ベスコン(心理学講義)

(01:50 p.m. 心配学部に目黒准教授の部屋)


「茶会をしたいの?来週の木曜日(7月21日)、ベスコン投票日の前日に」目黒圭介准教授

「公開講座でも良いです」悠一

「心理学の講義で茶道の公開講座ですか、何を考えてるのかな?」圭介

「聡一郎がやってみたいそうです」悠一

「なるほど、聡一郎君は女性に人気があるから、皆んな喜ぶだろうね」圭介

「先生の知的な大人の魅力には敵いませんよ。それに女性じゃなくて男性向けです。もっと男性にも茶道を親しんで貰いたいでしょ」悠一

「元々は男性の文化だったからね、構わないけど、本当の目的を教えてくれるかな?」圭介


「夏合宿のためっていうのは分かったけど、どうして聡一郎君なの?バレー部の女性には魅力を感じなかった?」圭介

「聡一郎の方が可愛いです」悠一

「本当に?夏合宿は女子と行きたいんだよね」圭介

「本当は、片岡と上野に断られました」悠一

「そんなことだと思った」圭介

「でも、2人に断られて部室に戻ったら、聡一郎がいて、見つけたぞ!って思ったんです」圭介

「可愛いといっても、聡一郎君は女性には見えないよ」圭介


 ミス候補に投票出来るのは男性だけだから、聡一郎君に投票する人は限られる。バレー部の関係者、面白がって投票する人、男が好きな男、他の女性候補者に投票したくない人、どちらかというと少数派ばかりだ。


「でも、男とか女とか関係ない。バレーだけじゃないです、お互いに惹かれ合ってる。きっとベストカップルになれる」悠一

「じゃあ実証してみる?面白いかも知れない」圭介


***


(03:00 p.m. )


 東大寺学院近くのカフェで、カフェモカ※1を飲む目黒圭介と山背汐音。


※1 カフェモカ

 エスプレッソは、深煎りで微細に挽いたコーヒー豆を充填したフィルターに、沸騰水を加圧状態で濾すことで、名前の由来の通りすばやく(EXPRESS)抽出するのが特徴です。圧力をかけて抽出する分、コーヒーと比べて成分が多くお湯にしみ出し、濃厚で、苦みとコクが強い味わいになります。デミタスカップという小さいカップに注いで味わうのが一般的です。ただし、エスプレッソは一杯あたりの量が少なく使用する豆の量もわずかであるため、ドリップコーヒーよりカフェインが少ないドリンクです。

 ドリップコーヒーは蒸らしながら抽出するため相応の時間が必要ですが、その分深みのあるコーヒーの味わいを楽しむことができます。

 カフェオレは、ドリップ抽出したコーヒーにミルクを5:5の割合で入れたドリンクです。

 カフェラテは、エスプレッソ抽出したコーヒーにミルクを8割ほど注いで作るドリンクです。

 カプチーノは、エスプレッソ抽出したコーヒーに、蒸気で泡立てたミルク(フォームミルク)を注いで作るドリンクです。エスプレッソのビターな味も楽しめるのが特徴です。

 カフェモカは、カプチーノにコーヒーにチョコレートシロップを加えたものです。

 フォームミルクは、蒸気で温めながら、空気を含ませて作ったふわふわの泡状のミルクです。スチームミルクは、フォームミルクを作る際、泡にならなかった蒸気で温められたミルクです。フォームミルクとスチームミルクの割合はコーヒーの種類によって変わります。例えば、カプチーノはエスプレッソにフォームミルクとスチームミルクを5対5の割合で入れたものです。カフェラテはエスプレッソにフォームミルクを入れず、スチームミルクだけを入れたものです。反対に、エスプレッソにスチームミルクを入れず、フォームミルクを少量入れたものはマキアートです。



「聡一郎をミスにしたいの?」汐音

「まさか。聡一郎君がミスになれるとは思ってないよ。興味があるのはカップルの方」圭介

「カップルにしたいわけ?」汐音

「したいわけではないけど、アカデミックに恋愛の深層を確かめるのは悪くない。常識は大事だけど退屈だからね」圭介


 大和君と聡一郎君はバレーボールだと最強のペアだ。お互いに惹かれているようにも見える。本当に本学院のベストカップルに最も相応しいかも知れないだろ。


「だから実証するの?」汐音

「そう、常識や先入観を取り除くと、学生たちがどういう選択をするのか確認する」圭介

「圭介さんも暇なんだ。意外だわ」汐音


 好奇心を持つことは大切だと思うけどね。それに、お祭り騒ぎは、聡一郎君が自分を見つめ直す良い機会かも知れない。汐音にも手伝って貰う。


「なぜ、私が?」汐音


 心理学講義の課題。僕の授業を受けてるよね。皆んなが正義の民主主義では、マイノリティの意見は黙殺されやすい。それを黙認すると社会が公正でなくなるし、多様性を否定する社会からはイノベーションも生まれない。それは不味いだろ?


「不味くないわ。科学に必要なのは理性よ、多様性が必要なのは芸術の方」汐音

「汐音は芸術の価値も知っているよね」圭介

「常識よりましなだけよ」汐音

「そうかも知れないね」圭介


 ともかく、伝統のある東大寺学院の学生には、先入観のない目で多様な世界を再発見して貰いたい。未来は自分たちが創造するのだと感じて貰いたい。


「それで、どうするの?」汐音

「どうしようか?」圭介


 取り敢えず、甘くて苦いカフェモカ飲んで、もう少し一緒に考えたいな。



(圭介と汐音の心理学講義)


 心理学では人は偏見が強いと考えるよね。矛盾する二つのことが起きて不快な気持ちになると、どちらかを否定して自分を納得させようとする。意識しているか否には関わらず、自分を守ろうとする。誰かに振り回されたくない、心が疲れたくないから、簡単に嫌いとか無理とか決め付けて、考え方を単純化する。


「自己防衛は本能だから、偏見を持つのは仕方ない。むしろ、中途半端に考えたり、悩んだりするより健全だわ」汐音


 汐音は自分には関係ないと思ってるから、偏見は健全だと言える。でも、アカデミックに考えると、偏見は社会を不健全にする。それに、対立や違いを乗り越えないと、社会を変革するような共感や創造は生まれない。


「アカデミックというより、ロマンティックね。共感が社会を動かすなんて、非現実的。圭介さんらしくない」汐音

「そうでもない、僕は現実よりも理想の方が好きだよ」圭介


 心の中は空っぽだから、誰かに側にいてもらいたいし、理想を求めるのは自然なことだ。残念なことに、多くの人は仲間同士で集まって安全や安心を手に入れてしまうと、考えることをやめてしまう。

 ただし、心が空っぽなのは変わらない。安心すると、今度は自分は偉いと思いたい、誰かを支配したり、奪いたくもなる。仲間がいれば、努力したり、考えたりする必要はない。弱い奴を見つけて奪えばいい。そいつは仲間じゃない、だから悪い。簡単な話しだ。


 社会心理学の考えでは、人には味方と敵を分ける心理が働き、自分の属する集団を大切な味方とし、それ以外を敵と区別する。強い側のマジョリティに属していれば、自分たちが社会の『強者』であることに安堵し、少数派を見つけて偏見や差別で気晴らしできる。偏見や差別されるのは、LGBTや障害者などのマイノリティーだ。

 善悪や価値観の違いではなく、敵か味方か、同じか同じでないか。生き残るためや、自分を守るためだから、考えても意味がない。人は馬鹿じゃないからね、そのくらいは分かっている。


 けれど、小利口なのは可愛くはない。マジョリティは表面的には愛他的、利他的だが、本質的には利己的だ。仲間と一緒にいるために、自分が何をしたいかではなく、仲間が喜ぶ行動を取る。自分が仲間に求めるロイヤリティを自分にも求めるから、ストレスも溜まる。

 理性も精神性もない、あるがままのマジョリティは野蛮でもある。あるがままが美しいというのは幻想だ。美しい野生も、無垢な子供も、真実の断片でしかない。尻尾を振る動物には可愛いと反応するが、個体レベルで見ると本当に可愛いものは限られる。皮膚病の犬が後尾してたり、豚や鼠が餌を食べていたりするのは美しくない。シマウマの子の内臓を貪るライオンは野蛮だ。 

 自然や野生が美しいのは、あるがままだからではなく、命が輝く一瞬や、都合の良い瞬間だけを切り取って美化しているからだ。単なるあるがままは、怠惰で醜く、欲深いものだ。


「ロマンティックな話しでないのは分かったわ」汐音、カフェモカを飲む。

「アカデミックに恋愛の深層を語ってくれるのかと思ったけど残念ね」汐音

「でも、今の話しは、東大寺学院の学生には当てはまらないと思う」圭介


 名門大学だからね。本学院の学生は社会的にはマジョリティというよりリーダーだ。マイノリティに対しても寛容だし、偏見を疑う理性も持っている。それでも、ほとんどの学生はマジョリティの常識に基づいて判断している。社会的なヒエラルキーの上位にいることが重要で、常識を破壊したり、自分の頭で考えて、無から有を生み出したり、心を使って感じたりすることに、然程さほどの意味を感じない。


「その方が現実的だからでしょ」汐音


 現実的に過ぎるから創造的でない。常識的な寛容さや同情からは何も生まれない。社会が多様化するためには、葛藤し、違いをのり越え、共感し、共創する必要がある。社会が多様化すれば、心も豊かになるし、絶え間ない変化からは新しい芽が生まれ、次の社会へと進化する。人間には共感して共創する力がある。共感からくる同胞愛、博愛、仁愛は、利己的な愛他主義や利他主義とは違う。また、親が子に対するような無償の愛や慈愛とも違う。もっとポジティブで創造的なものだと思う。


「随分、普遍的な話しに変わっているけど、聡一郎をベストカップルにする話しだったかしら」汐音


「まあ、大袈裟な話しをしたけど、伝統ある本学院のベストカップルは、常識にとらわれず、時代を切り開くものであって欲しいだろ」圭介

「そうかしら、ベスコンそのものが無くなっても気にならないわ」汐音

「そんなこと言わないで」圭介

「これは社会心理学的に面白い実験だよ、将来有望な汐音にとってもね。聡一郎君は歴史に名を残すかも知れないだろ」圭介

「まさか、冗談でしょ」汐音

「どうだろ、汐音の祖父、慶一大宗匠はそれを信じていたけど」圭介


 まあ、彼を本当に理解しているのは汐音だと思うけど。


***


(目黒圭介、山背汐音、秋葉悠一の心理学的実証実験)


 目黒圭介准教授の部屋のソファで、圭介とはテーブルをはさみ、山背汐音と秋葉悠一が並んで座っている。


 まず、ミスと思って投票するか、カップルと思って投票するかで判断が変わってくるよね。ミスを選ぶのなら、普通は聡一郎君には投票しない。藤原君みたいに、男とか女とかは関係ない、聡一郎君が好きだという人もいるけど、性別的には聡一郎君は女性には見えない。だから、ミスではなく、カップルを選ぶんだって思ってくれた方がありがたい。どうすれば、そう思わせられるかを汐音と秋葉君に考えて貰いたい。


 次に、幸い、ミスコンではなくカップルコンだと認知されたとする。それでも、普通の人はカップルは男女と考える。恋愛は男女のものか、この際、心理学的に検証してみよう。恋愛はセックスや遺伝子を残すためと考えると、男女のものと考えるのが自然だ。だとすると、ロマンスなんて必要なくなるけど、普通の人は恋愛をもっとプラトニックなものとして考えたい。

 心は空の袋のようなもので満たされたい。自分では満たせないから、誰かにあたためて貰いたい。それを言葉に変えて確かなものにしたい。古代ギリシャの同性愛はプラトニックラブとして昇華されたし、同性愛は時代や文化、地域を超えて、流行り廃りを繰り返してきた。日本でも、明治以降に西洋文化に浸される前は、修道は普通にあった。身近にいる同性の方が自然に分かり合えるのであれば、プラトニックラブそのものが同性愛であって、男女の役割分担が明確だった封建社会では同性愛は自然なものだったのかも知れない。


「どうかな、一般的にLGBTの割合は10%前後と言われてる。男が男を好きになる比率は更に少なくなる。自然だと言うのは、違和感があるわ」汐音


 汐音はイノベーター理論は知ってるよね。イノベーションを受け入れるタイミングが早い方から順番に5つのタイプに分類し、これにもとづきマーケティング戦略や市場のライフサイクルなどを検討する考えだ。それぞれの全体に占める割合は、イノベーター(革新者)2.5%、アーリーアダプター(初期採用者)13.5%、アーリーマジョリティ(前期追随者)34%、レイトマジョリティ(後期追随者)34%、ラガード(遅滞者)16%とする。

 この内で、アーリーアダプターは、イノベーターのように革新的な創造は行わないが、トレンドに敏感で、バランス感覚にも優れ、常日頃からアンテナを張り情報を収集し、マジョリティの判断をリードするグループだ。つまり、アーリーアダプターはオピニオンリーダーで、周りの人に対して口コミや評価を伝え、口コミや評価を気にする人に大きな影響を与えると考えられている。


 仮に、LGBTだとカミングアウトしている10%の人はマジョリティにはいない、イノベーターかアーリーアダプターに属しているとする。イノベーターは2.5%しかいないので、アーリーアダプターまで含めた16%で考えると、その内でLGBTの比率は62.5%(=10%/16%)になる。イノベーターとアーリーアダプターの50%くらいがLGBTということになる。マジョリティも同じくらいの比率でLGBTになりえると考えると、世の中の半分は潜在的LGBTだ。フィフティ・フィフティということに注目した場合、誰でもどちらにもなり得る後天的なものと言えるかも知れない。



「だとするとマジョリティの50%がLGBTにならないのは何故ですか?」秋葉悠一


 マジョリティが好むのはファッションのような気軽なもので、プラトニックラブのような精神性は受け入れ辛いのかも知れない。恋愛って面倒くさいよね。夢中になれるのは若い時だけだ。それに、50%の人がLGBTである社会だと、残りの50%がLGBTの分まで子供を残さないと人口を維持できない。アンバランスで安全な社会とは言えない。つまり、LGBTはマジョリティには許されるものでないから、一部の人にはより魅力的に思えるのかも知れない。


「LGBTの人は自分は先天的にLGBTだと言うことが多いように思うけど」汐音


 僕はどうかと思う。クローンで実験すると100人のクローンが100人ともLGBTになるような気がしない。心理学をやっていると、先天的だと言われていることは思い込みや錯覚でしかないと疑りたくなる。ともかく恋愛が男女のものというのは、理性や精神の観点から言えば、あまり根拠がないように思う。誰にとっても、どちらかでも構わないんじゃないかな。


「LGBTからも、そうでない人からも支持されないと思うわ」汐音


 だよね。誰でもミケランジェロになれるって良いと思うけど。ダヴィンチやソクラテスに置き換えても構わない、そう思えたら幸せになれるかも知れない。幸い、芸術家や哲学者は常識に囚われないから、同性愛者として名を残した人も多い。チャイコフスキー、ワイルド、プルースト、カポーティ、ウォーホール、疑わしい人だとラヴェル、ショパン、シェイクスピアまで入ってくる。日本でも好き放題に生き、同性愛に耽けた人は多い。足利義満、織田信長、徳川家光なんかがそうだ。どちらかではなく、なんでもありだったんじゃないかと思わない?


「LGBTは先天的なものではないか」汐音

「人の心は何色にでも染まるものだと思うよ」圭介


 染まりやすく、決して染まらない、、


 確かに汐音は、そういう存在を知っている。圭介は頭ではそれを理解している。けれど聡一郎とは違う。圭介は染まらないだけだ。聡一郎は、永遠とさえ思えてしまう、束の間の瞬間に、誰よりも鮮やかに染まる、けれど決して染まることはない。だから、聡一郎が誰かを愛する姿も想像できない。とどまることのない川の流れのように、永遠に自由だが孤独でもある、そんな姿しか思いつかない。


 どうでも良いことだと思い返す汐音。


「要は、ミスコンでは無く、カップルコンだと認知させる。ベストカップルは男女のものではない、プラトニックな恋愛に男とか女とかは関係ないと思わせる。伝統ある東大寺学院のベスコンでは、単にベストカップルを選ぶのではなく、自分たちで再定義して、新しく創造するのだと感じて貰うってことでしょ」汐音

「ホップ、ステップで、ジャンプさせる感じですね」悠一

「そんな感じかな」圭介

「無意味だわ。私はプラトニックラブなんてしない。子供をつくるだけで十分。その方が落ち着く」汐音

「相変わらずロマンがない。見かけは聡一郎君と似てるのに、中身は全然違うよね」圭介

「嬉しいわ、最大の褒め言葉ね」汐音

「褒めてないよ。汐音と違って、僕はプラトニックな恋愛をつまらないものだとは思わない」圭介

「意外だわ」汐音

「僕のように疑り深いとプラトニックな恋愛をするのが難しいだけだよ」圭介



 ともかく、東大寺学院のSNSにベスコンサイト(掲示板)を立ち上げて、ミスターとミスに推薦されている人のうち誰が良いかを選んで貰う。実際のベスコン投票と同じで、男性はミス、女性はミスターのそれぞれ1人にしか投票できないようにする。ただし、紙に書いて投票するリアル・ベスコンと違って、SNSベスコンは何度でも選び直せるようにして、僕たちの実験の効果を測定する。

 SNSのサイトネームは「ロミオ&ジュリエット・ゲーム(R&JG)」にしよう。駄目だと言われたら、火がつくよね、人の心理は、障害が大きければ大きいほど乗り越えようとするものだ。


 ***


(実験1)「ミスコンではなくて、カップルコン」と認識して貰う。


 認知的不協和を意外性として、常識や価値観を否定するような新提案をする。認知的不協和の不快感を解消させたい心理はキャッチコピーなどでも利用される。例えば「好きなだけ食べて、痩せるダイエット」というコピーライティングは、「好きなだけ食べたい」と「痩せたい」という認知の矛盾、認知的不協和を意外性として、常識や価値観を否定するような新提案をすることで興味をもたせるものだ。

 昔、「マズい!もう一杯!」という青汁のCMがあった。「まずい!」なのに「もう一杯!」の常識とは逆の意外性が、顧客の興味、関心をくすぐる巧みなコピーだ。

 「ミスなのに男がいる」も「ベストカップルなのに男同士」も、このままだと認知的不協和が生じる。けれどもベストカップルが男女である必要がないと認識が成り立てば、「ミスなのに男がいる、でもカップルを選べば良いのか、カップルなら男女でなくても平気だね」と認知的不協和を解消させることができる。


「『仕事も恋も、可愛くなくていい、男も女も関係ない』ってどうかしら?」汐音


 敢えて働く女性を意識させて、可愛くなくていいと共感させておいて、恋愛も男女は関係ないとメッセージを伝える、良いかも知れない、R&JGのキャッチコピーとして使おう。ただ、ミスコンではなく、カップルコンだと認識して貰いたいから、ベストカップルは男女でなくても良いとセットにして、カップルコンだともっとアピールしたいな。


(実験2)思い込みは4つ以上の反証例で覆るのか?


 思い込みは4つ以上の反証例で覆るという研究成果があるので、確かめてみたい。4つ見つけるのは面倒だけど、慣れてしまえば出来なくもないレベルだ。上手く習慣に出来れば、不運なことにも「友達が応援してくれる」「私は恵まれている」とポジティブに向き合って、笑顔の多い生活を送れるかも知れない。

 今回は、他人の思い込みに対しても、4つ以上の反証が有効か実験する。R&JGの掲示板に匿名でベストカップルについてコメントしたり、ベスコンとは関係なくマイノリティに対する偏見についてグループでチャットしたりしながら、皆んなのコメントを拡散して行く。僕のゼミや講義を受けている学生からも被験者を任意で選んで、匿名で実験に参加して貰う。

 

 先ずは、秋葉君に匿名でR&JGの掲示板に、ベストカップルが男女であるべきというのが偏見だと思って貰うために、男女でなくても良いよねって反証して貰う。話しが盛り上って、実際のベスコンで誰と誰をカップルにするって話しになるのを期待したい。


(秋葉悠一の書き込み)


「ベスコンのミス候補、男がいるって、おかしくね?」学生番号009

「やべぇよ、カップルって、男女じゃね」学生番号007

「ちげぇよ、同性カップルの方が良いんだって。相手のこと分かるっしょ。仕事の悩み、、体のこと、、、同性の方が分かるっしょ」学生番号001(反証1)

「へー、やべぇじゃん」009

「やべぇよ、ずっと一緒にいられんじゃん。スポーツとかさ、、、てか、温泉、一緒に入れんじゃん。超ラッキー!」002(反証2)

「まじか!やばくね」007

「やべぇよ、服とかさ、部屋とかさ、シェアしまくれそう。友達とだってさ、夜通し家で騒げるでしょ。滅茶苦茶、経済的じゃね?」003(反証3)

「超やべじゃん」009

「めちゃやべぇー、相手が異性にモテても安心」004(反証4)

「超やば!同性カップル、超超やべぇよ」007


「何なの、この頭の悪そうな会話」汐音

「え?不味かったっすか」秋葉悠一

「大丈夫、期待した通りだ。少し反応を確かめてみよう」圭介



(SNS掲示板)

 7月14日13:10

 経済的ですか?結婚できないでしょ

 7月14日13:11

 ふざけんな!結婚どころか、周りの人にも紹介できない

 7月14日13:11

 人目が気になって、デートだって出来ない。気楽に言うな

 7月14日13:12

 学院の恥だな、こいつら

 7月14日13:12

 一緒に温泉入って裸の付き合いか?キモ

 7月14日13:12

 知りたいのは異性だろ

 7月14日13:13

 何でも良いけど、夜通し騒ぐのはやめてくれ

 7月14日13:13

 炎上するな、間違いない、ジ・エンドだ



「ネガティヴな反応しかないじゃない」汐音

「ほんとだ、何でだろ」悠一

「何でって、あんたもイイね押してるじゃない」汐音

「ほんとだ、押してる。でも、やっぱり、知りたいのは異性でしょ」悠一

「思った通り、反証の反証の方が拡散してる」圭介

「圭介さん、分かってたなら何で実験するの?」汐音

「実証しないと社会科学とは言えないだろ」圭介


 人って素直じゃないよね、どっちでも良いんだけど、ああ言えば、こう言う。でも、秋葉君は素直で良いね。僕は秋葉君にイイねするよ。


「どうしよう、褒められちゃった」悠一

「褒められてないから」汐音


 でも、秋葉君のコメントに対してネガティブなだけで、本学院の学生たちは、同性カップルに嫌悪感を抱いてはいないみたいだ。経済的ではないし、未だ社会的にも受け入れられていないと言う事実を言っているだけで、賛成も否定もしない。中立のスタンスをとっている。これも、予想通りの結果だけど、確かめることが出来た。

 ただ、同性カップルって良いかもと他人に反証しても、他人は反証し返すだけのようだから、ベスコンのベストカップルについて関心を高めることも難しいかな。


「思った通りは良いけど、どうしようか?」圭介

「とりあえず、注目の候補をリストアップしてみました」悠一


(注目のミス候補)

 橘聡一郎(男子バレー部・茶道部教授)

 天王寺蝶子(女子テニス部)

 天満うさぎ(オタ研)

 大阪オスカル(演劇部)

 福島愛(女子卓球部)

 チュッパチャップス(鶴橋美樹&弁天町蘭&西九条好子の3人組(アイドル研究会))


(注目のミスター候補)

 大和恒星(男子バレー部)

 桃谷大吾(以下、略)

 玉造流星

 森ノ宮駿佑

 京橋恭平

 桜ノ宮謙社

 新今宮丈一郎

 大正和也


「今年のミス候補は濃厚ですね、びっくりしましたよ」悠一

「秋葉君のせいだと思うよ。本学院のパンドラの箱を開けてしまったんだよ」圭介


「聞いて良い?チュッパチャップスって何?」汐音

「グループエントリー。3人で学院アイドルを目指すんだって。男が良いなら、グループが駄目な理由はないって押し切ったらしい」悠一

「案外、うちの大学はおおらかだったんだね」圭介

「良いんじゃない、ハーレムも。斬新だわ」汐音


「大阪オスカルは?」汐音

「ハーフだって。父親がフランス貴族の出で、母親は熱烈なベル薔薇ファンらしい。オスカルも普通に男装して生活してるそうだ」悠一

「だったら、どうしてミスに出るのよ」汐音

「演劇部のスターで、熱烈な女性ファンがいるらしい。勿論、オスカルは男役だ」悠一


「ついでに聞いておくけど、これは?」汐音

「うさぎちゃんはオタ研のアイドル。金曜のミサで懺悔するとオシオキして貰えるらしい。うさぎちゃんも熱烈な信者がついてるみたいだ」悠一


 残りの蝶子と愛も説明してもいい?蝶子の本名は麗香らしいんだけど、勝手に蝶子って名乗ってる。大学女子テニスで現在88連勝中の実力者で、結婚してないのに、お蝶夫人と呼ばれてる。愛ちゃんは本学院卓球部のアイドルだ。愛ちゃんが「サー」の掛け声を掛けてる時に、三回お願いごとすると夢が叶うらしい。


「本当にこの中から選ぶの?」汐音

「ワクワクするでしょ、結果が楽しみだな」悠一

「その前に、秋葉君も彼女が欲しいって、愛ちゃんにお願いして来たら。神頼みした方が良いと思うわ」汐音

「そうする。ミスターも説明しようか?」悠一

「いらない、いい加減なのは名前で分かる」汐音

「良かった。恒星一択で良いよね。考えるの面倒だったんだ」悠一


「ミスコンとか、カップルコンとかの次元を越えてきたね。何を基準に選ぶんだろう?」圭介

「認知的不協和が解消しそうにないですね。そうだ、誰でもいいから投票しようってどうですか?直ぐ楽になれますって感じで」悠一

「面白いね、でも夏合宿に行きたいんだろ?幸いミスコンって感じはしなくなったから良いのか」圭介

「そうかしら、ベストカップルコンテストという概念も壊れてるように思うけど」汐音

「マイコン(マイノリティコン)ですね」悠一

「それは不味いね、何とかしないと」圭介


 少しおさらいしよう、ミスコンではなく、カップルコンだって認識を高めるつもりだった。だから、ベストカップルは男女とは限らないって話しで盛り上がって、カップルコンだって認知して貰おうと言うのが、オリジナルストーリーだった。ところが、男女でなくても良いよねって反証は、あっさり同性カップルなんて碌なことはないって反証され、ベストカップルどうする?って話しは盛り上がらなかった。

 更に、想定外にミス候補はマイノリティばかりが群雄割拠してしまった。それぞれが熱烈な支持基盤を持っているけど、普通の人は、何のコンテストなのか理解に苦しむ状況だ。

 幸いミスコンって感じではなくなったものの、カップルコンと言う感じも全くしない。このままだと伝統あるベスコンの存続が危ぶまれる。ともかく、ベストカップルコンテスト(ベスコン)だと思い出して貰わないと不味い。


「存続させる意味ないんじゃない」汐音

「まあね、でも僕は伝統を守る側の学院職員だからね。無闇に失くすわけにはいかない」圭介


 取り敢えず、既に男女という概念が陳腐化してしまっているので、あくまでもカップルを選ぶんだ、カップルって良いよねって反証してみようか?


 顔だけの男(但し、女子力は半端じゃない)、男装女性オスカル、変態オタクのうさぎちゃん、学院アイドル狙いのチュッパチャップス、テニス最強女子のお蝶夫人、雄叫び卓球女子の愛ちゃん、、、か。


「どうやって反証するのよ」汐音

「男装女性と付き合ってお芝居するのも良い?」

「変態オタクに懺悔してオシオキで癒されたい?」

「アイドル3人組と一緒に歌って踊る?」

「無理よ、考える気もしない」


「汐音なら出来る、頑張って」圭介

「汐音さん、頑張って、ファイト!」悠一


「無理よ、絶対、カップルになれない人ばかりじゃない。個性が強すぎる」汐音

「まあ、マイノリティってそういうものだからね。

仕方ない、趣向を変えて秋葉君に特攻隊長になって貰うか」圭介

「昇格ですか?」悠一

「そう。夜が明けたら突撃して来て貰いたい」圭介


「候補者に自分はベストカップルコンテストの候補者なんだと、思い知らせて来て欲しい」圭介


***


(8:55 a.m. 東大寺学院大学正門)


「まずはオスカルか」


 秋葉悠一が、9時頃に正門を通るらしいと言う噂を聞きつけて待っている。


「あれか!」


 車の陰から、いな鳴きとともに、白馬に乗ったオスカルが現れる。白馬の行手を遮る秋葉悠一。


「何か用か?」オスカル

「いえ、白馬で通学って珍しいなと思って」悠一

「気にするな、私の親は貴族なのだ。仕方あるまい」オスカル

「いや、公道を馬で通学して良いのですか?」悠一

「それは良い。ちゃんと道路交通法を調べてある」オスカル

 

 それに馬に乗るくらい構わぬだろう。こんな気紛れな話に私が付き合おうというのだ、気晴らしくらいはさせてくれ。


「まあいい、それより勝手にビデオを撮るな」オスカル

「すみません。実は学院内SNS掲示板『ロミオ&ジュリエット・ゲーム』の共同設立者で、東大寺学院のベスコンの最新状況を発信しています(ビデオ撮ってますから)」

「ベスコン?何だ、それは」オスカル



「そうか、私も参加しているのか。家来たちが勝手なことをしているようだ」オスカル

「ところで、カップルというのは、競い合わねばならぬほど、良いものなのか?」オスカル

「恋人でもあり、友達でもあり、ライバルでもありえますよ」悠一

「そうか、それは良いものだな」オスカル

「だが、私にはか弱い御婦人方を護る使命がある。男と恋などしている暇はないのだ」オスカル

「この人、大和恒星には興味がない?」悠一

「残念だが興味ないな、、、(何故、こうも不機嫌な顔をしておるのだ)」オスカル


「ちょっと待て、これは誰だ?」オスカル

「聡一郎です」悠一


(可愛い、、、何だ、このトキメキは。もしかして、これがアンドレではないのか?)


「この者は今何をしているのだ?」

「あなたと同じベスコンのミス候補です」

「私と同じ?貴様も、これは運命だと言うのか!」


 空を見上げるオスカル、


「探していたぞ、アンドレ」


「いや、聡一郎だって」


 待てよ、オスカルとアンドレ、ちょうど良いんじゃないか。何でもいいから、カップルを競わせれば良いんだよな。


「そこまで言うなら、彼がアンドレです」

「だとすると解せぬ、何故、アンドレは私の前から姿を消していたのだ?これほど近くにいたのに」

「あなたは貴族、許される恋ではないのです。それでも、側にいて見守っているのです」悠一


「ああ、アンドレ、私のアンドレ、今すぐ逢いに行く」、馬を走らせるオスカル

「すまない、聡一郎」悠一


***


 次はチュッパチャップスだな、お昼前に研究会で歌ってるらしい。


 チュッパチャップスさんのコンサートを観に来ました。今は11時55分、凄い熱気です。


「皆さ〜ん、今日も有難うございました〜!」チュッパチャップスのランちゃん

「お昼がきたら、私たち普通の女の子に戻りま〜す!」スーちゃん


 キター、会場がどよめいています。12:00前に消えるシンデレラも意識した演出みたいです、凄いです。


「最後の曲を聞いて下さい、愛想笑です!」チュッパチャップス全員


 木枯らし1号が畳んだばかりの洗濯物の上で、

 枯葉の渦を踊らせてます、、

 、、、

 アン・ドゥ・トロワ3ツ数えて

 アン・ドゥ・トロワ見つめ合ったら

 私達お昼なぁんですね〜、え〜

 お昼なぁんですね〜

 和達、今日も幸せでした〜



 お昼休みにカフェテラスで取材する秋葉悠一


「私たち今は普通の女の子なので、取材お断りです」ランちゃん

「大丈夫、普通の女の子に取材に来てます」悠一

「チュッパチャップスさんは学院アイドルを目指してベスコンに出たと伺いましたが」悠一

「違います。学院アイドルは目指していません」スーちゃん

「私達は普通の女の子に戻りたいアイドルになりたいのです」ミキちゃん

「そう、そこがアイドルの極み」ランちゃん

「どんなアイドルも超えられない、それが普通の女の子に戻りたいアイドルなの」スーちゃん

「だから私達、ベスコンでグランプリを獲得して、解散します」ランちゃん


 マジですか?ミスのグランプリ獲得者は、ミスターのグランプリ獲得者とベストカップルになるって決まってますよ。


「勝手に決めないで!ミスターなんか関係ない」ランちゃん

「私達はベストカップルを越える、ベストアイドルグループよ」ランちゃん

「男同士のカップルは有りなんでしょ、だったら女の子同士のグループだって認めるべきだわ」スーちゃん

「そうよ、チュッパチャップスはミスではなく、ベストグループに選ばれて、その場で解散するの」

ミキちゃん


 いゃ〜良く分かりませが、可愛いから、許しちゃいますね。あ、でもネットの書き込みも紹介しときますね。


(ライブチャットメッセージ)


「だったら、カムバックするな。やっぱり百恵だろ、絶対、百恵が上だ」法学部のYさんです

「俺はひばり派だ、不死鳥の方が凄いだろ」こっちは工学部のMさんです。

 いつの時代にも批判的な人もいるんですね。


「勝手なこと言ってるだけで、分かってない」ランちゃん

「私達は普通の女の子に戻りたいアイドルになりたいの、アイドルをやめるなんて言ってない」

「チュッパチャップスはベスコン限定だけど、私達は直ぐに復帰するわ」スーちゃん

「グループ名もロリポップスか、ペコちゃんズか、どちらかにしようって、もう話してる」ミキちゃん


 、、だそうです。ファンの皆さん、安心して下さいね。


***


(昼休み、男子バレー部部室前)


「うちの大学、乗馬クラブなんかあったっけ?」聡一郎

「まあ、あるんじゃない、実際、目の前に来てるし」当麻


 オスカルが白馬から飛び降りて、聡一郎を抱きしめる。


「アンドレ!」

「誰?アンドレって」聡一郎

「何で俺に聞く」当麻

「だって当麻の知りあいでしょ、髪が金髪だよ」聡一郎

「いや、これは生まれつきだと思う」当麻

「当たりまだ、私はフランス貴族の血筋なのだ」オスカル

「しかし、アンドレが日本人だとは思わなかった」

「だから、アンドレじゃない」聡一郎

「どうでも良いけど、聡一郎に抱きつくな」当麻

「貴様は何者だ、私のアンドレと何をしていた」オスカル



「悠一、おまえ、とんでもないことしてくれたな」当麻

「どうすんだ、オスカル」聡一郎

「何回、聡一郎だって言っても、分かんなかったぞ」当麻


 分かった。ともかく一緒に愛ちゃんのところに行こう。今、急いでるんだ。オスカルはあとだ。


***


(第3体育館 卓球部練習場)


 愛ちゃんがベスコンのミス候補になったきっかけを教えて下さい。


「大和君と一緒に本学院のスポーツ、イベントなどを盛り上げていけたら良いなと思いまして」


 凄い、ベスコンだって理解してる候補は初めてです。


「そうなんですね(なんだ、大和狙いは私だけか)」


 だったら、橘君を倒さないと駄目ですね。大和君と朝から晩までラブラブですから。しかも、ベスコンのミス候補としても有力です。


「あれ、男の方ですよね?ミス候補になれるんですか(しかも、大和狙いだと。どいうことよ)」


 勿論、男とか女とか関係ないですから、大事なのは相手を想う心でしょ。


「良いこと言いますね。本当にそう、関係ないですよね(関係あるわ、相手を想う心?なんじゃそれ、大事なのは男と女の体やろ。関西弁になってしまうわ)」

「悠一、ちょっと待て。話しが見えないぞ」当麻

「何で橘がベスコンのミス候補なんだ?しかも、相手の男が大和だと?」

「こちらは?(凄いイケメンじゃない、何者なの)」愛ちゃん


 こちらは橘君の彼氏の藤原当麻君です。


「そうだ、橘には俺がいる」当麻

「そうなんですね、橘君って男にモテモテですね(二股か?魔性の男か?今すぐ息の根を止めてやりたいわ)」愛ちゃん

「そうだ、せっかくですから、私と卓球で遊びませんか、1セットで良いので」

「やってみたい、でも、やったことないから、ハンディー貰いたい。こっちは当麻とダブルスにして貰えるかな」聡一郎


「橘、どういうつもりだ。何で大和ととなんだ?」当麻

「悠一が勝手に申し込んだだけ、俺が勝つわけないだろ。ミスなんて有り得ない」聡一郎

「やっぱり悠一か。でも安心できないな、何か裏で動いてる気がする」当麻

「ともかく大和とのカップルは絶対阻止する」当麻

「それより、練習したい。球の弾き方とか、回転とかをテーブルの上で確かめておきたい」聡一郎

「橘って、本当に卓球やったことないの?」当麻

「ない。でも、似たようなことして遊んでたから大丈夫だと思う」聡一郎

「まあ俺も橘を心配してない。それに俺は卓球もかなり自信がある」当麻


「可愛い方はど素人ね。フォームは滅茶滅茶だし、ボールの回転への対応もなってない、ホームランばっかり打ってる」愛ちゃん


『さすが橘、滅茶苦茶飛ばす。完璧に打ち返してる』当麻


「金髪の方は半端ない、イケメン。しかも卓球もかなり出来る。でも、金髪ちゃんまでボールは回さないから大丈夫」愛ちゃん


『俺たち絶対勝つな、どうしよ。でも手は抜けないか』当麻


 サーブボールを手のひらにのせて、息を吹きかけながら、聡一郎を睨む愛ちゃん。


「何か怖い、ボールの方だけ見て欲しい」聡一郎

 

「サーー」


『ラッキー、いきなり来た、3回お願いするぞ、彼女くれ、彼女くれ、彼女くれ』悠一



(10分後)


 え〜ん、顔を歪めて愛ちゃんが泣いている。


(二股男に遅れを取るとは腹立たしい。こうなったら、か弱い女を演じて、大和を略奪してやるわ!)


「やばい、泣いちゃった」当麻

「当麻のせいだ。スマッシュ、きめ過ぎ」聡一郎

「橘だってノーミスだったろ」当麻


『谷中の実家で、鴉天狗と羽団扇はうちわ小毬こまりの打ち合いしてたからな』聡一郎


『それに、鴉天狗の方はダブルスだったし、飛べたからな、愛ちゃんには勝つよな、俺』


 泣いた顔も可愛いな、愛ちゃん。そうだ、願いごと叶えて貰わないと駄目だから、愛ちゃんの応援もしておこう。SNSで福島愛に投票する秋葉悠一。


 今日の最後はうさぎちゃんのオシオキ・ミサか、何から懺悔しようかな、沢山ある、オシオキが楽しみだ。


***


(実験3)共感、共創して貰う


「共感するわけないでしょ、絶対無理よ」汐音

「先生、さすがに僕も無理だと思います」悠一

「何かをなし遂げようとする場合、困難はつきものだ。だから諦めないで頑張らないと」圭介


 もう一度、話を戻そう。4つ以上の反証で思い込みや、先入観、偏見は覆すことが出来る。

但し、他人にそれを試みた場合、反証の反証で偏見を増幅させてしまうこともある。僕らのように。つまり、反証は自分に対する反証のみ有効と分かった。本質的に、どっちでも構わないってことかな。

 他人を否定することで自分を肯定したり、多数派か少数派かということの方が気になったりするのは、価値観よりも人間関係の方が大事だからだ。だから、思い込みをなくすよりも、他人を否定したり、多数派でいる必要はないと保障されることの方が大事だ。

 幸い、本学院の学生たちは社会的に保障された立場の上にいる。だからマイノリティが強烈に自己主張しても支持するし、男とか女とかに対するこだわりも少ない、常識に価値があるからではなく、秩序を守るために常識に従っているだけだ。

 結局、大事なことは思い込みをなくすことでも、立場を保障することでもなく、共感して貰えるかだと再確認できた。


「最初から分かってた気がするけど」汐音

「そうなんですか、最初から分かってたのに、色々、実証するんですね。科学って凄いです」悠一

「まあね、社会科学ってそんなもんだよ」圭介


 多様性からイノベーションを生み出し、価値創造に繋げるためには、多様性を認識し、受容するだけでなく、多様な能力・経験・知識・価値観を統合し、活用していくことが不可欠になる。アメリカの社会学者ミルトン・ベネットは、個人が自分とは異なる文化や価値観を統合できるようになるまでの過程を6つのステップに分類している。


 1.否定ー違いを認識しない、無視する

 2.防衛ー違いを認識するが、拒否する

 3.最小化ー違いを認識するが、過小評価する


 4.受容ー違いを認識し、受容する
 

 5.適応ー違いに共感し、順応する


 6.統合ー違いを統合する



「つまり、本学院の学生たちが、ベスコン候補者との価値観の違いに葛藤し、それを乗り越えて互いに共感し、一緒に未来を作ろうと、その違いを新しい次元で統合すれば、伝統ある本学院の歴史に残るベストカップルを生みだせるかも知れないわけですね」悠一


「私には、オスカルと一緒に夢見る未来なんてあり得ないし、チュッパチャップスの永劫回帰にも共感できない」汐音

「そもそも、ベストと多様性は矛盾している。多様性を認めるのなら、皆んなで一緒に共感できない、ベストはないと考えるか、皆それぞれがベストと考えるのかだと思う」汐音


 確かに、多様性に共感することと、皆んなが一緒に一つのことに共感することは矛盾するね。どうやら僕らは僕らの結論に辿り着いたみたいだ。東大寺学院にベストカップルは必要ない。そもそも共感って嘘だと思う。少なくとも持続するものではない。たまたま、何かに共感する、対立したり、競い合ったりする。それは必然でも絶対でもない。


「ベストなんてないから、選べない、そういうこと」圭介

「そういうことって、そうなんですか?僕らの夏合宿はどうなるんですか?」悠一

「思っていたことを確認できたからな、僕はもう気が済んだんだけど」圭介

「秋葉君は未だ大和君と聡一郎君をベストカップルにしたいと思ってるの?」

「駄目ですか?俺は大和と聡一郎がベストだと思ってます」悠一


 良いと思うよ。僕らは曖昧だった言葉の定義を整理し、事実を再確認しただけだし、何かを選ぶことは大事なことだ。ベスコンはお祭りだし、人気投票だと思えば良い。きっと大丈夫、聡一郎君と大和君が選ばれるよ。


「忙しいから、私は帰るわ」汐音

「先生、冷たいです。助けて下さい」悠一


 まあ、このままだと締まらないから、秋葉君のお願い通り、お茶会をしよう。秋葉君が夏合宿に行けるように、聡一郎君の素晴らしいところを知って貰おう。何かを否定するのではなく、皆んなが、あれもこれも好きっていうのは有りだと思う。聡一郎君と大和君をカップルにすれば何かが変わる、楽しそうだと思って貰えれば、皆んなも応援してくれる。

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