第5話 連行される馬車の中で
「ふぅ……」
「……」
ため息をついただけで、目の前に座っている男が私の顔を睨んできた。とても嫌な雰囲気。
私は今、兵士に監視されながら馬車に乗っている。目の前だけじゃなく、左右にも兵士たちが座っていて、取り囲むような配置で私を見張り続けていた。
彼らは不機嫌そうな表情。ここに居る皆、誰も彼もが殺気立っている感じだった。この状況から逃げ出すことは不可能だろう。私は、逃げるつもりもないけれど。
考え事をする時間は、たっぷりあった。なので私は馬車の窓から見える外の景色を眺めながら黙々と、今の状況について整理している。
兵士に乱暴されたりしなくて良かった。卒業式のパーティーで拘束されたときは、少しだけ痛かったけれど。その後は、特に何もされていない。痛いのは嫌だ。聖女の力があるので耐えることは出来るけれど、なるべくなら避けたい。
もしかすると、幼い見た目が幸いしたのかもしれない。私がもう少し大人だったら、もっと酷い扱いを受けていた可能性もある。流石に彼らも、子供のような見た目をしている人を痛めつけようとは思わなかったのだろう。
それとも、聖女だからだろうか。私の役目について彼らも知っていて、それなりの対応をしてくれている。だけど、王子の命令だから兵士たちは逆らうことが出来ないとか。
兵士たちの視線や雰囲気から、感謝するような感情は全く伝わってこない。だから、この予想は間違っていそうね。
教会には、どんな風に報告されるんだろうか。聖女である私が国外追放されたら、あの人達はどう対処するのかしら。色々と問題ありそうだけど。
私の婚約相手だったパトリック様。私が聖域を維持する役目を引き継いだ、先代の聖女の子供である。
役目を引き継ぐ時に、色々と揉めたらしい。王様が聖女に一目惚れして、結婚するために本来の手順を無視して強引に、別の聖女に役目を引き継いだ。
今までにない特例として、認められてしまった。王様のわがままによって、先代の聖女は役目を終えた。
本来であれば次に役目を終えるはずだった聖女の順番などを無視して、後任となる聖女の準備も整っていない状況で。
そして幼かった私が、役目を引き継ぐことになった。幼いけれど、聖域を維持することが出来るぐらい聖女の力があったから、役目を背負わされることになった。
役目を終えた先代の聖女は、すぐに子供を生んだ。それが、パトリック様である。そして、生まれてすぐ私の婚約相手になることが決まっていた。
教会と王様、先代の聖女がどういう話し合いをしたのか私は知らない。けれども、そういうことになっていた。
そんな経緯で結ばれた婚約関係は、一方的に破棄されてしまった。
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