第28話 帝都の教会
帝国の兵士に案内されて、とある場所まで来ていた。それは、とても見覚えのある建物だった。
エルメノン王国以外には無いものだと思っていたけれど、帝国にもあるんだ。その建物を観察しながら、私は驚いた。
近くで見ると、少しだけ違う部分もある。だけど、おおよそ教会に似た建物の中に私は入っていく。
中に入ると、そこも見覚えがある内装。あまり思い出したくないけれど、やっぱり懐かしい気持ちになってしまう。ここに似た場所で私は暮らしてきた。その記憶は、まだ私の中から消えていない。
ここに、会わせたいという人が待っているらしいけれど。
「クローディさん!」
「わっ!?」
女性の声で名前を呼ばれて、誰かが走ってくる。誰なのか判明する前に、私は抱きしめられていた。柔らかい感触に包まれている。私を抱きしめてきたのは淡い金色の髪をした女性。
「本当にごめんなさい、クローディさん」
「えっと」
涙声で謝罪する女性。抱きしめられたままの私は困惑する。どういうことだろう。
「貴女が生きていてくれて、本当に良かった」
「えーっと」
まだ抱きしめられたままの私は顔を上げて、彼女のことを確認する。どこかで見たような顔をしている気がするけど、思い出せない。声も聞いた事があると思う。
おそらく、王国の教会に居た人。だけど名前が思い出せない。そんな関係の人が、私に泣いて謝る理由なんてあるんだろうか。私には、分からない。
すると、彼女以外にも教会の礼服を身に纏った女性たちが近寄ってきた。
教会の礼服を見るのも久しぶりだ。私は今、帝国の一般市民というような服を着ているので、少し場違い感があるかもしれない。私が着ていた教会の礼服は着ないで、村に置いてあるから今は手元にない。
礼服を着た女性が教会に似た建物に集まると、まるでここが教会のようだと思ってしまう。いつの間に私は、王国の教会に戻ってきてしまったのだろうか。戻りたくはなかったのに。そんな勘違いをしてしまいそう。
その女性たちは、やっぱり見覚えがあるけれど名前までは思い出せない。そんな、人達だった。
そういえば私って、教会に居た人間を覚えているだろうか。思い出せない。顔は、何となく思い出せるけれど名前とかは全然出て来ない。だけど、私が教会に居た頃に彼女たちも居たのだろう。
「お久しぶりです、クローディさん」
「無事でよかったです」
「ずっと心配していたんです」
「貴女に謝りたかった」
口々に、私のことを心配してくれていたかのような言葉を投げかけられる。でも、私は彼女たちの名前を覚えていない。あの頃の私は、聖域の維持だけに集中していたから。他のことは気にしていなかったのかもしれない。だから覚えていないのかも。
彼女たちは、私のことを覚えているようだけど。それが申し訳なかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます