お茶会(ホイップクリームを泡立てる)

(5月22日 練習試合の翌朝)


 日曜日なのに朝練してる、どうかしてる、とランニングしながら考える聡一郎。雲ひとつない、どうして雨降らなかったんだろう。


「聡一郎、いつまで走ってんだ、俺は先に帰るぞ」


 恒星の声で聡一郎が我にかえる。一人で走ってる、やばい、マジやばい気がする。


 部室で恒星と一緒に着替える聡一郎、それに、最近、いつもこいつといる気がする、何か怖くなってきたぞ。


「そうだ、木曜日の午後は練習に行かないから」

「どうして?」

「目黒先生に茶道部で授業するように頼まれてる」

「何で?」

「何でって、俺も橘なんだけど。橘って茶道では有名だよ、知ってる?」

「それくらい知ってる。本人に自覚がなくてもな」

「自覚って何?どういうものだ?教えて貰いたい」

「悪いが教えない。おまえには無理だ」


『どうして目黒先生は聡一郎に関わってくるんだ』と怪訝に思う恒星。『目黒先生は何かを隠している気がする』


 ***


(心理学部、目黒准教授の部屋)


「頼んだよ、木曜日の茶道部の授業。何か問題だった?本人も喜んでたように見えたけど」目黒

「もう少し後にして貰えませんか、今はもっと練習させた方がいいと思います」恒星

「メンタルにはお茶も効果的じゃないかな」目黒

「聡一郎にストレスを感じる頭はないですよ」恒星

「心はちがうかも知れないよ」目黒


「橘君が元に戻るのが怖い?せっかく目を覚ましてくれそうなのに。でも、急がない方が良い」目黒

「仰ることが分かりませんが」恒星

「分からないよね、君は本当は橘君のことも、自分のことも分かってないのかも知れないよ。ともかく、僕はバレー部の顧問で、心療内科医でもある、言うことを聞いて貰うから」目黒


「目黒先生はよく聡一郎に任せられますね、何するか分かりませんよ」恒星

「君の方が分かってるよね、聡一郎君の代わりはいない。バレーでも、茶道でも」目黒

「どうして聡一郎に関わるんですか、何か隠してませんか」恒星


「何も隠してないし、出来るだけ関わらないようにしてる、君と聡一郎君のことには」、恒星の苛立ちを包み込むように、目黒の表情が優しくなる。


「そうだ、心配だったら、大和君も橘君のレッスンに参加すれば良い、いや、バレー部全員で参加する方がいい」目黒

「仰ることがわかりませんが」恒星

「分からなくても構わないけど、バレー部顧問の指示だから」目黒


 大和を見送る目黒准教授、『目覚めないのが怖いのではない、目覚める方が怖いんだ。彼は君が思うよりずっと以前から眠ってきたから、、』


 ***


(5月26日(木)16:30 茶道部第1回大茶会)


 それでは改めまして、橘聡一郎です。今日は少し斬新に、果敢に攻めてみたいと思います。まずはチームビルディングから、皆んなでショートケーキを作りましょう!


(出演者)

 橘 聡一郎(法学部1年)

 大和 恒星(建築学科1年)

 目黒 圭介(心理学部准教授)(バレー部顧問)

 神田 淳(法学部1年)(バレー部)

 秋葉 悠一(法学部1年)(バレー部)

 大塚 湊(建築学科1年)(バレー部)

 渋谷 智裕(建築学科1年)(バレー部)

 山背 汐音(心理学部2年)

 片岡 瑞穂(国文学1年)(女子バレー部)

 上野 和香(経済学部1年)(バレー部マネジャー)

 大崎 遥(心理学部1年)(女子バレー部)

 日暮 千聖ちひろ(国文学1年)(女子バレー部)



 ホイップクリームを泡立てるチーム1(神田淳、秋葉悠一、片岡瑞穂、日暮千聖、聡一郎)


「思ってたのとだいぶ違う、これが攻めか?」悠一

「俺はこんな感じになると思ってた」淳

「茶道部ってオーブンレンジもあるんだね」瑞穂

「聡一郎が買ったらしい。大学の会計監査は大丈夫なのか?」淳

「え、監査されるの?」聡一郎


「何でハンドミキサーを使わないんだ?正座も辛い」悠一

茶筅ちゃせんで点てる練習、混ぜるの同じでしょ」聡一郎

「練習する意味あるのか?」悠一

「意味あるじゃない。男でもケーキくらい作るべきでしょ」日暮千聖

「ズレてないか?作るのは良いけど、ハンドミキサー使った方が楽だろ」悠一

「全然駄目!手作り感が出ない。気持ちが籠もっていないホイップだと、スポンジケーキが可愛いそうだ」聡一郎

「聡一郎、おまえ大丈夫か?」悠一

「気にするな、趣味だから仕方ない」聡一郎


 ***


 スポンジケーキを作るチーム1(恒星、大塚湊、渋谷智裕、上野和香、大崎遥)


「恒星も手伝えよ(あっ、無視した。相変わらずムカつく)」湊

「しょうがないよ、大和君が練習休んでショートケーキ作ってるなんて、絶対あり得ないことだよ。成長したよね、良く我慢してると思うよ」和香

「でも甘やかさない」智裕がメレンゲに黄卵と薄力粉を加えて、混ぜろと恒星に渡す。


「大和君、可愛い!写真とっていい?エプロンも似合ってる」遥


 不機嫌になって恒星がボールとホイッパーを智裕に押し付ける。


「ごめん怒った?」遥、目を逸らす恒星。

「いいわ、渋谷君、貸して、私が混ぜる」遥が智裕のボールとホイッパーに手を伸ばす、そのボールを恒星が先に掴む。「俺がやる」


『コートの中とは全然違う、大和君って凄くシャイなんだ。泡立てるの凄く上手いけど』遥


「ありがとう、大和君。でも泡立てるの速すぎ。もう生地がもったりしてるから、ゆっくり混ぜた方が気泡が小さくきめが細かくなるよ」遥


 ***


 茶道教室に遅れて山背汐音が入って来る、目黒圭介を探す。


「来たんだ、聡一郎君にも挨拶したら」圭介

「挨拶もいいけど、これって本当に茶会なの」汐音

「どうだろ、汐音は橘の縁者だから詳しいよね」

「御免なさい。聡一郎のは分からないし、理解したくもないわ」汐音



「聡一郎、また、出鱈目なことをしてる」汐音

「あれ、どうして汐音ちゃんがいるの?」聡一郎

「圭介さんが聡一郎に茶道の授業を頼んだって聞いたから、監視しに来てあげた」汐音

「汐音ちゃん、目黒先生と知り合いなの?」聡一郎

「知らなかった?聡一郎は母方の従姉弟だけど、圭介さんは父方の従兄妹。そうか、圭介さんは大学卒業してからは殆どアメリカで生活してたから、聡一郎は知らないか」汐音

「ぜんぜん知らなかった。目黒先生は知ってたのかな?」聡一郎

「当たり前でしょ。圭介さんは橘のお祖父様の愛弟子、お気に入りだったもの」汐音


「山背さんって聡一郎の従姉弟いとこなんだ、凄く綺麗だな」悠一

「そうかな、それに汐音ちゃんは先輩だよ。心理学部の2年生」聡一郎

「そうなんだ、聡一郎にもちょっと似てる」悠一


 その言葉に汐音が反応する。


「似てる?外見はね。それは私も諦めてる。でも中身は別、似ても似つかない、完全否定しておくわ。だいたい私の方が年上じゃない、真似してるのは聡一郎でしょ。両手をついて謝って欲しいくらいだわ」汐音


『悠一に言っとくけど、汐音ちゃんは綺麗だけど陰険だよ、気を付けた方が良いよ』聡一郎


「お茶って意外と賑やか、案外楽しい」千聖

「騙されちゃ駄目、こんなのお茶じゃないわ」汐音

「でも橘君と一緒だと楽しいです」瑞穂


 ***


「ともかく皆んな楽しそうにしてるね、聡一郎君は女性に人気あるみたいだし」圭介


 ホイッパーを片手に片岡瑞穂と日暮千聖と自撮りする聡一郎。


「ただ遊んでるだけじゃない。同世代があんなので喜こんでるのが悲しい、この国に未来はないわね」汐音

「聡一郎君は可愛いと思うよ、男からみても」圭介

「圭介さんって男の子が好きなの?」汐音

「まさか、アカデミックに興味があるだけだよ。汐音も、彼の茶の湯は特別だって言ってたよね」圭介

「気がふれてたわ、どうかしてたと思う」汐音

「それは残念だな、二人はお似合いだと思ってた」

「まさか、従姉弟じゃない、あり得ない。それに私は知性的な人しか受け付けない体質なの。最低でも圭介さん以上じゃないと。聡一郎は知性の外にいる生き物よ、受け付けないわ」汐音

「僕も従兄妹だけど、でも安心した。最低ラインはクリアできてるんだ」圭介


 順番に各チームのスポンジケーキが焼きあがる。ホイップクリームをぬって苺をはさんで、トッピングで木苺とアーモンドスライス、金箔で飾って、仕上げにかかる。


「それではお茶も点てるので、好きなものを選んで下さい」と聡一郎。今日は特別に色々揃えてみました。コーヒー(粉末)、紅茶の葉、ココアの粉、青汁の粉、漢方薬、朝鮮人参、他には蕎麦茶、黒豆茶、抹茶かな、葉ものと錠剤は、今朝、石臼で丁寧にひいておきました、持ち込みもありです。それでは抹茶だと思って茶筅でぐるぐる混ぜてみましょう!


「結構、楽しくなってきた、女子も喜んでる」智裕

「で、智裕は何まぜてる?」湊

「普通にココア」智裕

「それって、つまんなくないか?」湊

「大丈夫、抹茶茶碗を使って茶筅でまぜてるから普通じゃない」智裕

「実は俺もココア。恒星は?混ぜてないな」湊


 恒星は我関せずで、イヤホンで音楽を聴きながらスポドリを飲んでいる。


 ***


「聡一郎、私にもお茶を点てて」汐音


 いいよ、となつめから茶杓で黒い粉を掬い、茶釜の湯を汲み、茶筅で点てる聡一郎。


「上手くできた気がする」と汐音に茶碗の正面を向けて差し出す。

「お点前頂戴いたします(随分、黒いわね)」


 汐音が頭を下げて軽く茶碗を上げて神仏に感謝する。茶碗をまわして一口飲む、二口、なかなか進まない汐音、沈黙が続く。


『静かになった、時間が止まったみたい』聡一郎


 気を取り直して懐紙で口を拭く汐音。


「コーヒーなら、せめて豆から挽くべきだと思うわ、ネスカフェ・ゴールドブレンドではなくて」


 わざとらしく驚く聡一郎、「さすが汐音ちゃん、正解です。実は挽いてみたんだけど、フィルターかけないと飲めないし、ネスカフェ・ゴールドブレンドって味は悪くないでしょ」

「フィルター買えばいいじゃない」汐音

「でも、フィルターは茶道具じゃないから」聡一郎

「じゃあ、あれは何」と投げやりにオーブンレンジを指差す汐音。


「そうだ、これも食べて、汐音ちゃんの分も作ったから。面倒だから懐紙にとらなくていいいよ、そのまま食べて」聡一郎

「勿論、懐紙がもったいないから使わないけど、何これ?」汐音

「抹茶のショートケーキ。お茶会らしく抹茶も使ってみた」聡一郎


「あんたやっぱりなめてる、宗家の宗匠がネスカフェでお茶を点てて、抹茶のショートケーキを召しあがれ、、。作法も逆、菓子が先でしょ、お茶もお菓子も出鱈目。亡くなったお祖父様がこれをみたら何て仰るか、草葉の陰で号泣よ」汐音

「そう?喜んでくれると思うけど」聡一郎


 見つめ合う聡一郎と汐音、、


 聡一郎を溺愛していた祖父の姿が目に浮かぶ汐音、確かに喜びかねない、駄目だわ、喜んでる姿しか想像できなくなってきた。


「ケーキとしては悪くないわ、これはこれで、結構な、お、点、前、で、し、た」汐音

「汐音ちゃん、声が出てないけど大丈夫?」聡一郎


 ***


『汐音ちゃんといると疲れてきた。ちょっと休憩したい』聡一郎


 人から離れて音楽を聴いている恒星が目に入る。


『未だ恒星の方がいい』


「恒星もお茶しない?」

「俺はコヒーとか青汁とか変なものは飲まない」

「ふつうのだよ、青汁は悪くないないと思うけど」


 茶を点てる聡一郎を見る恒星。


「抹茶だから心配しないで」


 懐かしい、まともに抹茶でお茶を点てるのは三社祭以来か。どうぞ、と茶碗に浮かぶ模様を正面にして恒星に差し出す。茶碗を入念に見ている恒星。


「変なもの入れてないよ、さっさと飲んだら?」

「どうやって飲むんだ」

「貸してみて、俺から飲む」

「いいのか、順番は?」

「どうして、先に飲みたいだけだけど」


 聡一郎が茶碗を手のひらにのせて優しく包む。


「ハートっぽいだろ、この茶碗、特別な茶碗なんだ。卯の花って言うだけど、こうやって覗いてると、見られてたり、み守られてる気もする」聡一郎


 神仏に頭を下げて茶碗をあげると、一口、二口、三口と一気に飲みほす。



「恒星の番だけど、自分で点ててみる?」

「俺は作法なんて知らない」

「大丈夫、こっち側に来て」


 聡一郎が棗から茶碗に抹茶をすくい、湯を汲む。


「点ててみて、できれば心と一緒に」


 恒星の手をとる、こんな感じかな、ゆっくり茶筅をまわす、、茶碗の水面に映る自分の影が揺れ、軽い眩暈を感じる、誰かがそばにいるようでいない、自分がここにいるようでいない気がする。


 本当の自分か、、


 夜、疲れ果てて眠る瞬間が安らぎだった。大和は俺たちとは違う、あいつの才能、ヤバすぎ。誰も俺を理解していなかった。俺も他人がどう思うかは気にとめなかった。誰も見たことがない世界があるなら、確かめるのも悪くないと思った。


 目には見えない頂に登るため、前に進む、そこに道があっても無くても。けれど、本当は何処に行きたいのか、何を探しているのかも分からずに、彷徨さまよっていただけなのかも知れない。それでも探さずにいられなかった。何も聞こえないくらい、自分さえ見えなくなるくらい追い込んで、ずっと一人で戦ってきた。けれど、結局、俺は一人になりたかっただけなのかも知れない。誰も、何も信じていなかった。両親が演じた幸せな家族や愛情も、友達からの友情もウンザリだった。


 桜並木、聡一郎が恒星にぶつかる。おまえはいつも突然、俺の前に現れる。あの時もそうだった。去年の夏、俺の中で止まっていた時間が再び動き始めた。俺はずっと探していたものを見つけた。それは思っていたのとは随分と違っていた。ただ、おまえと一緒にバレーボールをしてみたい、それだけのことだった。



 もう飲んでもいいと思うよ、聡一郎がじっとしている恒星を促す。


「何考えてたの、好きな人でもできたのかなって、有り得ないか」


 茶碗を上げて一気に二口で飲み干す恒星。


「夏かな、考えてたのは」閉められた窓の外を見る聡一郎。黙ったままの恒星。


「正解みたいだ、初夏の香りがした。血筋のせいで感は良いんだ」聡一郎が微かに笑う。


 夏か、風が気持ちいい、、


 ***


 目黒圭介が汐音の点てたお茶を飲む。


「僕は汐音のお茶が好きだよ」

「ありがとう」


 聡一郎の手のなかにある志野卯の花を見る汐音。


「国宝級の茶碗だね。さすがに聡一郎君はすごいもの持ってる」


 聡一郎と恒星を見る目黒圭介、どうやら聡一郎君にとっても、彼は特別になったみたいだ。



 -- 汐音の回想 --


 志野卯の花、聡一郎の父親大智が聡一郎に遺した宗家の茶碗。叔父様と叔母様が事故で亡くなったのは、聡一郎が3歳の時、だから聡一郎は殆ど何も覚えていないと思う。何も知らず、聡一郎は形見の茶碗と話して遊んでいた。

 聡一郎は15歳の春に祖父から橘宗家13代目宗匠を継いだ。その宗匠襲名の野点で、聡一郎が卯の花で点てたお茶を飲み尽くし、祖父は溢れだす涙を堪えきれず、ただ無言でないていた、何もかもを受け止めるように聡一郎は静かに微笑んでいた。散る桜のように、しばらくして、祖父は安らかな眠りについた。それは汐音が知る最も尊い記憶、きっとこれからも。

 けれど汐音はそれを理性的でないものと切り捨ててもいる。聡一郎は曇りのない空の光のように清明、自然なまま、それでいて華やか、橘のすべては惜しみなく彼だけに受け継がれている。聡一郎の茶の湯は人を変える、時さえも止める、彼はそういう風に生まれてきた、でも、ただそれだけ、汐音はそう思っている。その野点が汐音があの茶碗、志野卯の花を見た最後だった。



「良かった、みんな楽しんでくれたみたいだ。大和君はともかく」


 恒星の肩をたたく目黒圭介。


 実は僕と聡一郎君は遠縁でね、茶道のことも知らないわけではない。沢山流派があるけど、橘流は華やかな天真爛漫さと自然で静寂な美しさ、太陽と月を併せ持つと言われる特別な流派だ。その橘の歴代宗匠の中でも聡一郎君は特別だそうだ。橘の茶道を極めるために生まれてきた、彼の祖父、いや僕が敬愛する橘慶一さんは、そう信じていた。


「大和君、君もそう思うかい?」

「何故、俺に聞くんですか」


 それだけじゃないからね、実は僕は慶一さんから頼まれてる、「見守って欲しい」と。僕はいつかその役割を君に託すのかも知れない、そう思ったから聞いてみた。まあ、そう言う日が来ればだけど。



 目黒圭介が何を言っているのか分からない恒星。ふと、聡一郎の言葉が蘇る。


「好きな人でもできたのかなって」


 三社祭の合コンを思い出す。あいつ、馬鹿な顔してた。どうしてかは分からない、俺から離れようとしたからキスをした、それだけだ。




 -- 茶道 --


 抹茶を喫することは中国の宋代に始る。これを日本にもたらした鎌倉時代の禅僧,栄西は『喫茶養生記』で茶の健康面での効用をうたっている。喫茶の習慣は禅宗寺院や武家社会に次第にひろがり、室町時代には足利義政などにより多数の中国茶器が収集され,書院造りの建物に唐物を中心とした喫茶法が武家文化に定着した。

 他方、室町時代中期以後,茶をたて客に供する礼法が確立し、村田珠光、武野紹鴎らにより唐物を中心とした豪華な茶に反し、草庵の小座敷で質素な茶会が始められた。安土桃山時代,紹鴎の弟子、千利休は侘茶を提唱し、和敬清寂を旨とする悟道的な茶の湯を確立する。

 和敬清寂とは「和やかな心、敬い合う心、清らかな心、動じない心」です。また、茶道は禅宗と深く関わり「わび・さび」という精神文化を生みだしました。さびは時間の経過と共に色あせて劣化することで出てくる味わいや趣をいい、わびはさびの枯れた味わい深さを美しいと思う心の豊かさです。


(茶道具)


1 抹茶茶碗

2 なつめ抹茶を入れる

3 茶杓(主に竹で作られる)

4 水差(陶器、金属、ガラスなど様々)

5 柄杓(竹製)

6 茶釜(湯を沸かす)

7 袱紗(茶筅や茶器を清める布。男性は紫、女性は赤、袱紗をつけている人が亭主側である印)

8 茶筅ちゃせん抹茶を点てるときに使う竹製の道具

9 扇子

10 懐紙(茶席でお菓子をのせるための紙)


(作法)


 菓子鉢の菓子

 亭主「お菓子をどうぞ」

 正客、次客、、末客「お先に」菓子の器を両手で持って少し持ち上げ、軽く頭を下げて神仏に感謝する。菓子を箸で懐紙にとり、箸を懐紙の端でぬぐってから、菓子鉢に戻す。菓子鉢を隣に送った後、菓子は懐紙ごと口元近くに運び、添えられたようじで切り、軽く刺す。抹茶を飲む前に菓子をたべきる、懐紙とようじは持ち帰る。


 亭主、お茶を出す

 客、隣人に対して「お先に」、亭主に対して「お点前頂戴いたします」、頭を下げて、軽く茶碗を上げ神仏に感謝する。茶碗はは左手にのせて軽く右手を添える。お茶わんの正面から飲まないこと、亭主は正面を客に向けるが、客は茶わんを大切にするため正面を避けて飲む。


 飲むのは3口半が理想だが、前後してもいい。飲み終わったら右手親指と人さし指で軽く飲み口を拭き、手は懐紙でぬぐう。茶わんは先ほどと反対に回して、正面を亭主側に戻して置く。


 亭主のもてなしの心に対して、時間を気にするのは失礼にあたるため、着席前に時計は外すのが礼儀だ。時を忘れ、和敬清寂の精神を感じ、菓子とお茶を味わう。

 茶席ではお道具拝見も作法の一つ。亭主は四季や歳時記などのテーマで、道具を客に合わせて用意する。これを「しつらえ」という。

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