レッスン2 逃げても無駄だ

新歓(名前でビンゴ)

「橘」と部長の大久保主馬に声をかけられる。


「今年の新歓、大とりはおまえに決まった」

「大とりって何ですか?」

「抽選で俺と橘が選ばれた。明日の新歓、余興で俺と橘が勝負する。今年は『利き茶※1』で勝負だそうだ。仕掛けるのは俺、答えるのは橘、負けた方が罰ゲームだ」

「『利き茶』でいいんですか?楽勝ですけど」

「安心しろ、特別ルールで橘には目隠して誰が淹れたかも当ててもらう」

「冗談でしょ、さすがにそれは無理ですよ」

「大丈夫、十人十色、同じ人なんていない。必ず違いは出るはずだ」

「新入生だし、未だお互いによく知り合えてませんよ」

「大丈夫、先に『名前でビンゴ』、『山手線ゲーム』、『100円じゃんけん』もやる。そこで、たくさん知り合えば良い」

「部長、先に罰ゲーム聞いといてもいいですか?」

「橘、先に聞かない方がいいと思うぞ」



 ※1 利き茶:自分が飲んだお茶がどれかを当てるゲームです。一般的には(1)コンビニやスーパーで色々な種類のお茶を買い揃え、(2)挑戦者は目隠しをして1種類のお茶を飲み、(3)目隠しを外し、テーブルの上に並べられたお茶から正解のお茶を探します。今回の利き茶は、ローカルルールなので、ペットボトルではなく、煎茶、玉露、玄米茶、抹茶などを急須を使って淹れ、その銘柄や産地、誰が淹れたかを言い当てて貰います。


 ***


「罰ゲームってマジか?勝手にルール変えてるし」聡一郎

「去年は品川先輩が着ぐるみで、『つけまつける(きゃりーぱみゅぱみゅ)』を踊ったらしい。しかも上手く踊れるまで、朝まで踊らされたらしいぞ」悠一

「やっぱり体育会系だな、ここは」淳

「品川さんがきゃりーぱみゅぱみゅ?それは笑える」聡一郎

「聡一郎は笑ってる場合じゃないけどな」淳

「でも、どうして利き茶なんだ」悠一

「目黒准教授が茶道部の顧問だからだそうだ。それより何で新歓なのに罰ゲームかけて先輩とバトルんだ、それって歓迎か?」聡一郎

「だから体育会系だって、ここは」淳


 ***


 ■名前でビンゴ-


 とりあえず、利き茶に出場するメンバーのリストはゲットした、早く接触して情報収集しないと。


(聡一郎のメモ-)

-女子バレー部-

 片岡瑞穂(国文学)ボブで可愛い、弟と仲が良い

 大崎遥(心理学科)ポニーテール、聡明らしい

 日暮千聖(国文学)ボブ、しっかり者

 目白綾乃(法学部)マニッシュショート、柔道初段

-男子バレー部マネージャー-

 上野和香(経済学部)ミディアム、美人だそうだ



 ターゲット①目白綾乃


 法学部の講義室、目白綾乃がノートを取っている。体育会系女子、マニッシュショートな髪型、シャープな目と身のこなし、彼女かな。


「目白さん、隣り空いてるよね」

「橘か、今日は窓際で寝ないのか?」

「今日はそんな暇なくて。目白さん、女子の名簿持ってない?」

「女が欲しいのか?」

「ストレートだね、でもそうじゃなくて、今夜の新歓で『名前でビンゴ』をするそうだから、先に名前知っとこうかなって」

「あんたが暇でない理由ってそれ?」


 首を縦に振って頷く聡一郎、聡一郎を見る目白綾乃。


「まあいいけど、写真撮るのはなし、住所も携帯番号もNG、名前だけにしといて」

「大丈夫、名前だけ書きとるから。たまにはノートも使ってあげないと」

「そう言えば、あんた、今夜、罰ゲームで踊るんだって?」

「まだ決まったわけじゃないけど」

「暇だったら、こんなとこで遊んでないで、屋上で練習でもしたら」

「それより片岡さんってどんな女子?(そうしたくても、どんな罰ゲームか分かんない)」

「何で聞く?」

「だって仲良くなるためのゲームでしょ?髪型とか、趣味とか何でもいいよ」

「瑞穂はボブ、趣味は知らないし、国文学で学部も違う、顔は可愛い、これで十分?」


 ボブで可愛いか、それけだと誰だか分かんない。


「片岡さんは兄弟とかいるの?(何、聞いてんだ、俺!)」

「弟と仲が良いって聞いたけど、あんたは家族とも仲良くなりたいのか?」

「そうじゃないけど、兄弟がいるのか、羨ましい」

「じゃあ次、大崎さんは?髪型とか、趣味とか、家族構成はもういいや」

「今度は遥ですか?彼女は練習中は髪をポニーテールにしてる。心理学科。良く知らないけど聡明な感じがする、私は好きね」


「あとは日暮さんか」

「ねえ、大和恒星ってどんな奴?」

「誰、それ?それより日暮さんってどんな感じ?」

「千聖より大和恒星が先、あんたいつも一緒に練習してるよね」

「あ、あいつか、あいつだったら凄く嫌な奴だから関わらない方が良いよ」

「嫌な奴?」

 は〜、とため息を吐く。ほんと、嫌な奴。

「凄い奴でもある。才能があるのに誰よりも努力してる、目白さんは恒星に気があるの?」

「女子ならそれが普通だと思うけど、私はそれほどでもない。興味があるだけ」


 聡一郎のノートが目に入る、女子バレー部の名簿から名前が書き取られている。


「あんたも意外、字が綺麗」

「家庭の事情です」

「じゃあ次ね、神田淳は?」

「あっくんは親友だよ(あっくんを想像しただけで何だか笑える)。中学でバレー部に誘ってくれて、それからずっと一緒、勝った試合も負けた試合も。リベロとセッターだから特別だし、喧嘩もするけど最後の味方かな、お互いに。それにあっくんは嘘つくのも苦手かな」

「羨ましいね」


 ノートに名前を書き取っている聡一郎を見る目白綾乃、視線に気がつく聡一郎。


「俺のこと見てる?」

「あんた寝ぼけてないと、綺麗な顔してる」


 何、突然?ドキドキしたぞ、主人公だからそういう設定にしないともたないだけなんだけど。ともかく、ときめいる場合じゃない。


「ありがとう、、目白さんも」

 綺麗?ちょっと違う、可愛い?これも違う、、

 そうか、「凄く男前だと思う」


 目白綾乃が笑う。


「ウケる!あんたの下の名前、聡一郎だよね?聡一郎って呼んで良いか?」

「良いよ」

「聡一郎か、気に入った」


 ***


 夕方、新歓会場に集まった新入生が他の人に名前を聞きながら、5×5マスのビンゴカードに名前※2を書いている。


 ※2「名前でビンゴ」

 初対面の人とも話しやすいので場を和ませたい時におすすめです。(1)各自ボックスの中に名前を書いた紙を入れる。(2)5×5マスのシートを他の参加者の名前で埋める。(3)ボックスの中から1枚ずつ名前を読み上げる。(4)後はビンゴゲームと同じ要領で。シートは他の人に名前を聞きながら埋め、名前が呼ばれた人は軽く自己紹介すると交流がはかれる。景品は後で皆んなで食べれるポッキーやポテトチップスなどのお菓子などが良いです。



 ターゲット②日暮千聖


 ボブヘアーでしっかりした感じの日暮千聖さん、あのこかな?


「日暮さん、かな?」聡一郎

「橘君だよね、大和君といつも一緒に凄い練習してる」日暮千聖

「それは忘れて欲しい。それより、俺の名前を書いた方がいいよ」

「橘君、確かに引きが強そう。じゃ、大和君の隣りに」

「そこはやめて。出来るだけ遠いところがいい。この辺でどう?」

「あれ、大和君と仲良くないの?」

「そう見える?」

「全然、でも、朝練も一緒にしてるの見たよ」

「あれはたまたま、別々な練習だけど時間が重なったから」

「偶然って毎日重なるんだ?」

「だから偶然なんじゃないかと思うけど」

「そう言えば、橘君は後で『利き茶』するよね、私も参加することになってる」


 そこです、聞きたいのは。


「お茶に興味ある?」

「全然、コーヒーの方が好きかな、コンビニのでも十分だし」

「でもお茶も色々あるから、煎茶、玉露、玄米茶、ほうじ茶、番茶とか結構違うよ」

「確かに、伊右衛門、綾鷹、生茶、お〜いお茶、色々あるわね」

「でしょ、今のは全部ペットボトルの商品名だったけど」

「なるほど、私が選ばれたら御免なさいだわ。ちゃんとしたお茶を淹れられない」

「大丈夫、ぬるめのお湯で1分くらい蒸らせば、だいたい上手くいくと思う」

「さすがに私が淹れたかまでは分かんないよね?」

「元々、無茶苦茶なルールだけど、分かると思う」

「分かるの?」

「ああ、橘流家元(宗匠)の名にかけて」


 誇らしげな顔をしてみせる聡一郎


「凄い!」

「なんてね、嘘、分かるわけない」

「橘君って面白いね、可笑しい」

「でしょ、あ、聡一郎で良いよ」



 ターゲット③片岡瑞穂


 もう一人、ボブヘアで可愛い、弟と仲が良い、、分かんない、どのこだろ?しょうがない、日暮さんに聞いてみよ。


 あのこか?確かに可愛い、ともかく話そう。どうして?全然、近づかない、っていうか、逃げられてる気がする。


「俺のこと避けてる?」


 片岡瑞穂の背後から声をかける聡一郎、振り返る片岡瑞穂の腕を掴む。


「捕まえた」、驚く片岡瑞穂

「ごめん、驚かすつもりじゃなかった」聡一郎


「逃げられてる気がしたから、追いかけてみただけ。結構、楽しかったけどね」聡一郎

「楽しかった気もする」と頷く瑞穂

「で、俺、片岡さんに何かした?」

「大和君といつも凄い練習してるから、ちょっと怖くて(変な人かと)。関わらない方がいいねって、皆んなも言ってたし」

「また大和恒星か、で、恒星からも逃げてんだ?」

「大和君からは逃げてるんじゃなくて、近づけないだけ。高校の時から憧れてて、大学で同じになって、突然目の前にいて」

「さっぱり分かんないけど、どこがいいの?」

「全部、ボール追う時も、飛んでスパイクする時も、無愛想だけど優しそうなところも」

「そうか、優しそうなところか」


 震えてきたぞ。


「そう、優しそうなところ、橘君なら分かるよね、仲良いから」

「うん、凄く分かる気がする、仲良いから」


 無理して笑う聡一郎。


「あ!今の笑い方、弟に似てた」

「弟がいるんだ、羨ましい。俺も兄弟欲しかった」

「生意気だけど、凄く可愛いと思う」

「片岡さんも可愛い、俺だって弟にして貰いたい」


「弟になってもいいかな?」と哀願する聡一郎、

 二人とも笑顔になる。


「橘君って思ってたのと違う、ほんとに弟みたい」

「じゃあ、今度逃げたら、また追っかけるから」



 ターゲット④大崎遥


 セミロングのポニーテールで聡明な感じなのは、多分、あのこだ。大崎さん?え、違う、高輪さん。あ、ごめんなさい。

 えっと大崎さんかな?馬場さんか、、、君は?田端さんか、、。


「大崎、大崎って、橘君、私のこと探してるみたいだけど、無視しといて良いよね」大崎遥

「そう思う、遥、ポニーテールほどいておいて良かったね」上野和香


 ***


 司会の大久保部長が、ボックスから名前を引く。次は、橘聡一郎君!


「あ、ビンゴだ」と日暮千聖が手を挙げる。


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