ほっとけ

 ■バレー部練習


 長身の高田蓮(バレー部3年MB)が腕を組んで恒星と聡一郎の練習を眺めている。少し離れたところで大久保主馬がパイプ椅子に座って、マネージャーの上野和香がたてた練習計画を確認している。


「あの二人は、どうしてバスケの練習をしてるんだ?」という高田蓮の言葉に、大久保主馬が顔を上げ様子を伺ったが、直ぐに練習計画に視線を戻す。


「ほっとけ」

「まあ、ボールはバレーボール使ってるから、バレーの練習ってことにしとくか」



(恒星と聡一郎のゴール前ワン・オン・ワン対決)


 フリ-スローラインにオフェンスが立つ、オフェンスはドリブルしてランニングシュート。

 ディフェンスは正対、スクリーンアウトなどで、ボールを奪ったらオフェンスにチェンジ。

 シュートが外れたら、リバウンドを取った方がフェイクかワンドリブルで相手をかわしてシュ-ト。

 シュートが入ったら終わり、外れた場合は、シュ-ト3回まで続けて終了。オフェンスとディフェンスを交代してフリースローラインから再スタート。



 秋葉悠一と神田淳、大塚湊と渋谷智裕のペアが並んでパスの練習をしている。


「今日はバスケの練習か、良くやるね」悠一

「聡一郎の気まぐれだろ」淳

「毎日、激しいよな」智裕

「素人目には、バスケ部より上手く見えるな」湊

「聡一郎は高校でもバスケ部と遊んでたからな」淳

「恒星は違うだろ、あいつは何でもありか?」湊

「まったくだ、凄すぎ」智裕

「でも、いつまで続けるんだ?30分は続けてる」湊

「やりたいんだろ、どちらかが倒れるまで」悠一


「行けー、聡一郎!大和なんかぶっ倒せ!」


「目白綾乃か?今、叫んだの」淳

「聡一郎は新歓で女子と仲良くなったよな」智裕

「淳は利き茶でゲロってたけどな」悠一


 聡一郎がスクリーンアウトしてリバウンドを拾う、右にワンドリブル、そのままシュート、ゴールリングの中にボールが落ちる。

 フリースローラインに戻った恒星がドリブルで聡一郎のブロックをかわし、ランニングシュート、反転してジャンプした聡一郎がボールを弾く、恒星がボールを拾う、ワンフェーク、そのままジャンプしてダンクシュート。


『二人とも倒れちまえ』と思う淳。


 女子、目白綾乃と大崎遥、片岡瑞穂と日暮千聖のペアもパス練習している。


「飽きないね、あの二人」遥

「見てても飽きない。聡一郎は素直で馬鹿だから可愛い。行けー!やっちゃえ!」と叫ぶ綾乃

「あんたもそうだと思うよ」遥

「練習だと橘君は人が変わるよね」千聖

「ほんとだね、羨ましいね」瑞穂


 ***


 練習後、コートの傍で倒れている聡一郎に片岡瑞穂が声をかける。


「橘君、凄い汗。病気じゃないよね?」

「病気じゃない、ぐったりしてるだけ」


 結局、勝てなかった気がする。瑞穂ちゃんの前だけど、恒星は鬼だ!って100回繰り返したい。朝からどんだけ練習してんだろ俺、ああ、何かリフレッシュしたい!


「じゃあ、土曜日に映画でも見に行く?私で良ければだけど」

「あれ、俺でも良いの?嬉しい、勿論行くよ」



(男子バレー部部室)


「おまえ土曜は暇か?」恒星

「土曜はオフ、片岡さんと映画観に行く」聡一郎

「だったらVリーグ・セミファイナルのペア・チケットを持ってるが、要らないか」恒星

「俺も恋愛映画のチケット2枚持ってる」聡一郎


 聡一郎は諦めて、帰ろうとしている大塚湊を捕まえる恒星。


「土曜のVリーグ・セミファイナルのチケットを2枚持ってる。要るか?」

「マジ?欲しいけど、どうしたんだ」

「スポンサーが送って来たが、俺は行けない」

「じゃあ、ただ?超ラッキーじゃん」

「ああ、ラッキーだ」


 土曜日のチケット2枚を渡す恒星、ふと、片岡って誰かを大塚湊に聞いてみる。


「片岡って瑞穂ちゃん?こないだ利き茶で聡一郎から逃げた女子だけど。ちょっと福本莉子に似てない?可愛いかったよな、逃げたり紅くなったり」


『あの時のこか』と分かったものの、恒星は余り片岡瑞穂のことは覚えていない。聞くだけ無駄だったと納得して部室を後にする。


 ***


 ■4月23日(土)映画「ゴースト」


(表参道のカフェ)


「好きになった人がゴーストだったなんて、どうかしてる。しかも、その好きな人に命を狙われるなんて」と聡一郎。砂糖抜きのカフェラテをホットで飲んでいる。

「韓国ドラマなんかで良くある話しだと思うけど」と苺のシェークを飲みながら答える片岡瑞穂。


(ゴーストのあらすじ)


 美大生の主人公はバイト先の花屋の女性店主に恋する。けれど彼女は彼が遠い昔、裏切って死に追いやった前世の恋人。

 生まれ変わった彼は前世の記憶を失っていて、何も知らずに、ゴーストに出逢い、ゴーストを愛し、ゴーストに殺される。何度生まれ変わっても殺される、愛と憎しみと復讐の悲しい輪廻。

 その輪廻を断ち切る神との契約。敬虔だった彼女の死を憐れんだ神は、ゴーストにチャンスを与えた。もしも生まれ変わった彼が、人間だった彼女との愛の記憶を取り戻したならば、ゴーストは人間に戻ることができる。

 けれど失われた記憶の扉は開かない。ゴーストを裏切り、死に追いやった彼は、何度生まれ変わっても、その扉の鍵を失くしてしまっている。

 ゴーストが求めているのは本当の理由、何故、彼が自分を裏切ったのか。そして、確かめたい、全てが明らかになり、ゴーストが人間に戻った時、2人の運命がどう変わるのかを。


「人間に戻るより、ゴーストのままの方が良くない?飛べるみたいだし」とラテを飲む聡一郎。

「でも人間に戻れたから、ゴーストは本当の愛を知ったんだよ」瑞穂

「そうかな、二人ともゴーストになった方が楽しかったと思うけど」聡一郎



(表参道の坂道を原宿駅に向かって歩く二人)


「ウィンドーショッピングって楽しい、見てて飽きないし、気を使わなくていい。このパーカーも恰好いいね、隣りのシャツも綺麗、橘君に似合うよ、きっと」

「俺には勿体無いよ、見て、全部、ユネクロだよ」

「似合うのに勿体無い。あ、ペアブレスレットだ、可愛いね、これもきっと似合う」

「ペアだよね、俺、彼女いないし」

「彼女いないんだ、どうしてかな」

「どうしてって、男子校だったから?そんなことないか、オシャレに興味ないから?お茶とか花とか料理が趣味だからかな(家業だから仕方ないけど)」

「分かってないんだ、可笑しい。オシャレしたら絶対にモテるのに」

「そうかな?」

「モテたい?」

「どうだろ、分かんない。嬉しいけど、恒星みたいにモテたら大変そう、あ、ごめん」

「大丈夫、勝手に憧れてるだけだから、大和君が目の前にいる方が変な感じ」

「変なの?」

「うん、変な感じ」

「だよね、俺もあいつが変なのは分かる」

「俺のことより瑞穂ちゃんも彼氏いないよね、その方が変な気がする。ひょっとして女子校だった?」

「普通に共学だった」

「理想が高いとか?」

「そんなことないけど、いいなって思った人は皆んな他に好きな人がいたから」

「くじ運か、恋愛って難しい」



(原宿駅前の神宮橋を渡り、明治神宮前を左に折れて、代々木公園に入る)


「あのさ、5月5日って大和君の誕生日なんだ」と唐突に切り出す片岡瑞穂。

「恒星の誕生日って子供の日なの?ありえない(笑える)」と可笑しくなる聡一郎。

「プレゼントなんかしたらもっと変だよね」

「プレゼント?恒星に?」

「したいかなって、、」

「変じゃないよ、気持ちを伝えるのは。でも、恒星は誰かを好きになるような奴じゃないと思うけど」

「だよね、受け取って貰えないかもね」

「いや、でも、渡したら、大事なのは瑞穂ちゃんの気持ちだから」

「優しくないね、『やめとけ』って言ってくれたら、言い訳できるのに。単なるファンだから期待もしてないけど、笑われたらどうしようかって」

「ごめん。でも、恒星は笑ったりしない」

「じゃあ、プレゼントを渡すから、一緒にいてくれないかな?」

「俺が?」

「そう、橘君も責任あるから」

「マジで?」

「うん、マジだよ」

「瑞穂ちゃんはマジでもいいけど、俺と一緒は本気じゃないよね?変だよ」

「本気だし、変じゃない。橘君も本気だして」

「瑞穂ちゃんは本気か、じゃあ、俺も本気ださないとだめか(何言ってんだろ)。でも、何で恒星の誕生日が子供の日なんだ、やっぱりありえない」

「可笑しいよね」


 ***


「で、何をプレゼントするの?」


 携帯でググる聡一郎、大学生の彼氏が貰って嬉しい誕生日プレゼント人気ランキングTOP10だって、何位が好き?「5位か」、、

 ジャーン、第7位は香水だって、結構嬉しいかも、5位だよね、、

 ジャーン、第5位はベルト、ベルトって嬉しいものかな?次は何位?「3位か」、、

 ジャーン、第3位はキーケースです、2位と1位も続けるね(しつこい男じゃないから)。

 第2位はネックレス、第1位は腕時計でした。貰えると彼氏なんだって気にはなるか。ちなみに第4位は文具だって、ボールペンかな?どう、参考になった?


「橘君はどう?貰って嬉しいものあった?」

「俺はお洒落しないから、参考になんないよ」

「大和君と同じだね、ウェアとかの方がましかな」

「ウェアか、だったら、5月5日だし柏餅かな」


「柏餅?」

「あ、ごめん、俺が作りたいもので、貰って嬉しいものじゃないよね」

「作りたいの?」

「ちょっと作ってみたいかなって」


「そうか、茶道の家元だから和菓子が好きなんだ」

「食べるより作るのが好きなんだけど、それにどちらかと言えば洋菓子の方」

「大和君は食べてくれるかな?」

「どうだろ、ほんとに柏餅でいいの?深みに嵌まってく気がしない?」

「しない。橘君が好きなら、私も作ってみたい」


 俺が好きだからって、何か分かんないけど、やっぱりマジか。本気だすしかないのか?俺も、、

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る