第10話 国境の森の中で
ソレズテリエ帝国に向かって、私は1人で歩き続けていた。地図も何も無いので、おそらくこの方向だろうと勘を頼りに進んでいる。
この道は正しいのか。いつ辿り着けるかも分からない。だけど、不安はなかった。何も気にしないで、とりあえず前に進んでいくだけ。
森の中を歩きながら周りにある自然を観察してみたり、自分の体や聖女の力について確認しながらマイペースに進んでいる。少し前までハイテンションだったけれど、時間が経って少しだけ落ち着いてきた。
冷静になって、色々と問題点が浮かんできた。改めて考えてみると、私が他の国へ行っても大丈夫なのかどうか。
こんな薄汚れた礼服を着た幼い見た目の私が、ソレズテリエ帝国に行って受け入れてもらえるのかしら。
持ち物が何もなくて、お金の問題があるだろう。向こうに行って、生活するための手段がない。
私を解放した兵士達は、私が森を越えて行けるなんて予想していなかっただろう。森の中で野垂れ死ぬはずだと、思っていたに違いないわ。もしくは、指示を無視してエルメノン王国に戻るだろうと考えていたとか。
どれだけ歩き続けても疲れを感じないけれど、気分で休憩する。木の根元に腰掛けて、木々の間からわずかに見える青空をぼーっと見上げた。
「……ここは、平和だなぁ」
近くに魔物の気配を感じる。だけど、自分の周りに簡易的な聖域を展開することで近寄れなくしていた。魔物たちは姿を見せることなく逃げて行ったようだ。わざわざ追いかけて倒す必要もないだろう。
奥底から溢れてくる力をコントロールしないといけない。自分の中に、こんなにも大きな力があるなんて知らなかった。今までは、聖域を維持するために消耗してきたのよね。
聖域を維持することだけに集中してきた。そのためのコントロールなら完璧だったけれど、その他のことに活用するためには新たなコントロール方法を学ぶ必要がありそう。
今のままだと、無駄が多い。十分に発揮することが出来ない。この力を、ちゃんと使いこなせるようになるまで、しばらく修業が必要そうだった。
私は再び空を見上げながら、これからのことについて考えてみる。
しばらく、食事も睡眠も必要なさそう。聖女の力を駆使することで、普通の人よりも少ないエネルギーで長い時間活動することが出来るから。特に今の私なら、膨大な力があるので無限に活動することも出来るかもしれない。
森の中に生えている植物を採取して、食べ物を確保することが出来る。いつでも、空腹を満たす事ができる。
睡眠についても、魔物の危険がないので寝ることが出来る。今まで、1日中ずっと聖域を展開し続けてきた。眠ったとしても、聖域は解除されない。だから、いつでも安全。
私にとって森の中は、暮らしていけそうなほど安全な環境だった。この森の中で、1人で生きていくことも可能だろう。
けれど、それだと寂しい。誰かと会話をしたり、一緒に食事をしたり、触れ合ったりしたい。孤独に過ごすのは嫌だと思った。1人で生きていくプランは、最終手段。
やっぱり、ソレズテリエ帝国に行ってみよう。そこで新しい人生を歩んでみたい。そう考えて立ち上がり、再び前に進み始める。
どれぐらい歩いただろうか。森の中で何度か野宿を繰り返してきて、ようやく人の気配を感じた。
近くに誰か住んでいる。ソレズテリエ帝国の人間なのかな。だが、気配はそれだけじゃなかった。近くに魔物の気配もある。これは、危ないかもしれない。
「キャアァッ!!」
そう思った瞬間、悲鳴が聞こえてきた。私は考える前に自然と、声の聞こえた方へ走り出していた。
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