第29話 許します

 過去に私は、彼女たちを助けたことがあるらしい。


 聖女の仕事を手伝ってあげたり、修行についてアドバイスをしたり、日々の疲れを癒やしてあげたりしたそうだ。


「王国の教会で辛かった日々を過ごしてきた中で、クローディさんに助けてもらった私達は、心の底から感謝していたんです」

「そ、そうなんですか……」


 それほどまでに感謝されることを、私はやってきたのかな。


 なんとなく、そのようなことをした記憶が薄っすらとあるような。でも、ほとんど消えている。昔の私は、かなり余裕があったみたい。自分も大変だったはずなのに、他の聖女達を助けていたなんて。しかも、かなり多くの聖女達を。


 1人で聖域を維持していた頃の私だったら、無理だろうな。その時は、本当に大変だったから。


「それなのに私達だけ教会から逃げてきて……。貴女を残して私達だけ、のうのうと生きて……」

「本当にごめんなさい! 謝って済むことじゃないことはわかっています!」

「でも、謝りたいんです! どうか許してください!」


 謝罪を繰り返す彼女達。自分達だけ助かってしまったことに罪悪感を抱いているのだろう。だけど私は、彼女達を恨むような気持ちは一切ない。だって今まで、忘れていたから。そんな事もあったのかと、他人事のように思えてしまうのだ。


 だから、気にしないでほしい。


「許します」

「……え?」

「あなた達の事を許す、って言いました。気にしていませんよ」


 私がそう言うと、驚いた表情を見せた後に、目に涙を浮かべていた。何度も何度も繰り返し、ありがとうと言って再び私に抱き着いてきた。ちょっと暑苦しい。


 そんな彼女達を見て、冷静になる私。彼女達と私で感情に、かなりの温度差があるみたいだ。




 彼女達はただ心配していただけじゃなくて、私を教会から連れ出すよう帝国の人に頼んでくれていたらしい。私を帝国に連れてくるための計画も進んでいたらしい。


 しかし、私は頑張りすぎた。それで連れ出すことは困難になってしまったそう。


 帝国側も、聖域を失わせるための目的が果たせずに苦労していた。どちらも、上手くいかない状況が続いた。結局、王国のパトリック王子が最終的に手を下して、私と帝国は落ち着いた形に収まったという訳だ。


 彼女達と再会できたことは嬉しいけど、素直に喜べない部分もある。


 帝国は、この後どうするつもりなのか気になる。何か目的があって、彼女達を保護してきたはずだから。


 私と彼女達を会わせた。これにも目的があるはず。これで私は関係ないと言って、すぐ村に帰ることも出来るけれど。でも、現状を知ってしまった今は彼女達のことを見捨てられないなぁ。


 どうにか出来るのなら、どうにかしてあげたいと思ってしまった。そして私には、それだけの力がある。なんとか出来そうな力が。


 だけど、絶対に無理はしない。無理をして大変だった過去があるから。もう1人で頑張って、聖域を維持するような事なんて嫌だからね。


 どう動くべきか、真剣に考えないといけない。

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