第2話 出会いから再起動へ
早苗月 令舞 Presents
『アフター・アポカリプス』
朝が来た。数百年前の淀んだ空が嘘みたいな快晴。
ここは復興活動の中心となったリンカーネの町。かつての戦争を生き延びた人達が先祖の罪は子孫が償うという習わしの下に作り上げてきた町である。
リンカーネの一角にあるジャンク屋。
「お父さん、おはよう!」
「おはようテール。今日も冒険か?」
「そうだよ、今から支度するね」
私の名前はテール・オルネシオ。ジャンク屋を経営している父のフェールと看護師をしている母のセレニテの間に生まれたの。この町では15歳の誕生日に先祖が犯した罪を色々教えられてその罪を償うために生きる事になるの。
私が教えられたのは、覚えている限りで、
「多くの兵士を殺して、仲間も死なせた」
「遺伝子改造でバケモノを生み出した」
「粗悪な製品を作りすぎて信頼を失った」
「人のものなら何でも盗んで私物化した」
……などなど、言い出したらキリが無い。生まれた子供は、両親の先祖が犯した罪をこんな風に背負わされ、一生をかけて償う事になるんだって。
昔の事は戦争があったぐらいしか知らないんだけど、世界が荒れ放題になるぐらいのひどいことをしていたみたい。
「これからどこへ行くんだ?」
「西の方にあるガラクタの山」
「そうか。俺もこの脚が良くなれば一緒に行きたいんだがな」
お父さんのフェールは昔冒険家として沢山の資材を集めて代々続くジャンク屋を切り盛りしていたんだけど、ある日冒険中に膝を損傷してしまい、冒険家を引退する事になってしまったの。
その時に運ばれた病院で出会ったのがあの時治療に当たっていたお母さんのセレニテ。必死の看病のおかげでお父さんは杖をついて歩けるまでには回復して、お母さんと結ばれ私が生まれた。
私は幼い頃からお父さんやその知り合いの冒険家の話を沢山聞いてきて、5歳頃から冒険家になるための勉強や訓練をしてつい先日迎えた誕生日に先祖の罪を聞かされ冒険家として生きる事になったんだ。
「お前に危険な人生を歩ませる俺を赦してくれって言った事を覚えてるよな」
「うん、でもお父さんは何も罪を犯してない。これは私が望んだ事だから」
お父さんは私の人生を危険な道にした事が自分の罪だと言ってたけど、私は別に気にしていないんだ。私にはこの道しか無いんだって、子供の頃から沢山の冒険家を見て思ってたんだから。
「それじゃあ、行ってくるね」
「気を付けて行くんだぞ」
さて、今日も冒険が始まる。でもその前に、行かなきゃならない所があるの。
「レッくん、いつものパンをお願い」
「うん、いつもパンを買いに来てくれてとても嬉しいよ」
「このパンのおかげで、私は沢山冒険が出来るんだからね!」
「それじゃあ、今日も無事に帰って来れるように祈りを込めたパンをどうぞ」
「ありがとう!今日も美味しそう!」
レッくんというのは、私の幼なじみ。ジャンク屋近くのパン屋の息子のレコルテ・ファーティリティ。このパン屋さんも先祖代々続いていて、彼の先祖は
「食べ物を捨ててばかりいた」
「貧しい人に食べ物を分けなかった」
などの罪を背負っているの。
昔から、レッくんの作るパンはとっても美味しくて、冒険のお供に欠かせないものになっているんだよ。背は低いけど、私より1歳年上。
「今日もみんなの役に立つものを沢山見つけて来るからね!」
「テールちゃんの作ってくれる部品のおかげで、パン焼き器も性能が良くなって美味しいパンが沢山焼けるようになったからね!」
「それじゃあ行ってくる!」
「気を付けてね!」
私は町を出発して、西の方のガラクタの山へ向かった。
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このガラクタの山はずっと昔にあった戦争で激戦地となった場所だったってお父さんが大事に持っていたノートで見た事があるの。地雷や不発弾なども沢山埋まっていて、多くの冒険家が被害を受けたみたいなの。先祖の罪を償うというのは、危険も多い。
私は自前の金属探知機で資源になりそうな金属を探し、地雷などがあれば爆発する前に処理している。幼い頃にある冒険家がうっかり地雷を起爆して脚を失う惨事になってたのを見た事がある。とても怖くて、あの時お父さんに泣きついたのを今でも覚えている。その人はお母さんが義足を付けてくれたから生き長らえたけど、彼はもう冒険はしたくないって言ってた。
私も、こんな事するからにはこうなるのかもしれない。けどそれが先祖が犯した罪だと言うなら、私達の手で償わなければならない。
ピピピッ!
私の手の金属探知機が強く反応した。
「地雷じゃない……けど、何だろう……」
その辺りを手探りで調べると、何だか箱のようなものが出て来た。周りを掘り返すと、まるでサイコロみたいな目の付いた模様が出て来た。4の目には画面らしきものが付いている。慎重に掘り返すと、丸い胴体と細い腕と円柱を半分に切った形の足が出て来た。
「こ、これって……ロボット……?」
私はそのロボットを持ち上げた。全長はおよそ50cm程だろうか。重量は……思ったよりも軽い。
「何だろうこれ………でも、何か……不思議なものを感じるよ……」
私はそのロボットをリュックに入れるとレッくんのパンをほおばり元気を貰って、家に向かって歩き出した。
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「ただいま父さん」
「お帰りテール、何を見つけたんだ?」
私は回収したロボットを見せてあげた。
「こ、これは……!」
「箱のようなものを見つけて、掘り返したら出てきたの。お父さん、これって直せそう?」
「そうだな……今ここにある部品では、とてもじゃないが心もとない」
「これ、私が直してみたい!ちゃんと動くか見てみたい!」
「分かった。俺も出来る範囲で手伝うよ」
「ありがとう!」
その日から、ロボットを直すためのパーツ集めの日々が始まった。使えそうなパーツを回収して組み込んでは足りないパーツを考えてまた集めに行く。
ただでさえ貧乏な家のジャンク屋だけど、これが成功したらここは有名になるのかな?
そんなこんなで一週間が経過した。ロボットは99%修復が出来たけど……。
「頭頂部のメインブレインだけはどう頑張っても直らないか。そうだ!あのお手伝いロボットのブレインを追加で接続すれば!」
私はメインブレインを繋ぐ回路と、この日の冒険でたった今持ち帰ったお手伝いロボットのブレインを接続した。
すると……!
ブゥン……。
サイコロみたいな頭の4の目の中央に、目のようなふたつの青い光が映った。私はその目を合わせると、首筋からピピッと音が鳴った。
「マスターの容姿、登録完了」
起動したロボットが合成音声で喋った。
「わっ!これもしかして、成功した!?」
驚く私を前に、ロボットが続けて言う。
「あなたの名前を教えて下さい」
「名前……えーっと……私の名前は、『テール・オルネシオ』!!!」
ピピッ
「『テール・オルネシオ』登録完了。続けて、私の名前を教えて下さい」
え?この子に名前を?そうね……じゃあ、なんとなくでも付けていいかな。
「あなたの名前は『テセラ』!」
ピピッ
「私の名前は『テセラ』登録完了。テールさん、これからはよろしくお願いします」
「よ、よろしくね、テセラくん!」
良かった。この名前気に入ってくれて。それにしてもこの子は何が出来るんだろう。
「テールさん、私の目的を教えて下さい」
「目的……そうね……じゃあ
『私のお手伝いをしてくれるかしら』!」
「私のお手伝い……了解しました。具体的に何をすればいいでしょうか」
そっか。この子は起動したばかりだから、人間でいえば赤ちゃんみたいなものなのね。それなら私が少しずつ丁寧に色々な事を教えてあげなくっちゃ。
「まず、散らばった工具をこの箱にしまってくれるかしら」
「散らばった工具を箱に。了解しました」
するとテセラはとてとてと歩き回って散らばった工具を拾って箱に入れた。
「こんな感じでよろしいでしょうか」
テセラによって箱に入れられた工具はかなりごちゃついてた。それでもダメと言ったら落ち込むかもしれないから褒めながらでもより良くしようと教える事にした。
「えらいよ!よく出来たね!次はこれより綺麗に入れられるようにしてね!」
「次は綺麗に入れる、了解しました」
これが、私とテセラが初めて過ごした時。テセラは思ったよりも良い子だった。ここから少しずつ仕事を教えて、ゆくゆくは冒険のお手伝いが出来るようにするのが当面の私の目標。まるで弟が出来たみたいな感じ。この子は私達に何を見せてくれるのかな。
ここから、私とテセラの毎日が始まった!
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