方ない、と自分に言い聞かせている。


「橘君は誰に投票するのかな?」

「俺も投票するの?」

「せっかくだから投票しないと」

「そうか、恒星に投票しとけば良い?」

『馬鹿か、こいつ』と睨む恒星

「そっちじゃなくて、橘君が投票するのはこっち」

「そうか、俺もミスに投票するのか」


 この人たちから?と候補者リストを何度も見返す聡一郎。


「今更だけど、誰にも投票したくない。どうしたらいい?」

「俺に聞いてるのか?」と再び恒星に睨まれる

「独り言だから」


 恒星が投票するわけない、ここに一緒に来てるのが奇跡に近い。


「オスカルで良いんじゃない?仲良しじゃん」

「上野さん、それ本気じゃないよね?」

「じゃあ、うさぎちゃんは?」


 オシオキ・オタクの方が未だマシか、、


「まともな人だと、愛ちゃんかな?」和香


 愛ちゃんか、俺には勝てないって言ってたな、


『あれ、じゃあ、俺か?』


「ごめん、ちょっと一人で考えたい」


***


『落ち着いて考えよ』と深呼吸する聡一郎


 俺は料理が好き、花も生ける、お茶だって点てる、その辺りの女子には負けない気がする。でも、お洒落ではないか、いや、オタクと近衛連隊長が良いなら、ジャージでも良い気がする。

 俺はジャージが似合うって、超お洒落な一里さんにも褒められた。しかも、スポーツだって男に負けてない、どうしよ、やっぱり俺かな、俺で良い気がしてきた、うさぎに、オスカルだからな、、


***


(ベスコン会場兼投票場)


 投票締切時間も近づいて、ベスコン会場も人が集まり、賑わい始めている。ベスコン・ミスは、オスカルと福島愛が戦線離脱、チュッパチャップスが解散した結果、事実上、うさぎと聡一郎の一騎打ちとなっている。しかも、悠一の予想と違い、オスカルとマライヒの票は聡一郎本人だけでなく、うさぎにも流れて、うさぎと聡一郎が最後まで競り合っている。


 まさか、オスカルとバンコランが2人一緒に投票場に乗り込んで「うさぎに1票を」って最後のお願いをするとは思わなかった、と歯噛みする悠一。


「当麻の奴、どこまでも俺たちの邪魔をする」悠一

「さすがに、あの2人は詰めが確実だ」湊

「アンドレ押しも、マライヒ押しも、うさぎに投票するしかないよな」智裕

「それでも、競り合う聡一郎は何者なんだ?」湊



 うさぎはうさぎでマイクを握って最後のお願いをしている。


「うさぎ、グランプリ取ったら、今夜は公開ライブで大和君をオシオキしま〜す。愛のオシオキ!大和君が喜んでくれたら、嬉しいで〜す。皆んなも応援して下さ〜い!」


 うさぎが会場に歩いて来た恒星と聡一郎を見つける。橘くーんと手を振るうさぎ、


「橘君も今夜のミサに、是非、参加して欲しいです。今夜、一緒に盛り上がりたいで〜す!」



 オスカルと当麻も、それぞれ白馬とブラウンの馬に跨って、近づいて来る恒星を馬上から見下ろしている。恒星は馬に跨るオスカルと当麻を一瞥すると、鼻で笑い、二人の前を通り過ぎる。


 聡一郎も何も見なかった振りをして、二人の前を通り過ぎる。


「あれが大和恒星か、気に入らんな、何なのだ、あの不躾な態度は」オスカル

「分かっただろ、俺たちが必ずうさぎの前に大和をひれ伏せてやる」当麻


***


 午後3時にベスコン投票は締切切られて、開票が進む。


 1位、2位が並んだまま最後の1票です。ミスターは開票開始1分で大和恒星君の当選確実が出ましたが、ミスは予想通りの大混戦。うさぎちゃんと聡一郎さんがお互いに一歩も譲らずトップを競い合い、7856票で並んだまま、とうとう最後の1票です。


 さすが俺、トップじゃん、何だかドキドキしてきたぞ、と聡一郎


「うさぎちゃんか聡一郎さんか、それとも他の誰かか、最後の1票を開いてみます」MC


 MCが舞台中央で最後の1票を開いたままフリーズする、『ちょっと待って、これって有り?でもな、仕方ないか、書いてるからな、ヤケクソだな』


「最後の1票は、『俺!』、俺です、俺って書いてあります」MC


 投票用紙をそのまま丸めて捨てるMC、ガッツポーズの聡一郎。


「イエーイ!やったね、それ俺です!」

「あなたですか?」

「そう、俺。橘聡一郎とも言います」

「アウト!、アウト、アウト、アウト、『俺』は無効です」聡一郎に畳みかけるMC。

「困りますよ、氏名を書いて貰わないと。どうするんですか、最後の1票だったのに」

「でも、俺ですよ」

「分かってますよ、アウトです」


 側にいたうさぎの目が光る。


『やっぱりオシオキしたい、絶対、大和君よりこっちの方がいい』


 舞台の片隅で見守っていたオスカルの顔が曇る。

『ああ、私のアンドレ、可哀想なアンドレ、未だ自分の名を思い出せぬのか』、嘆かわしい。


***


「仕方ない、同点決勝です。ミスターにどちらかを選んで貰います。大和恒星君にどちらか一人を大和君の手で掴んで貰います」MC


 ミスターの玉座に座らされている恒星の前に、うさぎと聡一郎が並んで立つ。

 聡一郎を見上げる恒星に、聡一郎が渾身の笑顔で応える。うさぎはそばで2人を観察している。


『不味い、怒ってる、こいつ、このまま席を離れる気だ』


 行くな、と目で合図して、首を横に振る聡一郎。

 知るか、と目で返す恒星、そのまま席を立つ。

 黙ったまま2人のマネをするうさぎ。


 立ち去ろうとする恒星の腕を、聡一郎が掴む。

 恒星が振り解こうとするが、聡一郎は離さない。

 うさぎも、聡一郎の真似をして恒星の腕を掴む。


「いい加減にしろ」


 思わず恒星が聡一郎の襟首を掴む。


「ビンゴ!」と満面の笑みをうかべる聡一郎。

「見て、大和君が俺を掴んでます」とMCに訴える

「ずるくないですか?」MC

「ずるいです!」とうさぎも叫ぶ。

「駄目だというルールはなかったと思います」

「なるほど、懲りない人ですね」仕方ないと納得する司会者

「今年のミス東大寺学院のグランプリの誕生です。橘聡一郎君です、おめでとう!」


「ふざけるな、俺は帰るぞ」恒星


 お疲れ様とバイバイする聡一郎


「駄目ですよ、ベストカップルはキスして貰わないと成立しませんから」MC


 MCには振り返りもせず、「知るか」と無愛想に舞台から飛び降りて、立ち去ろうとする恒星を秋葉悠一と大塚湊がタックルで引き止める。


「不味い、当麻も来た、当麻も押さえろ、淳!」と叫ぶ悠一

「無理、だって当麻だぞ」淳

「聡一郎、さっさとキスしろ!夏合宿のためだ」


「キス?」


 キスという言葉に反応する聡一郎、そうだ、おまえにはキスの仮があったな。


「よし、聡一郎はスイッチが入った」


 恒星を逃がさない秋葉悠一と大塚湊。


「やめろ、橘!」と突っ込んで来る当麻。うさぎも跳ぶ。

「もう遅い」


 舞台からダイブする聡一郎、聡一郎に飛びついて来た当麻、うさぎごと、恒星を押し倒す。


「貰った!」


***


「怒るなよ、一緒に宮古島に行けるだろ」聡一郎

「俺は熱海で良かった。それに俺は自腹だぞ」当麻

「自腹じゃないよ、うちに泊まれば良い」聡一郎

「何それ?」当麻

「マンダリン・オレンジってうちのホテルだから、敷地内に橘の別荘もある」聡一郎

「マンダリン・オレンジ、確かに日本語だと『橘』だ」上野和香

「おまえ、何でもっと早くそれを言わない!」悠一


「何だったんだ、これまでの苦労は、人の心を売って、悪どい事もして来たのに」悠一

「それを苦労って呼んで良いのか?」智裕


「当麻もいい加減に機嫌せば。ほんと、ベスコンなんて、もう沢山だ。」聡一郎

「何言ってんの?」当麻


「来年は俺がミスターに出て、大和を倒す。来年のベストカップルは俺たちだ!」

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