第8話 テセラはこれからテールと共に

 この施設の最深部で、私はテセラ君の出自とかつての戦争の真実を知った。


 私の隣りにいるテセラ君、いや『テセラス』は全ての記憶が蘇り、目は赤く光ってた……。


「イマハ……ココニイルヒトガ……ワタシノマスターデショウカ……」

「大丈夫……?テセラ君……テールだよ!私が分かる……?」

「ワカリマス……イシキノシンエンデベツノイシキトスゴシテイタコトヲ……」


 別の意識……私には心当たりがある。どうしても直らなかったメインブレインの代わりにセットしたお手伝いロボットのブレインの事だ……!


「ワタシカラモ……テールニツタエタイコトガアル……」

「伝えたい事……?」


「ワタシガ……ケットハカセニツクラレタテセラスノプロトタイプダッタノダ……!」


 全てを思い出したテセラスが語った事実。行方知れずだったテセラスのプロトタイプは私の目の前で動いていて喋っていた。


「ハカセハシサクガタデアルワタシニサイダイノアイジョウヲコメテツクリダシタ。プロトタイプノミ、メインブレインヲフタツセットデキルヨウニナッテイタ」

「だからあの時、セット出来たんだ」

「ハカセノパートナートシテキドウスルチョクゼンニ、ワタシハアールコクグンニオウシュウサレ、ヘイキヘトカイゾウサレタ」

「え……」

「ワタシハホカノリョウサンガタテセラストオナジヨウニグンノメイレイノママニハカイトサツリクヲクリカエシタ」


 もしこのテセラスの言っている事が本当なら、私はこの事もみんなに伝えなきゃいけない。だから真摯に、言葉を聞いた。


「エルコクガハナッタドクガスニヨッテナマミノヘイシタチハツギツギトタオレタ。ロボットデアルワタシタチニハキカナカッタガナカマノニンゲンガシニユクサマニフカクカナシンダ。キットハカセガマスターヲキヅカウヨウニシコウヲセッテイシテイタコトダロウ」

「人間のお友達になるはずなのに……酷いね」

「ワタシハナンドモマスターヲカエテキタ。ザットフリカエッテ、ニジュウニンホドイタダロウ。サイゴノマスターハシガナイホヘイタイチョウダッタ」

「歩兵隊長……」

「カレトハナガイコトクルシミヲトモニシタ。ナカマガツギツギトタオレテイクナカカレダケヘイワヲシンジテタタカイツヅケタ」

「きっと、私達が思う以上に辛かった」

「ソウダナ。イマノマスターガヘイワナジダイニイテヨカッタ。サテ、ハナシハモウスグオワリニナル……」


 最後にテセラスは何を語るのか……私は集中して話を聞く。


「ナカマガ、マスタートワタシダケニナリセンソウガオワッタカドウカワカラナクナッタナカ、タイチョウトワタシハイツオワルトモシレナイタタカイヲツヅケテキタ」

「もし私がその時代にいたら……考えただけでも怖い……」

「アノヒ、ワタシタチノマエニオオキナキカイヘイキガアラワレタ。ムサベツニヘイシヲオソッタヤツダッタ。ワタシハマスターニ、ニゲテトツタエテゼンシュツリョクヲモッテ、ヘイキヲハカイシタ」

「優しかったテセラスが……そんな事を……」

「サイゴノテキヲタオシタアト、ワタシハエネルギーガキレテソノママタオレタ。シカシメインブレインハ、ナガイジカンガケイカシテモ、イキナガラエツヅケテイタ」


「そして私が君を見つけるまでの間ずっと一人きりで……拾って直したけど

メインブレインは故障したままと思ってた。それでお手伝いロボットのブレインをセットしてあげたんだ」

「マンガイチニソナエ、ハカセハワタシガキノウテイシゴニプロテクトヲカケルヨウニシカケタノダロウ……」

「そうだったんだ……」

「シカシ、イマノマスターガキケンニサラサレルト、イチジテキニ、ホンライノブレインガサイキドウシテ、ヘイキトシテノテセラスガ、カクセイシタトイウコトダロウ」

「それで、手から強い銃を撃って……」

「ソノケイケンハ、アタラシイブレインニモツタワリ、ブキヲアツカエルヨウニナッタ。ダガ、モウヒトツノブレインハオテツダイロボットノブレインナノデヒトヲキズツケルモクテキデハツカワナカッタコトダロウ」


 私はテセラスの長い話を聞き続けた。姿形こそはテセラ君だけど、ここにいるのは戦争の兵器だったテセラス。でも私はこの話を最後まで聞いてあげた。


「サテ……コレデワタシノカタリタイコトハスベテイッタツモリダ……」

「分かった。それじゃあ」



ドッカアァァァァァァアン!!!!!!



 非常階段のドアが爆発した。どうやらトネールさんがここを見つけたのね。


「テール!テセラ!助けに来たぞ!!!」

「トネールさん!」

「……!?」


 トネールさんは心配そうに私に近寄るとテセラ君の様子を見て何かを察知した。


「ど、どうなってるんだ?コイツは……」


 テセラスがトネールさんの背中の銃を見て

何かを言っている……!


「テール……アレハ、ワタシタチニキガイヲモタラスキケンインシデス……!」

「違うよ!この人は私達の味方だよ!だから攻撃しないで!!!」

「…………カマエ……ウテ……」


テセラスはトネールさんに右腕を向けた!!!


「やめてっ!!!」




ドダダァン……!!!





 私は咄嗟にテセラスを抑え込んだ。テセラスの撃った弾はトネールさんに当たらず後ろの壁に弾痕を付けた。


「やっぱ……コイツは……!」


一歩間違えれば私も撃ち抜かれていた。それでも、大切な友達が誰かを傷付けるなんて許せるわけが無かった。


「お願い!テセラ君!元に戻って!!!こんなテセラ君、私はいやだよ!!!」

「アレハ……ミカタ……ソレハ……スマナカッタ……」

「もしトネールさんを撃ったなら……私、許してあげないんだから!!!」


「テール……お前……」


 トネールさんは、テセラスを抑えて泣き出す私を見ていた。涙が一粒、また一粒とテセラスのボディに注がれていく……。


「お願い……テセラ君……!」

「……??……!?…………」


 すると、テセラ君のモニターの目が青に変わり、私を優しい表情で見つめていた。


「テールさん、私です。テセラです。」

「テセラ……君……?」

「ブレインシステムの再構築が完了しました。ご迷惑をかけてしまい申し訳ございません」

「じゃ……じゃあ……」

「トネールさんが迎えに来てくれました。一緒に帰りましょう」

「テセラ君……テセラくんっ!!!うあああああああああ…………!」


 私は泣き疲れるまで泣いた。トネールさんもその様子を見て貰い泣きしていた。


「やっぱこの二人はただものじゃないな。俺もテールが一緒ならテセラは良い奴だって信じてたよ。さあ、戻るぞ」


 トネールさんは私とテセラ君を背負って非常階段を登ってこの、テセラスが作られた研究所を脱出したのだった。


   * * * * * * *


 あれから一週間が経過した。


 研究所の中にあった白骨死体は全て回収され慰霊碑の下に埋葬された。テセラ君が集めたデータのおかげでケット博士をはじめ、多くのスタッフの名前をここに刻む事が出来たのだった。施設内で見つかった物も沢山回収された後、施設自体老朽化のため、立入禁止となった。


 私はリンカーネからお香を持ってきて慰霊碑の前に置いてあげた。


「私達の先祖達も、こうやって死者を弔っていたみたいだよ」

「生きている者が死者の思いを繋ぐ……初めての感情ですね」

「テセラ君にもきっと仲間がいっぱいいたんだよね。私ね、大きくなったらテセラ君の事をもっと知って、いつしかケット博士の夢を叶えてあげたいと思うの」

「それはつまり、私の量産化でしょうか」

「そうだよ。もちろん人間のお友達として。博士が本当に作りたかったテセラスを沢山作りたいな」

「だいぶ、時間はかかると思いますが」

「上手く行けば、きっとこの世界にも早く緑が戻ってくるかもしれないからね!」


 私はテセラ君に笑顔を見せる。私の表情に合わせてテセラ君も笑顔になる。


「それからさ、この前見たノートをこの拠点のリーダーさんに見せたんだけど」

「あのノートをですか」

「皆に伝えるのはもう少し情報をまとめてから改めてお話しようって事になったんだって」

「そうだったのですね。それから、私からもテールさんにお話があります」


 テセラ君は真顔で私にこう言った。


「メインブレインが再起動した今、私の意識は本来のブレインと混ざり合い統一されました」

「じゃあ、あのテセラスは……」

「テセラスは、私の中にいます。これからも彼の記憶が私達を守ってくれるでしょう」

「……そっか」

「では、そろそろリンカーネに帰りましょう。レコルテさんのパンが待っていますよ」

「分かった!じゃあ行こう!」


 こうして、私とテセラ君はこの世界の大きな秘密を知り、またひとつ成長出来たような気がした。


 この世界にはまだまだ人々を襲うクラックや荒れ地に埋まった地雷や不発弾が残っている。


 それも、テセラ君が沢山いれば全てを無くすことが出来るのかな?


 新たな夢に向かって、私とテセラ君の新しい冒険が、これから始まろうとしている。


 ずっと先の未来の時代。


 世界を変える少女とロボットのお話。


to be continued.

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る