のらねこキャンプ場(1)

 薫の家の庭では、銀杏から落ちた葉が、地面に金色の絨毯を織りなしている。すっかり寒くなった。そして、日が暮れるのが早い。午後四時には、窓から差す光は斜めになり、銀杏が、縁側に長い影法師を伸ばしている。読書をするのには、もう照明が必要だった。薫は、セーターの袖口を伸ばし、立ち上がると、照明の紐を引っ張って、居間の電気をつけた。そして、めくり忘れていた壁の、月めくりカレンダーを、めくった。五日も前からから十一月だった。

 庭で落ち葉とじゃれていたホーリーは、薫の家に明かりが灯ったのに気づいた。

「吾輩さん、夕食、食べに来るでしょ?」と、ホーリーが、吾輩にたずねた。

「いや~嬉しいにゃぁ。ご馳走になります」と、吾輩は、自転車のサドルの上から返事をした。

 薫は、縁側の雨戸を閉め始めている。雨戸が全部閉められてしまうと、風呂場の開けた窓から家に入らないといけない。

 ホーリーと吾輩は、庭の靴脱石から縁側に駆け上った。

「お母さん、吾輩さん来たよ!」と、ホーリーが元気な声で言った。

「おじゃまします。薫、今晩もご馳走になりたいにゃ!」と、吾輩は、ホーリーの後ろから上がって言った。

「はい、いらっしゃいませ。吾輩さん」と、薫は、雨戸の一枚を閉めながら、言った。

「いつもすまにゃいにゃぁ。あと、テレビ見たいにゃ」と、吾輩は、薫にお願いした。

 薫は、テレビのリモコンを操作した。

 パチっと音がして、テレビが映った。

 薫にねだって買ってもらったテレビである。

 土下座までして、懇願して買ってもらったテレビである。

 地上波デジタル対応テレビである。

 実は、新しく買わなくても、家にテレビはあった。ブラウン管の骨董品が。ナショナル製で、足が四本生えている。地デジ対応していないから、実はつい先日まで、この家ではテレビは、まったく見られなかったのである。

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