第10眠

 ――う~ん、むにゃむにゃ。


 むにゃ?


 ……。


 んん?


 ………………?


 目が覚めたら、また真っ暗闇の中だった。


 寝る前に太陽を作ったはずなのになんで?

 しかも、何故か身体中がバッキバキで、ちょっとでも関節を動かそうものなら途端に軋んだ音を奏で始める。

 チートがあるはずなのに、まるで運動した翌々日の筋肉痛に悩まされる中高年みたいな心境だ。


 ……


 ……


 ……


 違うわ。

 これ、マグマが冷えて固まったヤツだ。

 体を動かすと、それが割れたりして物理的に軋んだ音を立ててるだけ。


 寝る前にポカポカのマグマに包まれてたから、眠ってる間にそれが冷えて固まったんだと思う。

 たぶん、今の俺の状況を言い表すと「岩の中にいる」っていう感じなんだろう。

 まるで、西遊記に登場する孫悟空の気分だ。

 ……いや、あっちは石から生まれただけで、閉じ込められていたわけじゃないけど。


 ってか、なんでマグマ?

 マグマ要素なんてどこにもなかったのに、いつの間に大地ベッドが全部溶けちゃったわけ?

 俺が大地ベッドから目を離していた時間なんてほんの少し、火魔法相手に奮闘して太陽を作っていた間だけなのに。

 それなのに地球サイズの土が全部マグマになっちゃうなんて、そんなチートじみた大火力が一体どこから発生したっていうんだ。


 ……


 ……


 ……


 はい、どう考えても発生源は俺です。

 火魔法が暴走したあの時ですね、分かります。


 地表が炎で覆われたっていう印象だったけど、実際は中までこんがりと火が通っていたみたいだ。

 そう言われてみれば、火に覆われていなかった僅かな部分って、ちょうど大地ベッドを挟んだ反対側だった気がするし、火魔法が俺を起点に発生しているのなら横方向だけじゃなくて、下方向にも広がっていかないとおかしいよね。

 うん、納得、納得。





 まあ、そんなことはどうでもいいや。

 とにかく、目が覚めたからには起きるとしよう。


 こうも身動きが取れないと肩や背中の筋肉が強張ってる感じがするし、ほぐすためにも思いっ切り伸びをしたい。

 それに、せっかく太陽を作ったんだから、朝日を全身に浴びたいじゃないか。


 どれだけ分厚い溶岩石に埋まっているのか知らないけど、このくらいの岩盤を掘り抜くなんて朝飯前に終わる。

 地表までの距離なんてあってもせいぜい100kmぐらいだろうし、そんなのチートの前では誤差だよ誤差。


 ってなわけで、いざ、地の底から光の世界へと参らん!!


 チートを発動。

 俺は全身を拘束する溶岩石を引きはがし、一直線に地上へと向かう。

 数十kmにも及ぶ地殻を一足飛びに突き抜け、そしてとうとう地表へと躍り出た。


 出迎えてくれる太陽。


 燦々と降り注ぐ日の光。


 清々しいまでの朝の空気が肌を撫でる(空気無いけど)。





 ……





 ……





 ……





 ……はい、そんなものは一つもありませんでした。





 地表へと踊り出た俺を出迎えてくれたのは、噴火する火山の数々と、そこから氾濫するマグマの河川。

 空は分厚い雲で覆われ、大雨が轟々と荒れ狂い、幾筋もの雷が何度も何度も執拗なほどに大地に降り注ぐ。

 騒々しいまでの暴風が肌を叩き付け、そして、時折やってくる爆弾のような空気の塊が俺の体を空へと巻き上げていた。


 まるでこの世の終わりとも呼ぶべき光景を、俺は呆然と眺めたのだった。





 ……





 ……





 ……





 朝日……どこ……?





 ………………






 …………






 ……






 ……ぐぅ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ぐーたら転移 〜チートを貰って異世界に来たから、ひたすら惰眠を貪ることにした〜 増田匠見 @master1415

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ