レッスン6 いつまで寝てる

練習試合(前半・解説編)

 ■練習試合 第三試合第一セット


(5月21日土曜日 13:00 )


(トーナメント)

 第1試合 Aチーム(1年生) vs Bチーム(1年生)

Bチームが勝利( 25-15、25-12 )

 第2試合 Cチーム(2、3年生) vs Dチーム(2、3年生)

Cチームの勝利( 25-22、21-25、25-19)

 第3試合 選抜チーム vs 第1試合勝者

 決勝 第3試合勝者 vs 第2試合勝者


「第1試合と第2試合はカットか」聡一郎

「第3試合は選抜チーム対Bチームって設定だったしな、登場人物を増やしたくないんだろ」悠一


「そういうわけで第3試合からだけど、君は誰?僕はバレー部顧問の目黒だけど」目黒准教授

「バスケットボール部1年の藤原です。第1試合からいたんですけど、見学してても良いですよね」当麻

「構わないけど、藤原君は変わってるね」目黒圭介


(選抜チーム ラインアップ)

 OH 大塚(1年) MB 高田(3年) OP 品川(2年)

 S 有楽(2年) MB 神田(1年) OH大久保(3年)*サーブ

 ※Lなし

(Bチーム ラインアップ)

 OH 大和(1年) MB 渋谷(1年) S 橘聡(1年)

 OP 秋葉(1年) MB 反田(1年) OH 恵比寿(1年)

 ※Lなし

(ギャラリー)

 目黒圭介准教授(顧問)、上野和香(マネージャー)、目白綾乃(女子バレー部)、片岡瑞穂(女子バレー部)、藤原当麻(男子バスケ部)


「今日のスタート・ラインアップは、皆んなが楽しめるように僕が考えた。僕も楽しみたい」目黒顧問


 スターティングメンバーを見る恒星


「目黒先生は何考えているんだろう?」恒星

「新入生の歓迎だろ、色々、工夫してるよな。リベロなしでも、あっちはリベロのあっくんがいる。大久保部長と湊がレシーブに不慣れな悠一と智裕を狙い易いようにローテーションを組んで、おまえにはしっかり長身MBの高田さんをぶつけてる」聡一郎



 ○第1セット0-0(※大久保サーブ、選抜ブレイク)

 (※ゲーム内容の事前説明)


 前衛ライトのセッターポジションにいる聡一郎。ビデオを見る限り、大久保部長はフローター、ジャンプフローター、ジャンプ(ランニングジャンプフローター)の3種類すべてのサーブを打てるけど、基本はフローター、勝負どころでジャンプも使う感じだった。いやらしいのは、前回点ドライブ横回転スピン無回転ナックルを使い分けるところか。利き茶の時と違って、実はいい加減じゃない、練習も凄くしてる。


 大久保主馬がコートのレフト側で、相手のポジショニングを確かめて構え、スタートを切る、徐々にスピードを上げ、左足で踏み切りながらボールを低くあげ、ジャンプ。体幹を傾けずに上体をひねらせて、伸びた筋肉が戻る瞬間に体重を乗せて、右肩斜め前方でボールを叩く。

 ボールは秋葉悠一の目の前で、ドライブして急降下する。タイミングが合わず、腰砕けをになった悠一のレシーブボールが場外に飛ぶ。


「初球からサービスエース狙い。さすが大久保君、ちゃんと分かってる」目黒顧問


『丁寧だけど思いっきりも良いか、でも、相変わらず性格は悪い。いきなりジャンプサーブでレシーブが苦手な悠一を狙ってきた』聡一郎


 ○1-0(大久保サーブ、選抜チームのブレイク)


「今度は確実にフローター。スピンをかけてカーブさせて、サービスエースのあとで速いボールに身構えていた秋葉君のタイミングを上手く外した」目黒顧問


 Bチームが返したボールを、選抜チームがレシーブ、トスで前衛レフトの大塚湊に回して、大塚湊がスパイクを決める。


「サーブの種類って結構あるんですか?」、第1試合からいましたけど、と前置きして目黒顧問に尋ねる当麻。


 出来ることは限られてる。その場で打つ、ジャンプして打つ、走ってジャンプして打つくらいしかできない。腕振りも下から振る、横から振る、上から振るくらいだ。だからボールの緩急や回転、コース、タイミングは変えて工夫する。速いボールを急速に落下させるドライブも、横回転で曲がるスピンや無回転でふわふわとどこに落ちるか分からないナックルを織り交ぜれば、より威力を増す。

 誰を狙うかと言った駆け引きも重要だ。大事なのは状況に応じて最適な選択をすることだ。


「大久保君が色々と見せてくれるはずだ」目黒顧問


 サーブの中で最も基本になるのがフローターサーブ。顔の前にボールをあげて、頭の後ろから前に押し出すようにして打つ。シンプルでミスが少なく、コントロールやパワーの変化をつけやすい。ボールの中心をたたいて、腕を振り切らずに止めるイメージを持つと、無回転サーブを打つこともできる。

 大久保君はフローターサーブを基本として、緩急をつけるためにジャンプフローター、ランニングジャンプフローター(ジャンプサーブ)を混ぜてくる。


「少し説明が長くなるけど続けよう」目黒顧問


 ジャンプフローターサーブは、あまり助走は取らずリズムよく打つ。サービスエースをとりたい時は、ミスする確率も高くなるが、助走もつけてランニングジャンプフローターサーブを打つ。

 大久保君の場合、ドライブや、スピン、無回転を織り混ぜて、落下点の予測を難しくすることで、相手のレシーブを崩す工夫もしている。けれども、彼の強みは強いドライブ回転が打てることだ。強いドライブ回転で強烈なボールをレシーバー手前に落とせば、サービスエースを取る確率が高くなるし、ドライブ回転はアウトになりにくいから、速く力強いサーブをエンドラインに打ち込むことができる。


 この際、打ち方まで説明してしまおう。


 フローターサーブのポイントは3つ。1つ目はトスの位置を安定させる。トスは高く上げ過ぎるとボールを捉えるのが難しくなり、コントロールが安定しない。逆に低すぎると打点も下がるので、ネットを超えなくなってしまう。手を伸ばした時の高さぐらいを目安に、利き手の真上か、利き手側の斜め前辺りにトスするのが基本。

 2つ目はボールの芯を叩くこと。手のひら全体でボールの真ん中を叩くことが出来れば、コントロールも安定する。

 3つ目は手打ちしない、腰の回転を使うこと。バックスイングの際に手のひらだけ後ろに引くと、力がしっかりと伝わらず、威力のないサーブになる。バックスイングは肘から後ろに引くようにして、腰の回転を意識することが大事、ボールを打つタイミングで腰を前に戻して、その勢いで腕を振り出せれば、体全体の力が乗った威力のあるサーブを打つことができる。


 ○2-0(大久保サーブ、選抜チームのブレイク)


「今度はジャンプフローターでドライブ回転だった。タイミングが合わないうちは悠一狙いか、中途半端でないところは買える。でも、悠一だって半端な奴じゃないからな」当麻

「飲みこみが早いね、藤原君は」目黒顧問


 ○3-0(大久保サーブ、選抜チームのブレイク)


 前衛ライトのセッターポジションにいる聡一郎、『今度はフローターで無回転か、同じチームだから手の内を隠す必要もないか、悠一も良い練習させて貰ってる。もう少し休憩かな』と、のんびり休憩している。


 ○4-0(大久保サーブ、Bチームのポイント)


「目黒先生、ついでにレシーブについても教えて貰えますか」当麻


 レシーブの基本的な構え方のポイントも3つ。1つ目は膝を曲げて腰を低めに落とす。特に、前方に落ちるボールに対しては、できるだけ低い姿勢をとることが重要だ。前に落ちるボールを拾えない選手の多くは低い姿勢をとらずに、始めの一歩が前に出ていないことが多い。

 2つ目は両足は肩幅よりもやや広めに、少し前後になるように開く。

 3つ目はかかとを少し上げて、腰を引かずに前傾姿勢を取る。この構えを取ることで動き出しが素早くなり、ボールの正面に入りやすくなる。


 次に落下地点を予測する、相手選手の助走やトスの上がった位置、味方のポジショニングなどから、ボールの落下地点を予測することがポイント。また、落下地点を予測するのと同時に、真正面でボールを受ける意識を持つことも重要。足を動かさず腕だけでボールを取りに行ってしまうと、ボールをコントロールするのが難しくなる。

 最後に、ボールを腕に当てる際は、腕は伸ばしたまま固定して、膝のクッションを使ってボールの勢いを吸収すること。腕を振ってボールに当てに行くと、腕の向きがぶれてボールのコントロールが難しくなる。腕の面を固定して、ボールの勢いをしっかり吸収できれば、味方選手が打ちやすいボールを返せるようになる。


『タイミングが掴みづらいな、高校の時、殆どサーブレシーブしてなかったからな』悠一


 ともかく基本に忠実にだ。レシーブの基本姿勢は「腰を低く」「重心は前に」「かかとは浮かせる」、そして、相手の助走やトスの上がった位置、味方のポジショニングを踏まえてボールの落下地点を予測、素早く最初の一歩を踏み出す。

 また、ジャンプフローターのドライブ回転か、でも、今度は確実に聡一郎に返す。真正面でボールの下に入る、肘は伸ばして固定して、膝でボールの衝撃を吸収、ボールをコントロールして反動だけでセッターにボールを返す。


『簡単なことだ、俺はやれば出来る男だ!』


「上手い、悠一!橘に良いボールを返した」当麻


 聡一郎が上げたトスをはるかに超える高い位置から、恒星が高速スパイクを決める。誰も動けない。


「さすがに大和君が前衛レフトからまともにスパイクを打つと誰も動けないか」目黒顧問

「スパイクについても教えて貰えますか」当麻


 この際、最初に一通り説明した方が良いね(読み飛ばしても構わないけど)。

 代表的なスパイクの種類を3つあげると、1つ目はオープンスパイク(オープン攻撃)。前衛のアタッカーに高いトスを上げる基本的なスパイクで、時間の余裕がありタイミングも取りやすい。

 2つ目はクイック。トスは低く、ネットに近い位置に上げ、スパイクを打つ選手は短めに助走を取り、ボールがネットの高さを超えたらすぐに打ち込む。スパイクを打つ場所の違いでAクイック、Bクイックと呼び方も変わる。

 3つ目はブロード(移動攻撃)、センタープレーヤーが左右に移動しながら打つスパイク。助走のタイミングやトスの軌道など難易度は高いが、コートの横幅を広く使え、ブロックが甘い所を狙える。

 他にも、後衛の選手がコートの後ろ側から打ち込むバックアタックや、セッターとリベロ以外の選手全員がスパイクの助走を行うシンクロ攻撃などがある。


 実際にスパイクを打つ際は、助走から着地までの体の動かし方とタイミングが重要。基本的なオープンスパイクを例に、スパイクを打つ際のポイントを助走・タイミング・フォームの3つに分けると、オープンスパイクの場合、助走はジャンプする前の3歩が基本になる。

 右打ちの場合は右足、左足、右足の順。高くジャンプするためには、助走でいかに力を溜められるかが重要。右打ちの場合、2歩目と3歩目の間で、両手を後ろに大きく振り上げ力を溜める、3歩目はネットと足が平行気味になるように意識しながら、大きめに踏み込む。

 厳密には助走は3歩ではなく、ジャンプの際に左足で4歩目のステップを踏む。左足を右足に揃えるように踏み込み、軽く体重を後ろにかけてジャンプする。ジャンプの際は後ろに軽く体重を残しておくことで、ネットとの接触やボールの真下に入る「かぶり」と呼ばれるミスを防ぐことができる。

 助走が決まり、しっかりと縦方向にジャンプできたら、ジャンプの最高到達点でボールを叩く。トスの高さや速さから落下地点などを予測してから助走に入り、ボールをしっかり叩くのがポイント。

 最後にフォーム。フォームが悪いと力が上手く伝わらず、スパイクが弱くなる。スパイクのフォームは、両手を真上に上げるようにジャンプする「ストレートアームスイング」や、弓を引くような形を作る「ボウ&アロー」、一度右手を後ろに引く「サーキュラーアームスイング」の3種類ある。

 どれが優れているというわけではないから、自分に合ったフォームを見つけて安定させるのが大事。いずれの場合も、右手のバックスイングの際は左手もしっかり振り上げていることがコツで、スパイクを打った後は両足で着地するのが理想。


 サーブ、レシーブ、スパイクと一通り説明したから、試合に戻ろう、橘君のサーブからかな。


 ○4-1(聡一郎サーブ、Bチームのブレイク)


『約束通り、あっくんと勝負する』


 身構える神田淳、ジャンプサーブだけど聡一郎のはトップスピン(ドライブ回転)が半端じゃない。滅茶滅茶速いし、ネットを超えると高い位置から急降下する、しかも気紛れに曲がって。


『マジか!高校の時よりエグい』


 タイミングが遅れて、神田淳が前のめりに飛び込むが間に合わない。


「リベロが専門の神田君からサービスエースか、凄いね」目黒顧問


『どれだけ曲がるんだ?落下地点が予想したのと全然違ってた。どうやって打ってるのか分かんないけど、やっぱり滅茶滅茶だ』神田淳


「目黒先生、しつこくてすみませんが、橘のジャンプサーブは大久保さんのとは違いますね」当麻


 話が進まないけど仕方ないか、ジャンプサーブも説明しておこう。ジャンプサーブにはスパイクサーブとランニングジャンプフローターサーブの2種類ある。橘君が打ったのはスパイクサーブ、大久保君のはランニングジャンプフローターサーブだった。

 スパイクサーブはスパイクの動作で打つサーブ、ジャンピングフローターサーブは基本的なフローターサーブに助走とジャンプを加えて空中で打つサーブ。スパイクサーブはより高い打点から打ち込むから、最もスピードとパワーがでる。サーブポイントも奪いやすいけど、ボールに変化をつけることは難しく、弱いスパイクサーブは簡単にカットされてしまうから、ハイリスク・ハイリターンなサーブ。

 ランニングジャンプフローターサーブは、スパイクを打つときのように全力で助走をつけてジャンプするのではなく、軽くジャンプしてフローターサーブを打つ。スパイクサーブより威力は弱まるけど、たたきつけるように打つスパイクサーブよりも、成功率は高くなる。ジャンプサーブの成功確率を上げるには、自分に合う一定のトスをあげて、同じフォームで打つことがポイントになる。また、空中でバランスを崩さず安定したフォームで打つためには、腹筋・背筋などの体幹を鍛えることが重要だ。


 ○4-2(聡一郎サーブ、Bチームのブレイク)


「また、サービスエースか、さすが橘、滅茶滅茶ですね。トスの高さも、ジャンプのタイミングも、フォームも最初のとは全く違ってた」当麻

「高さとフォームを変えて、あのスピードと落差で気紛れに曲げられると、落下地点を全く予測できない。レシーブ専門のリベロが本来の神田君にはショックかも知れないね」目黒顧問

「滅茶滅茶なのはわざとですか」当麻

「橘君はコートに立つ12人それぞれの動きに、自然に反応してるだけじゃないかな」目黒顧問

「12人ですか」当麻

「橘君自身も含めて見えてるんだと思う。橘君の祖父、橘慶一さんから聞いた話だけど、橘君は幼い頃から友達6人と遊んでいても、7人で遊んでいると認識していたらしい。状況を俯瞰する能力が特別なんだと思う。能では『離見の見』って言うんだけど、橘の茶道は世阿弥能の影響を受けていて、橘君は常に自分を俯瞰しているのだと思う。勿論、彼は多重人格なんかじゃない、もう1人には人格がないからね、ただ見てるだけ、『鏡』でしかない」目黒顧問


「どうしてそんなことを知ってるんですか?」当麻

「僕は茶道部の顧問でもあるし、心理学の准教授だからね、橘聡一郎には興味がある」目黒顧問


 ○4-3(聡一郎サーブ、選抜チームのポイント)


「橘って本当に勝負にこだわらないな。神田を狙う必要ないと思うけど」当麻

「総合力で選抜チームに勝てないと割り切ってるのかも知れないね」目黒顧問


『3本続けてサービスエースはないよな、遊んでみるか』聡一郎

『多分、そろそろ遊んで来る。聡一郎にはもう一つとんでもないのがある』神田淳


『正解!無回転のジャンプサーブ、高い位置で止まって、わけのわからない落ちかたをする。でもタイミングを外されなければ、トップスピンよりは何とかなる』、神田淳が無回転に上手く対応して、ボールをセッターの有楽耕一に返し、OPサウスポーの品川隼人がスパイクを決める。


「凄いのか、凄くないのか分からないけど、ジャンプサーブでも無回転を打てるんですね」当麻

「凄いと思うよ、そんなことする選手いないから。リスクが高すぎて普通は意味がない」目黒顧問


 ○5-3(品川サーブ、選抜チームのブレイク)


「またブレイクか」当麻


 ギャラリーに気付く当麻。


「皆んな暇だね、土曜日なのに」当麻

「暇じゃない。私は柔道の稽古をサボって、わざわざ聡一郎を応援しに来てる」綾乃


 土曜日なのにデートより柔道の稽古か。


「私も橘君の応援、私も色々と応援して貰ったから。でなければ家でノンビリしていたい」瑞穂


 こっちは家でのんびりか、やっぱり暇なんだ。


「あれ?橘は自分ではモテないって言ってたけど、人気あるんじゃないか?」当麻

「馬鹿だからね。見てて飽きないし、可愛い」綾乃

「綾乃、私は馬鹿って思ってないよ、恰好良いって思ってるから」瑞穂

「あんたは?聡一郎が好きなのか」綾乃

「好きだよ、そういう趣味ないけど、一緒にいると楽しい」当麻

「実は私も好きなんだ」和香

「あれ、和香ちゃんも?」瑞穂

「そう、橘君の笑顔を見てると幸せな気持ちになるし、頑張ろうって思う」上野和香

「そうだ、いいものあるよ、橘君が高校生だった時の写真」


 写真: 橘聡一郎(15歳)、13世宗匠襲名記念野点。侘び寂びを主流とする茶の湯の世界で、天真爛漫な華やかさと、自然で静寂な美しさをあわせ持つと言われる橘流、その歴代宗匠の中でも最も美しいと言われる所作、、、


「この少女マンガの王子様のような男の子、橘君なんだ、凄い、キラキラしてる」片岡瑞穂

「お洒落して笑ってるからね。冗談のつもりかな、笑顔が国宝級、いずれは本物の人間国宝になるって紹介されてる。可愛いよね」和香

「まあ、寝ぼけてないと顔が綺麗なのは知ってた、あんたも見たい?」当麻に携帯を渡す目白

「別にいつもと変わらない、それより何で橘がお茶なんだ、つまんない」当麻

「侘び寂びでなく、華やかで自然なお茶って興味あるけど」片岡瑞穂

「いつのまに乗り換えた?瑞穂は大和に憧れてたくせに」綾乃

「乗り換えてないから、二人とも好きなだけです。それに大和君と橘君は似てる。人生って当たり前のことを一生懸命にクリアして行かなければならないよね、良い大学に入って、友達を沢山作って、恋愛もして、就職して、ちゃんと結婚して、家族も作ってって感じ。でも、大和君と橘君は人がどうするとか、どう思うかは気にしてない。羨ましいし、いいなって思う」片岡瑞穂

「気が合うな、俺も二人なら余裕だな、5、6人くらいは一緒に好きになれるよ、賑やかで良いいだろ。何だったら片岡も俺と付き合うか?お互いに不特定多数の1人だからバランスも良い」当麻


「藤原君は節操がないよね。恰好良いのに、惜しいよ」和香

「サービスだって。それにモテたいって思うの悪いことか?アイドルだってそうだろ」当麻

「アイドルなんだ、やっぱりモデルさんは言うこと違うわ、藤原君のモデル画像もあるよ」和香

『おまえ、何でも持ってるんだな』当麻

『マネージャーをなめんなよ、なんてね』和香

「恰好良いじゃない、あんたはバスケより、こっちの方が似合ってる」綾乃

「目白、それは違う。バスケは本気だけどモデルは趣味、モテたいだけ」当麻

「モテたいだけなら黙ってた方が良い。写真だと凄く良いのに、勿体無いじゃない」綾乃

「目白も面白いな、俺もそう思うけど無理。黙ってられない性分だから」当麻


 6-3(品川サーブ、Bチームのポイント)

 6-4(渋谷サーブ、選抜チームのポイント)

 7-4(高田サーブ、選抜チームのブレイク)

 8-4(高田サーブ、Bチームのポイント)

 8-5(恒星のサービスエースでBチームのブレイク)

 8-6(恒星のサービスエースでBチームのブレイク)

 8-7(恒星のサーブ、Bチームがブレイク)

 8-8(恒星のサーブ、高田レシーブ、有楽トス、大塚が渋谷にスパイク、選抜チームのポイント)


 ***


「思ったより競ってますね」当麻

「そうでもないよ。Bチームの8点のうち5点は大和君と橘君のサービス・ブレイクで水増しされたものだ。これからのローテーションはBチームに厳しくなる。選抜チームはOHの大久保君が前に来るが、Bチームの方は攻撃の要の大和君とレシーブが苦手な渋谷君、秋葉君が後ろに下がるから」目黒顧問


(選抜チーム 現在のローテーション)

 前衛 OH 大久保 MB 神田 S 有楽

 後衛 OP 品川  MB 高田 OH 大塚

(Bチーム 現在のローテーション)

 前衛 OH 恵比寿 MB 反田 OP 秋葉

 後衛 S 橘    MB 渋谷 OH 大和


 ○9-8(大塚サーブ、渋谷のレシーブミスを誘って、選抜チームのブレイク)


「大塚君も良いサーブ持ってる。橘君が前衛ライトのセッターポジションに戻る動きに交差させて渋谷君に打ってきた。レシーブに慣れていない渋谷君が対応するのは難しいだろうな」目黒

「今の感じだと、大塚はしばらく同じコースを狙ってきますね」当麻


 ○10-8(大塚サーブ、渋谷のレシーブミスを誘って、選抜チームのブレイク)


『智裕狙いだけど、俺はSだからレセプションに回るべきじゃないよな。練習だし、智裕が頑張る方が良い』聡一郎


「同じコースなのに、渋谷はミスりましたね」当麻

「慣れてないからね。レシーブはリベロと交代してたはずだから」目黒顧問

「どうしてリベロ無しにしたんですか?」

「その方が面白いだろ。ところで藤原君のバスケットボールのポジションはどこかな?」

「シューティングガードですが」

「エースポジションか、そうだと思った。じゃあ、エースにとって何が大切だと思う?」

「何がって、勝つことにこだわる、チームの信頼に応える、誰よりも努力することです」

「見かけと違って、藤原君は大和君と似てる。この試合に期待するよ、藤原君のためにも」


 ○11-8(大塚サーブ、大久保が渋谷にスパイクを決めて、選抜チームのブレイク)


「レシーブの乱れで攻め切れないBチームに対し、大久保君は躊躇せず、スパイクでも渋谷君を狙って畳み掛けてる。さすが部長、偉いね」目黒顧問

「サーブは緩急もつけてるから、慣れるまで時間がかかりそうですね。それに渋谷は悠一みたいに開き直れない気がする。ミスを恐れて萎縮しないと良いですが」当麻


 ○12-8(大塚サーブ、大久保が渋谷にスパイクを決めて、選抜チームのブレイク)

 ○13-8(大塚サーブ、大久保が渋谷にスパイクを決めて、選抜チームのブレイク)

 ○14-8(大塚サーブ、聡一郎のレシーブトス、恒星のバックアタックでBチームのポイント)


 ローテーションのポジションに戻る聡一郎に、恒星が話しかける。「少しインターバルを置いた方が良い」、「分かった。次はレセプションに回る」と聡一郎。

 聡一郎がトップスピンドライブで落ちるボールの下、真正面に潜り、膝で衝撃を吸収しながら、腕を真上に振り上げる、後衛ライト・アタックラインの上にゆっくりと高く上がったボールを、恒星がバックアタックで相手側レフト後衛OP品川の左サイドにボールを叩き込む。


「凄いですね、橘も、大和も」当麻

「凄いよね」目黒顧問

「トップスピン・サーブのスピードを殺して、大和の真上にレシーブを上げるのも、待ち時間の少ないレシーブからのバックアタックで、相手側レフト後衛の左サイドを、逆クロでギリギリで狙うのも簡単じゃない気がする」

阿吽あうんの呼吸だったね。でも本当の大和君はもっと凄いと思うよ」目黒顧問



 14-9(秋葉サーブ、選抜チームのポイント)

 15-9(有楽サーブ、大久保前衛センター、選抜チームのブレイク)

 16-9(有楽サーブ、Bチームのポイント)

 16-10(反田サーブ、選抜チームのポイント)

 17-10(神田サーブ、高田前衛レフト、大久保前衛ライト、Bチームのポイント)

 17-11(恵比寿サーブ、恒星前衛レフト、選抜チームのポイント)

 18-11(大久保サーブ、高田が前衛センターでブロック、選抜チームのブレイク)

 19-11(大久保サーブ、高田前衛センターでブロック、選抜チームのブレイク)

 20-11(大久保サーブ、高田前衛センターでブロック、選抜チームのブレイク)

 21-11(大久保サーブ、高田前衛センターでブロック、選抜チームのブレイク)

 22-11(大久保サーブ、反田レシーブ、聡一郎のトス、恒星のスパイク、Bチームのポイント)

 22-12(聡一郎サーブ、サービスエース)

 22-13(聡一郎サーブ、神田淳のスーパーレシーブ、有楽トス、大塚スパイクで選抜チームのポイント)

 23-13(品川サーブ、反田のレシーブミス、選抜チームのブレイク)

 24-13(品川サーブ、Bチームのポイント)

 24-14(渋谷サーブ、選抜チームのポイント)

 25-14



 ■第1セット終了後のブレイクタイム


「第1セットは中盤で勝負がつきましたね。昨日までの高校生がいきなり大学生のサーブやスパイクに対応するのは難しいのか」当麻

「レシーブに慣れてないしね。それにBチームはチームとしても纏まってない」目黒顧問

「それなりに大和にボールを集めてるように思いましたが」当麻

「大和君1人じゃ勝てないし、闇雲に大和君にボールを集めるのも感心できないな」目黒顧問



「ここまでブレイクされるとは思わなかった、リベロって凄いな」悠一

「悪い、俺が足引っ張ってる」智裕

「部長は智裕のこと狙いすぎ」聡一郎

「おまえもな、淳を狙いすぎ。何でわざわざサーブでリベロを狙うんだ?ジャンプサーブの無回転もおかしくないか?」悠一

「サプライズだった?無回転ジャンプなんて滅多に見れないでしょ」聡一郎

「驚いたよ、ランニングしてジャンプする意味が分かんなかった」悠一

「神田にバレてたしな、味方を動揺させただけだ」恒星

「消える魔球ってのもあるけど、やっても良い?」聡一郎

『やめとけ、と言ってもやるよな』と思う恒星、悠一、智裕。


「魔球もいいが、勝つ気があるのか?」恒星

「あれ?勝てないだろ」聡一郎

「勝つ気がないと始まらない。ベストを尽くせば良いなんて思ってないよな」恒星

「残念、橘はそう思ってるよ、俺には分かる」当麻

「誰だ、おまえ」恒星

「誰だって、藤原だろ?」当麻

「知ってるよ、何でおまえがいる?」恒星

「何なんだ?橘の応援に決まってるだろ、大和の応援なんか絶対しない」当麻

「当たり前だ、俺は応援なんて要らないし、こいつが勝つ気がないのも分かってる。甘いんだよ、ベストを尽くせば良いなんて」恒星

「分かってるのか、つまんない奴。まあいいか、橘は橘のままの方がいい、俺は橘の味方だ」当麻

「ありがと。でも、恒星だって甘い。勝ちたくないわけじゃなくて」聡一郎

「勝てない、相手は選抜チーム、リベロもいる、部長は手加減しない、そう言いたいか?」恒星

「いくらおまえが凄くても1人じゃ勝てないだろ」聡一郎

「何で1人なんだ、6人いるだろ?」恒星

「1人だろ、目黒先生がそうなるようにローテーションを組んでる」聡一郎

「確かにな。ただし、目黒先生のターゲットは俺じゃない」恒星


「何でも良いけど、結局、大和が厄病神なんだって」当麻

「確かに最近ツイてない気がする。おまえ、まさか魔除けの犬張子を外してないよな?」聡一郎

「そっちか、心配するな、後で燃やしておく。成仏させれば良いんだろ」恒星

「絶対燃やすな、守って貰わないと困る」聡一郎


 ***


 ドリンクを探す聡一郎に、当麻がタオルを渡す。


「それで調子はどう?勝てそう?」当麻

「おまえ話し聞いてた?無理だよ、大学バレーの洗礼のつもりだろ」聡一郎

「当麻も一緒にビデオ見てただろ、SNSにアップされたラインアップ・シートのローテーションで、何回もビデオ見てシュミレーションしてみたけど、目黒先生、こっちのボールが繋がらなように色々工夫してる。勝てないと思った」聡一郎

「ローテーションか、バレーって面倒だな」当麻

「それに、こっちは思ってたよりもバラバラ、全然まとまんない」聡一郎

「だろ、橘はバスケ部に来た方が良い。大和なんかより俺といる方が楽しいぜ」当然

「確かに当麻といた方が女子とも仲良くなれそうな気がする」聡一郎

「橘君、勘違いしちゃだめだよ。藤原君と一緒だと思われたら、信用失くすよ」和香

「何で上野がいる?」当麻

「それ、こっちが言いたいわ」和香

「そうだ、上野さん、ドリンク貰えるかな、グリーンエナジーがいい」聡一郎

「あるよ、あっちに。あっちに行こ」和香



 聡一郎にドリンクを渡す上野和香、ドリンクを飲む聡一郎。


「まとまんないじゃなくて、橘君が諦めてるでしょ。勝手に無理だって決めて」和香

「聞こえてたんだ」聡一郎

「だから橘君は馬鹿だって言われるんだよ、大和君はずっと橘君に期待してきたのに」和香

「俺は期待されてないよ、期待されても困るけど」聡一郎

「そういうのは橘君らしくないよ、結果を恐れない、前に進むでしょ」和香


「何で知ってるの?」と驚く聡一郎


 俺たちは結果を恐れない、ただ前に進む、後悔を残さない、それは聡一郎がチームを励ます言葉だ。


「知ってるよ、だから頑張って」和香

「何でかな、俺も頑張ってると思うけど」聡一郎

「頑張ってないよ、私も見てたから、去年のインターハイ。あの時みたいに頑張るんだよ」


 優しさと慈しみがこもった眼差しに、聡一郎への信頼や励ましが溶け込んでいる。去年の夏のことを思い出す聡一郎。

 あの試合は最高だった、一緒に闘っていた神田淳や仲間の声や表情が甦る。体育館に湧き上がる歓声、その天井に近い窓は開け放たれ、燦然と白く輝く太陽が見えていた。最後まで楽しめた。記憶の糸を辿る聡一郎、懐かしい、、


「橘君は誰よりも輝けるのに勿体無いよ」

「俺が?」再び現実に引き戻される聡一郎


 澄んだ瞳がすべてを包みこむように聡一郎に向けられている。綺麗だと思う。俺なんかより上野さんの方が女神に見える、心に火を灯す、不思議そうに上野を見返す聡一郎。


「そう、私も橘君のファンなんだ、ほんとに最高だった」


 でも、何だろう、胸の奥でドクッと心臓が鳴る。手をあてたまま、もう一度、去年のことを思い出してみる。何かを忘れている気がする。けれど、その影は夏の陽の逆光を背に浴びたまま、夏草の微かな香りを残し、忘却の彼方へと消えてしまう。



 第2セット、コートに向かう聡一郎と恒星。考えながら歩く聡一郎、『何なんだろう、分かんなくなってきた、当麻も、上野さんも、恒星も』


「恒星、聞いても良いか?」

「聞くな、試合中だ、面倒くさい」

「おまえって何考えてる?悪い、聞いてた」

「おまえはつくづく馬鹿だと思ってる」

「そうだよな、知ってた」


 一瞬、恒星が立ち止まって聡一郎に振り返るが、また、前を向いて歩きだす。


「馬鹿でも構わない、俺がおまえを分かってる」

「どういうこと?」

「余計なこと考えるより試合に集中しろ」

「そうだな、でも、どうすれば集中できるんだ?」

「マジか?」

「ああ、本当だ。何も考えてないか、余計なこと考えてるかだ、どうすれば良い?」

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