Episode3:テールの使命

第9話 日常から宿命へ

 私はテール・オルネシオ。


 リンカーネの町のジャンク屋兼冒険家として大昔の戦争から長い年月を経て、復興しつつある世界を生きているの。


 不思議なロボット『テセラ』を発掘した私は、この子と一緒に色々な冒険をした。人を襲う機械、クラックの大群と戦ったり、廃墟となった研究所を探索した事もあった。


 その研究所で、テセラ君はケット・ホワイトポイント博士によって作られた事が分かった。テセラ君は、かつて破壊兵器だったテセラスとしての記憶が戻り、凶悪な存在に戻ろうとしてたけど、私は必死に呼び掛けた事でテセラ君は意識を取り戻した。その際、本来のテセラスの意識とも融合を果たし、悲しい記憶を背負いながらも動く機械となった。


 テセラ君と一緒に暮らし始めて、もうすぐ一年が経とうとしている。今日はどんな冒険が私達を待っているのかな。


   * * * * * * *


 リンカーネの町に、朝が来た。


「おはよう父さん」

「おはようございます」

「テール、テセラ、おはよう。今日も探索か」

「そうだよ、先日訪れた廃墟でまた研究所の跡地らしき建物が見つかったの」

「回収出来るものがあればここに持ち込みますね」

「そうか。店は俺が守ってやるから、二人共気を付けてな」


 お父さんに挨拶してから店を出発する。実家のジャンク屋は私の仕事が色々上手くいったおかげでリンカーネで一番発展した建物になった。将来はここでお手伝いロボットとしてのテセラを量産できたら良いなと思ってるの。なんて説明しながらも、いつものパン屋さんにやって来た。


「おはようレッくん!」

「おはようテール。今日は最近見つかった果実をパンに練り込んでみたよ!」

「ほお、これは美味しそうです。私の味覚センサーも震えています」

「テセラ君、そんな機能あったの?」

「いえ、もし私にも食べ物が食べられればなと思い……」


 えーと、なにはともあれ、今日もレッくんのパンが美味しい!一日でも切らしたら大変な事になっちゃうぐらい!


「それじゃあ、行こう!テセラ君!」

「了解です、テールさん!」


 私とテセラ君は集めたパーツで作ったバイクに似た乗り物に乗って研究所跡地と思わしき建物へと出発した。


ブロロロオォォォォォォオオン!!!



 目的地に着いた。見た所、二階建ての建物のようだ。


「テセラ君、周辺のスキャンをお願い」

「了解です…………周辺に危険物の気配無し」

「それじゃあ、行こう!」


 私とテセラ君は、その建物に足を踏み入れた。


「ここはまだ人がいた頃はとても綺麗な所だったのかな」

「この施設の建築に使われた資材はとても上質なものと見受けられますね」


 しばらく歩いていくと、地下に続く階段と思わしきものがあったけど……。


「瓦礫で埋まっている……」

「ここに業者を呼んで撤去出来れば地下を調べられそうです」


 がっかりする私の前に、キラッと陽の光が差し込んだ。


「わっ!……あ……?」


 眩しくて顔を下に向くと、何か青いものが見つかった。


「これは……花?」


 星のような花を咲かせた、青い花がいくつか咲いていた。


「テセラ君、この花何だか分かる?」

「データベースを解析中…………照合ありました。これはオキシペタラムという花です。青い星のような形から、ブルースターとも呼ばれています」

「すごいね、テセラ君!」


 かつてのテセラスのデータを取り込んだテセラ君は、以前よりも物知りになっていた。この知識があれば、世界の緑化は早く進むのかな?


「この花、リンカーネでも育てられるかな!」

「回収して調べてみましょう」


 私はこの花をいくつか根本から取り出してカプセルに入れた。町で増やせたらいいなと思って。


「何だか、誰かの想いが込められてそうな気がするの」

「ここは植物の研究所だったかもしれませんね」


 私とテセラ君は引き続き探索を続けると、何か箱状の大きなものが見つかった。その箱にはドアがひとつ付いていた。


「字が掠れているけど……テセラ君、読み込める?」

「了解です…………かろうじて、Dream……と読む事が出来ました」

「ドリームって事は、ここではなにか眠りに関する実験をしていたのかな?」

「そうかもしれませんね」


 私とテセラはドアを開けて、中に入って調べようとした。


「中にはベッドがひとつ置いてあるだけの真っ白な部屋なのね」

「それ以外は特に何も無いみたいですね」


 私達はドアを開けて出ようとした……けど、あれ!?ドアが開かない!?すると……!


♪〜〜♪♪♪〜〜〜♪〜〜〜〜


 オルゴールのメロディーと思わしき音楽が流れて……!


シューーーーーー……


 何かが噴出する音が聞こえて……!


「あれ……急に、眠気が……」

「状況を確認……これは!高濃度の毒ガスを検出!!!一刻も早くここから出なければ危険!危険!危険!!!」


 意識が薄れる私の隣でテセラは腕をビームガンにして!!!


ドダンドダンドダダンドダダァァァン!!!


 ドアを破壊すると、私の手を引いてこの箱から脱出した……!


「テールさん!気を確かに!」

「う……うう……ん……」


 テセラ君は私のリュックからお母さんが調合した応急処置用の薬を取り出して私に飲ませた。


「大丈夫ですか……!」

「うん……なんとか……まさかあの箱が毒ガス室だったなんて……」

「本日はこれ以上の探索は危険と判断しました。後は調査隊に任せて私達はゆっくり休みましょう、バイクの運転は私がバイクと接続して目的地まで運ぶので、テールさんは休んでて下さい」


 私達はテセラ君の制御下に置かれたバイクに乗ってリンカーネの町に帰っていった。



 一休みした後、駐在の調査隊に提出する今日の探索の報告書を書いたのでした。


「危ない所だったけど、あの建物の秘密、分かるといいよね」

「そうですね、何か実験体を処分していたのかもしれませんね……」


 ひと仕事終えた後は、お風呂に入って、夕飯を食べて、ベッドの上からスリープモードになっているテセラ君を見つめていた。


「今日もテセラ君に助けられちゃったね」

「主人が危険なら守る。お手伝いロボットとして最善を尽くしたまでです」


 スリープモードのテセラ君は、手足胴体を頭部に収納してサイコロ型になっているけど、私はこの姿のテセラ君が一番可愛いと思うの。それで、つい、こんな事を言っちゃった。


「世の中にある機械がみんな、テセラ君みたいになればいいのにね」

「テールさん……いえ、何でもありません……ひとまず、おやすみなさい……」

「うん、おやすみ、テセラ君……」


   * * * * * * *


 次の日の朝。


「おはようおやっさん。テールはいるか?」

「トネールか。そろそろ起きてくると思うが」


 お父さんとトネールさんが話し合ってる様子から今日は始まった。


「おはよう!」

「おはようございます」

「テール、テセラ、おはよう。早速だが本題に入るぞ」


 トネールさんは言いました。


「つい先日、大量のクラックが占領する巨大要塞を発見した」

「ええっ……!?」

「偵察隊によると、そこにはクラックの親玉と思わしき存在が示唆されていた。連日の殲滅作戦で逃げ延びたクラック達もこの要塞に集まったとの情報も入っている。これは地上からクラックを根絶やしに出来る唯一のチャンスとなるだろう……」

「そうなんだ……」

「そこで、今作戦の切り札となるものがある」

「それって、もしかして……!」


 私は、隣りにいるテセラに目を向けた。


「私の事なのですね」

「その通りだ。この作戦でテセラの中の兵器としてのチカラを使えば、最後の作戦は早期に終わる事だろう。もちろん反対の意見も受け付けるが……」


 私はトネールさんに言った。


「テセラ君を連れて行くのなら、私も一緒に行きます!」

「おいおい嬢ちゃん、本気か!?」

「今度こそ、無傷では済まないかもしれないぞ!」


 心配するトネールさんとお父さん。でも、私の意思は変わらない。


「テセラ君を発掘した日から、私とテセラ君は友達同士。だからこの戦い、私も行くよ!」

「テールさん……いいでしょう!その思いに、私も可能な限り応えて見せましょう!」

「テセラ君、ありがとう!!!」


 私はテセラ君に抱きついた。硬くもなく柔らかくもない感触が頬に伝わってくる。


「作戦の実行は後日。それまで準備は抜かり無いように!」


 その日から、クラック軍団との最後の戦いに向けた準備が始まった。私達リンカーネの町の人達は出来る範囲で作戦に向けての準備を進めたのだった。


 作戦決行まで、あと一週間。

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