第30話 王都に迫る危機 ※パトリック王子視点

「パトリック様、王都に接近する魔物の大群が!!」

「なんだと!」


 執務室に駆け込んできた兵士がもたらした急報に、パトリック王子ははテーブルに手をついて勢いよく立ち上がった。


「それは本当なのか!? 王都に魔物の大群が接近するなんて……。そんな事、ありえないだろう」

「各方面から、魔物の大群が迫ってきているんですッ!」


 ここ数十年、王都に魔物が現れるなんて話は一度も聞いたことがなかった。聖域があるから、魔物が接近するのは不可能だった。その聖域は失われてしまったけれど、それでも魔物が王都に侵入するなんてもっと先のことだろうと無意識に思っていた。今まで大丈夫だったから。


 信じられない状況だとパトリック王子は否定しようとするけれども、兵士が事実の報告を続ける。各地から早馬で次々と寄せられる情報によると、非常にマズイ状況だということを。それを聞いて、パトリック王子は表情を歪めた。


「兵士は? 王都を守っているはずの兵士は何をしていた? なぜ魔物に王都までの接近を許したんだ!!」

「各地で発生している魔物の問題を対処させるため、派遣を命じたのは殿下ですよ」

「く……」


 そうだったと、パトリック王子は兵士に指摘されて思い出した。聖域を再展開させるための目処が立たないため、各地に兵士の派遣を命じていた。これで魔物の問題がすぐに解決すれば、自分の手柄になるはずだと考えて。王国の民に認めさせる功績を得られるはずだった。


 しかし、現実は違っていた。


 王都まで魔物が接近してくるなんて、予想すらしていなかった。なので、ほとんど全ての兵士を派遣していた。つまり今、王都には兵士が居ない。早急に事態を収拾するためとはいえ、あまりにも迂闊だった。


 そしてパトリック王子は今、自分が非常に危険な状況に置かれていることを改めて自覚した。


「す、すぐに各地へ派遣した兵士達を呼び戻すんだ!」

「それも難しいかと」

「なぜだ!?」


 パトリック王子の提案を兵士が否定すると、彼は理由を問いただす。すると兵士は開き直ったような表情で堂々と答えた。


「彼らを呼び戻すためには時間が必要です」

「ならば、どうすればいいんだ!?」


 机を叩いて、高圧的な態度で兵士を問いただすパトリック王子。そんなに否定するのであれば、何か効果的な案を今すぐに出せと。


 しかし、兵士にも良案など思い浮かんでいなかった。自分は事実を伝えに来ただけだから。目の前に居る責任者も頼りにならないので、もう助かるのは無理だろうと、半ば諦めた様子で兵士は黙って立っていた。


「くそっ……。サブリナ!」


 このままではマズイ。何か打開策は無いのかと考えを巡らせるパトリック王子は、サブリナのことを思い出していた。


 彼女が持つ聖女の力を駆使すれば、この困難な状況をどうにかできるのではないかと。パトリック王子は執務室を飛び出して、彼女に会いに行った。

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