第9眠

 ――う~ん、むにゃむにゃ。


 むにゃ?


 ……。


 んん?


 ………………?


 なんか顔に変な感触が……。

 これは一体…………そうだ!


 俺は寝る前にやっていたことを思い出し、すぐさま飛び起きた。


 おおっ、出来てる!

 ちゃんと地面が出来てる!!


 光が無いから何も見えないけど、チートな感知能力がそれをバッチリと捉えている。

 何よりも足の裏から感じる反発が、間違いなくそこに大地があることを訴えていた。


 成功だ。

 完全に望み通りの物が出来上がって、思わず頬が緩んでしまう。

 身体に感じる重さも地球と同じぐらいだし、あとは大地が大きくなり過ぎないように土魔法を止めれば完成である。


 辛抱たまらず、そのまま地面にダイブ。

 そしてすぐさまゴロン。


 ……


 ……


 ……


 そうそうこれだよこれ、望んでいたのは。

 自分の体重をしっかりと預け、まるで大地に抱かれているかのような安心感。


 はぁ~、たまらん。


 仰向け、うつ伏せ、横向き、からの寝返り。

 そしてそれをもう1セット。


 んんんんんんん~~、最っっっ高ぉぉぉぉ!!


 ビバ、大地!

 サンクス、チート!

 重力、バンザーイ!!


 てなわけで、早速おやすみなさーい。





 ………………






 …………






 ……






 ……って、ちょっと待った。

 よく考えたら、このまま寝るのはちょっと勿体ない。


 せっかく、ごろ寝できる環境が整ったんだから、もう少し睡眠の質にもこだわりたい。

 具体的には寝起きの良さについて。


 もちろん、チートがあるから、いつでもどこでも快眠が得られる。

 それこそ、たとえ火の中水の中でだって可能だ。


 だけどさ、目が覚めた時に世界が真っ暗なままっていうのは、どうにも味気ないと思わないかい?


 寝たらいつかは目が覚める。

 覚めない眠りはない。


 眠っている時だけじゃなくて、起きた時のことも考えなくちゃ片手落ちと言わざるを得ないだろう。

 うむ、寝起き良ければ全て良しと、昔の人はよく言ったものだ。





 ……ってな訳で、快適な寝起きのために、もう一度『光』の創造に挑戦しようと思います。

 いくらチートがあるからって、朝が来ないと、なんか調子が出ないもんね。


 前回の失敗を教訓に、慎重に慎重に手の先に魔力を込めていく。


「『光』よ!」


 ……あれ、何も出ない?

 う~ん、込めた魔力が少なかったのかな。


「『光』よ!!」


 ……出ない。

 この前はちゃんと出来たのに何で?


 う~ん、ちゃんと魔力は放出されてるよな。

 しかもちゃんと魔法が発動している感覚はあるのにどうして……あっそっか、『光』は光じゃないから、目には見えないんだった。

 失敗、失敗。


 え~っと、じゃあどうしようかな。

『光』じゃなくて光を生み出せば良いんだけども…………なんか光と『光』って紛らわしくて、こんがらがってくるんだよね。

 なんていうか自分の中でイメージが定着しちゃってて、どうにも使い分けるのが難しいんだ。


 それになんだろう?

「光」って、ちょっと求めてるものと違う気がするんだ。

 例えば、もし仮にさっきの『光』の魔法が上手くいったとして、それで良い感じにスッキリ目覚められるかと言われたら疑問だ。

 ただ単に眩しいだけで、「朝が来たー!」とは思わないと思う。


 だからそう、俺が欲しいのは『明るさ』じゃなくて『朝』。

 つまり『太陽』だ。


 ……


 ……


 ……


 えっ、太陽ってどうやって作るの?

 たぶん火魔法でいけると思うけど……いけるか?


 まあ取り合えずやってみて、あとはチートがなんとかしてくれるでしょ。


 そう思いながら、俺は手の先に魔力を集中させていく。


 「火よ!」


 ……出ない。

 でも、それは想定内。

 やはり変な違和感が魔法の発動を邪魔をしてきたから、それを押し流すイメージでどんどん魔力を込めていく。


「火よ!!」


 ……まだ出ない。

 もっと、もっと、もっと。

 とても巨大な、それこそ天文学的サイズの『火』を生み出すのだから、この程度の魔力で良いはずがない。

 チート級の魔力をフルに使って、空間が軋んでもなお手の先に集中させていく。


「火よぉぉぉぉ!!」





 ――そして爆ぜた。





 手の先から、燃え盛る炎が嵐のように荒れ狂って溢れ出す。


「うぉぉぉぉぉぉ????」


 一瞬で俺の身体はその奔流に飲まれてしまい、視界が炎で埋め尽くされる。


 尋常ではない炎の嵐。

 しかも、それは俺の魔力を燃料にしてさらに大きく規模を拡大していった。


「……はっ、ダメだダメだ。このままじゃ『光』の二の舞になってしまう」


 少しだけパニックになったものの、二回目ということもあってすぐに我に返って周囲を確認する。


 見渡す限り一面の火の海。

 だけど、これぐらいならまだなんとか収拾できる範囲内だ。

 そう考え、俺は拡大の一途を辿る魔法の炎を急いで掌握し始めた。


 生み出した炎は、すでに地上のほぼ全てを覆いつくしており、せっかく作った自慢の大地ベッドが見るも無残な地獄と化している。

 だからまず、しなきゃいけないのは大地と炎を切り離すことだ。


「うおぉぉぉぉぉぉ!」


 チートをフル稼働させて炎を一気に掌握。

 その全てを宇宙そらへと打ち上げ、なるべく大地ベッドから離れた位置に固定する。


 ひとまず大地ベッドはこれでいいとして、問題はあの炎だ。


 いい感じに太陽っぽく仕上がっているけど、今もなお膨張し続けていて、そのまま放っておいたら炎が溢れて世界を埋め尽くしてしまいそうだ。

 もちろん、せっかく作った大地ベッドだって無駄になってしまう。


 だから、そうならないように頑張って押しとどめる必要がある。

 チートで炎の周囲に力を掛けて圧縮。

 どれだけ炎が膨れようと、どれだけ炎が溢れてこようと、ひたすらに圧をかけていく。


 圧縮。


 圧縮。


 圧縮。


 圧縮。


 圧縮。


 圧縮。


 まるで炎が膨れ上がるという事象そのものを否定するかのように、圧縮して圧縮して圧縮して圧縮して、炎を構成するもとすらも押し潰して、その場に押し止めていった。






 そしたら、なんか変な反応を起こし始めた。





【鑑定結果】


 炎を構成する素と素が、圧力によって融合している状態。

 いわゆる核融合反応。





 ふぁっ?ふぁぁっっ??ふぁぁぁっっっつ?

 えっ、何これ?嘘ぉっ、嘘ぉっ、嘘ぉっ???

 は、へ、あ、え、いおうえぇぇぇぇぇ????


 核融合反応ってアレだよね、なんかよく分かんないけどヤバいヤツ。

 大丈夫?これ大丈夫?本当に大丈夫??


 あっそうだ、俺にはチートがあるから放射線とかも平気だ平気。

 落ち着け、落ち着け。

 ひっひっふー、ひっひっふー。


 ……


 ……


 ……


 ん?あれ??

 そういえば太陽って確か、核融合反応を起こした水素で出来てるんじゃなかったっけ?


 ……はい、なんか出来ちゃいました太陽。


 ってか、良く考えたら炎が膨れ上がってたのって、俺が魔力の供給を止め忘れてたからだわ。

 勝手に『光』の時と同じだって思い込んじゃったけど、『光』の時と違って魔力の供給を止めてないんだから、そりゃ炎も膨れ続けるよね。

 完全に俺のせいだわ、てへぺろ。


 まあ、何はともあれ結果オーライ。


 大地が出来て、太陽も出来た。

 これなら当初の予定通り朝だって迎えられるし、なんならポカポカの陽気に包まれてお昼寝だって可能だ。


 なんやかんやあったけど、これで心置きなく大地ベッドで寝ることが出来る。

 一度寝るのを我慢しているだけに、もはや俺の睡眠欲は最高潮。

 もう辛抱たまらん!ってことで、俺は勢いよく大地ベッドに向かってダイブを敢行した。





 そしたら、大地はドロドロに溶けていた。

 ……なんでや。





 こうして俺は、ポカポカの溶液マグマに包まれて眠ることになったのだった。





 ………………






 …………






 ……






 ……ぐぅ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る