第11話 救助
声が聞こえてきた方へ近づくと、誰かが地面に倒れているのが見えた。倒れている人に縋り付く中年女性の姿も見える。いや、縋り付くというよりも庇おうとしているのか。
彼女が叫び声を上げた人だろうか。そう思いながら近づいて、少し離れた場所から話しかける。怪しまれたり危険だと思われないように、気をつけて。
「大丈夫ですか!?」
「ま、魔物が近くに! 危ないから、貴女も逃げないとッ!」
「安心して下さい。この辺りにいた魔物は逃げていきました」
彼女たちを襲っていた魔物は、私が到着する前に逃げていった。私が展開する聖域の中に留まるのを嫌がって、気配は遠くへ離れていく。そっちの方からは人の気配を感じないので、大丈夫だと思う。
彼女は私に危険を知らせてくれて、逃げたほうがいいと言ってくれた。森の中から急に現れた、こんな不審な女に対して。
魔物が居なくなった事を伝えると、彼女はホッとしたように息を吐いた。
「助かったの……。でも、この人が!」
しかし、倒れている中年男性の状態を思い出すと、焦ったような表情を浮かべる。2人は夫婦だろうか。私は彼女の傍まで近づき、一緒にその男を見下ろした。
魔物に爪で引っ掻かれたようで、彼の腕には深い傷があった。そこから血が流れて地面に溜まっている。とても酷い怪我だ。意識も失っている。このまま放っておけば出血多量で死んでしまうでしょう。
「彼は私を庇ってくれて。誰か助けを呼んできてほしい。この近くに村があるから、そこに行って助けを」
「それじゃあ、間に合わないと思います」
「そんなッ!」
村がある場所までの距離は分からないけど、今から助けを呼びに行って戻ってくる間に、男性は失血死してしまう可能性が高い。間に合わなくなる。
だけど、私には男性を助ける方法があった。誰かを庇って傷を負った人を見捨てる事なんて出来ないから、助けたいと思った。
「私に治療させて下さい」
「ど、どうするの……?」
聖女の修行で、傷を癒やす技は習得していた。今まであまり使う機会は無かったし、力が溢れすぎている今の状態では使ったことがないので、どうなるのか分からない。でも、絶対に成功させる。失敗はしない。
力を込めすぎないように集中して、気を失っている男性の傷を治療する。
「傷が……!」
「ふぅ」
コントロールが大変だったけれど集中して、なんとか成功させた。男性の苦しんでいた表情が、和らいだものに変わる。
これで命の危機は去った筈だ。後は、意識を取り戻すのを待つだけ。
「私の力で治療しました。これで大丈夫だと思います」
「ありがとうございます! 本当に、ありがとうございますッ!」
「いや、助けることが出来て良かったです」
彼女は泣きながら何度も頭を下げて、お礼を言ってくれた。
怪しまれなくて、良かった。森の中から突然現れた不審な女なのに信じてくれて、感謝されて嬉しかった。
聖女の力を使って、こんなにお礼を言われたのは初めてかもしれない。この2人を助けることが出来て、本当に良かった。間に合って良かった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます