第15話  とまった、せかい


「あんた、変な子よね」


 いきなり失礼である。まあ、前世から私は変わり者とは呼ばれていたが。


「久しぶりなのにずいぶんと、ぶれーではないかね?」と内心、今考えていた事のやましさを見られたのではと動揺を隠しながら尋ねる。


 リィズははぁ、と息を吐き出して「……見た目と声はすっごく可愛いくなったのに、考えは難儀ね……」と言いながら肩をすくめるようにさらに言った。


「私、好きに生きていいから、って言わなかったっけ?」


「たしかにそれに類する事ならきみに言われたな」


 そういうとリィズは「まずはその言葉遣い、普通に直しなさいよ」とぼそっと言うので、「わたしはこれがふつうだが?」というと、「そうじゃなくて!」とつっこまれた。


「貴女ね、今3歳! それに女児! その普通は普通じゃないから、もうちょっと可愛らしくできないの?」


 と封建社会的な女性を男性の都合のいい理想像に押し込めるような価値観をさらりというので反発しようと思ったが、ふと考えを変わり言った。


「まあ分かった、ぜんしょしてみよう。まあそれは置いておいて……ここは、ほんとうに、異世界なんだなあ……」


 と私はため息をつく。それを見てリィズは気遣うように言った。


「そう、異世界だし、今貴女は3歳だし女児なの! だからもっと可愛らしくていいし、まあ、とにかく、3歳児なら3歳児らしく、『神とは』『社会システムとは』『世界とは』とか顔をしかめっ面しなくていいのよ。全部背負おうとしたって、3歳なんだから」と少し優しく微笑んで言う。


「きみは……そうだな、まあ、前世よりは、だんじょどーけんで、ほーけんせーどに女性をしばり付ける地球よりは、まっとうだし、ローマに入ったならローマにしたがえ、ということばもある。わかった」と答えると、「あら、少しは丸くなったじゃない」と微笑みながらリィズは言う。


「まあ、せおうわけではないが、しゅしんさまから見て、このせかいはどう見えるのかね……あ、お見えになられるので、す、……わ?」と最後に自信なく言い直し語尾を上げそれっぽくしようとしたが、思いっきり失敗した。


「そのとってつけたの……!」と笑いを堪えるような顔をしたかと思うと、思い出したかのように真面目な表情で見つてきてめリィズは言った。


「そうね……貴女が考えていたのはかなり当たっているわよ。この世界は神の力がかなり自由に用いられているから人間の知恵が頭打ちになっているわ。まさに停滞よ。貴女はこの世界の、貴女が暮らしているような生活水準が、どれくらい前に産まれたか分かる?」


 と、問いかけられ、私は「50年ほどだろうか」と多めに答えると、リィズは悲しげに首を横に振って答えた。


「正解は1000年前くらい。この世界の技術は、貴女のいう自然科学は、本当に頭打ちの状態よ」という。


「私は知っての通り、『叡智』の女神で、配下に学問の神もいるけど、比較的発達しやすく発達するのは、文学とか芸術……でも、科学技術の発達があればもっと表現の幅が増えるはずなのに、その頭打ちのせいで、もう伸びしろもなくなってきてる」


 そう、遠い目をして呟いて、またこちらを見て見つめ合うように語った。


「あと貴女の前世でやってた、社会科学っていうの? それは、古臭い昔からの伝統的な内容の焼き直しばかりが進んで、新しい『社会』なんて、そんな簡単に考えられない」


 そう言い、今度はまるで達観したような目をして言った。


「王や皇帝は、神から権力を授かって行使するから、悪政なんか敷いたら即、神から加護の取り消しがされて、王なんてすぐ変えられる。だからこの世界の社会はとても安定しているけど……」といいながらも、憂鬱そうだ。そしてリィズは続けた。


「同じような感じに代々王は伝統を守って悪政だけは敷かないで、前例を踏襲するだけ。だから同じ事が1000年経っても行われているわ」


 と、リィズは相当悩んでいるように言い、ため息をついた。



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