第三話 泉くんは、可愛い。(4)
「い、いいの!大丈夫だから…っ」
「本当ごめん。でも…そうだよなぁ。瑞希さん可愛いから告白されてもおかしくないよな」
「………っ」
自分の顔が真っ赤になったのが、すぐに分かった。
可愛い…あの泉くんがそう言ってくれたのだ。好きな人にそんなことを言われて、真っ赤にならないわけがない。
「そういえばさ。瑞希さんって好きな人、いるの?」
「え!?」
心臓が飛び出るかと思った。
好きな人に好きな人の有無を聞かれる。今日の泉くんとの会話はいつも以上に心臓に悪い気がする…!
「や、答えたくなかったら別にいいんだ!ただ、うん。そういう話、したことないなと思って…」
わたしの見間違いなんだろうか?この話題を振ってきたのは泉くんのはずなのに、その本人の顔も心なしか赤くなってるような気がする。
それを隠すようにわたしから視線をそらしている泉くんはなんだか。
「……可愛い、」
「え?なんか言った?」
男の子なのに、すごく可愛く見えた。
「ううん!なにも!」
でもまさか可愛いと思ってました、なんて本人には言えなくて。大袈裟なまでに首を横に振れば、首が取れちゃいそう、と泉くんが笑う。
その笑顔がまた可愛く見えて口にしそうになったけど、ぐっと心の中に抑えておいた。
「………」
そんなわたしと泉くんの間に沈黙が広がる。
泉くんの態度は好きな人以外の話題を探しているように見える。
わたしはというと、泉くんの質問になんて答えようか半ばパニックになりながら考えていた。
好きな人がいると答えてしまえば、それが泉くんだとバレてしまわないかドギマギする。でも、好きな人がいないなんて、好きな人を目の前に嘘をつきたくない。
どうしたらいいのだろうか。わたしはなんと答えるべきなのだろうか。
「―――」
必死に考えながら、おろおろと視線をさ迷わせているときだった。
「――俺はね、いるよ」
泉くんのいつもとは違う雰囲気の声に、わたしの思考回路は全ての動きを止めた。
「好きな子。俺はいる」
だって泉くんの声が、纏う空気が。とても柔らかく、だけど胸が苦しくなるくらい切ないものを含んでいたから。
同時にぞわぞわっとした黒いものが、わたしの心を駆け巡った。
――泉くんにこれほどまでに想われている相手。
知りもしない相手に、わたしは黒い感情を抱いてしまったのだ。
「……好きな…人?」
聞き返した声が震えていた。
恐る恐る、泉くんの顔を見れば。
「っ、」
泉くんは遠くを。窓の向こうを見つめていた。
――その目に、今にも泉くんが消えてしまいそうなくらいの儚さを宿して。
「………」
そうしてわたしは気づいてしまった。泉くんの好きな人が、わたしではないということを。そしてどこかでわたしは、その好きな人がわたしなんじゃないかと期待していたということを。
「―――、」
神様がいるなら、とても意地悪だ。
泉くんと急に仲良くなれたことや、泉くんの態度を。流れたわたしたちの噂を聞けば、わたしが期待するのも当たり前のはず。
なのにこんなカタチで…こんな相手への想いで溢れてる泉くんの姿を見せるなんて……神様は、本当に意地悪だ。
「……わたし、も…」
これでどうにかなるなんて思わない。
それでも、それでも。
「わたしも好きな人、いるよ」
好きな人に、泉くんに。
伝えずにはいられなかった。
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